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「母さんの事故はただの事故じゃなかったのか…?」
「ミレーヌは殺されたようなものだよ。もっとも、ローブの男は殺すつもりはなかっただろうけどね。」
ソルはうつむき黙り込んだ。
「ソルのお母さんの死と俺の両親の死はどう関係してるんですか?」
「カイはローブの男の正体に気付いたんだ。あの時カイは相手に怪我を負わせてる。おそらく同じ場所に怪我をしてる人物を見つけたんだろう。しかしそれだけでは確証がないからそいつを探ってたんだ。レオンが帰ってくるまでに俺が決着をつけるとルーナには話してたそうだよ。」
ローブの男が捕まればソルの安全も保証される。
カイはきっとセントラルで父子が共に暮らせるよう、一刻も早く捕まえたかったに違いない。
しかし、カイが探っていることを気付かれてしまったのだ。
「カイが殺されるなんて信じられなかったよ…。カイの強さはこの国でもトップクラスだったからね。相当やり合ったはずなのに、そいつの痕跡は全く残っていなかったって聞いてるよ。」
「あぁ、相当な実力者だろうね。だからこそレオンには何も伝えないことにしたんだよ。相手はレオンの周りも探るだろうからね。ソルはレオンと全く関わりのない子として育てる方がいいと思ったんだ。」
「そうか…。今まで自分の子の存在を知らずに生きてきたのは寂しくないと言ったら嘘になるけど、僕は知っていたらやはり会いに来てしまってたと思うよ。きっといつかローブの男にも気付かれてしまっていただろうね。今こうして立派に育った息子に会えるのはレイさん達のおかげなんだね。」
レオンはソルの顔をじっと見つめ微笑んだ。
その目には涙がたまっていた。
「シエルくん、何故君たちがルダンに引っ越すことになったかは知ってるかい?」
「父さんが死んで、俺たちのことを心配した博士がソニアおばさんが元々住んでいた家に呼んでくれたって聞いてます。」
「博士が心配してってのは間違いではないけど、ルーナはカイとの思い出が詰まった家に住み続けるつもりでいたんだよ。でもルダンに里帰りしている間に家が荒らされてたんだ。強盗に入られたってことになってるけど、盗まれたものは何もなかったらしい。ルーナもわたしも、カイが何かローブの男の正体にまつわるものを残してないか探しに来たんだと思ったよ。このままセントラルに住むのは危険だってことでルダンに引っ越したのさ。」
「母さんは父さんから何か聞いたり預かったりはしてなかったんですか?」
シエルからの問いにレオンが静かに首を横に振った。
「カイは君たちを危険に巻き込むようなことはしないさ。きっと自分一人で解決するつもりだったと思うよ。僕にくらいは教えてくれてもよかったのに。」
「ミレーヌの死がただの事故じゃないことをレオンに言えなかったのさ。言えばレオンはミレーヌをおいて東部へ行ったことを後悔しただろう?」
レオンは悲しそうな顔でふっと笑った。
すべてを知った今レオンはまさに自分を責めているのだろう。
カイはそんなレオンのことをよくわかっていたのだ。だからこそ自分だけで解決するという選択をしたのだ。
「カイが死んでからローブの男については何一つ進展はなかったんだ。だけど5年前ルーナからローブの男について分かったことがあるから会って話したいと手紙が来たんだよ。」
「5年前って…。」
「そう。ルーナはうちへ来ることなく殺された。チガヤを握ってたと聞いてアイツだと思ったよ。チガヤはミレーヌのマナフルールだからね。ミレーヌが死んで数年経ってもまだ執着してるんだ。」
カイが殺された時には痕跡すら残っていなかった。
なのにわざわざチガヤを残していったのは宣戦布告だったのかもしれない。大人しくしている気はないと。
「ルーナの手紙には他にも書いてあったことがあるんだ。ローブの男が狙っているからミレーヌのお墓を守ってほしいと。わたしはすぐにミレーヌのお墓にトリテレイアの守護をかけた。もともとルーナのオトギリソウとわたしのミスミソウで隠して守ってはいたけど、ルーナが殺された時オトギリソウは枯れかけたんだ。」
オトギリソウの花言葉は「秘密」、ミスミソウは「内緒」。
ルーナとレイで結界を重ねがけをして隠していたが、レイはさらにトリテレイアの「守護」を重ねた。
普通マナフルールの持ち主が亡くなっても、生前咲かせたマナフルールは役目を終えるまで枯れることはない。
しかしルーナのマナフルールは種が砕けてしまったため、枯れかけてしまったのだ。
幸いレイがすぐに気が付き、力を失う前に守護をかけることができた。
「今まで隠していてすまないね。でもソルとシエルくんを守るのがみんなの一番の願いだったんだ。でも君たちはもう守られるだけの小さな子供ではなくなった。それにレオンがそうだったように、ソルの顔を見てソルがミレーヌの子供だといずれ気付かれるだろう。そうなった時に自分の身を守るためにも真実を知っておいたほうがいいだろう。」
「僕のことも頼ってくれ。ミレーヌやカイ、ルーナの想いを僕が引き継ぐ。それに僕はソルくんの父親だからね。シエルくんもリヒトくんも僕のことは騎士団長じゃなく友達のお父さんとして接してくれると嬉しいな。」
レオンが優しく微笑んだ。
「わかったよ。それと、僕もソルやシエルと一緒に戦うよ!」
リヒトが力強く言った。
「ルミエのことを救えたのはソルとシエルがいてくれたからだ。だから僕もソルとシエルの力になりたいんだ。」
「あの…、騎士団長さん、俺のことはソルって呼んでよ。それに…父さんって呼んでいいかな?」
ソルが少し照れくさそうにたずねると、レオンは嬉しそうに「もちろんだよ。」と答えた。
レイはその光景を微笑みながら見ていたが、やがて真剣な顔つきに戻り口を開いた。
「真実を明かそうと思ったのにはもう一つ理由があるんだ。」




