18
翌日、レイとミレーヌはフィーネへ戻ることにした。
「ルーナ、また手紙を書くから。」
「えぇ、わたしは大丈夫よ。シエルもいるし、命を繋いでくれたソレイユのためにも頑張るわ。ミレーヌも体に気をつけて。ミレーヌとレオンの子に会えるのを楽しみにしてるわ。」
ルーナはそう言って微笑んだ。
その顔は子を守る決意に満ちた優しい母の顔だった。
それから数ヶ月が経つ頃、ミレーヌはソルを出産した。
ルーナは一度だけミレーヌ達親子に会いにフィーネを訪れた。
ソルのアルバムに残っていた1枚目の写真はその時に撮られたものだ。
それ以降はソルの安全を第一に考え、ミレーヌの居場所を特定されないように会うのを控えていた。
ミレーヌがセントラルで住んでいた家の辺りでは相変わらずローブの男が目撃されていたが、正体は未だ掴めていなかった。
カイも何度か見回り中に目撃し追跡したのだが、捕まえるどころか特徴を思い出そうとしても何故かぼんやりとして思い出せないのだ。
そしてミレーヌを追う不審な人物を特定できないまま5年の月日が流れていた。
ローブの男も目撃されることがなくなっており、ミレーヌのことを諦めたのだろうと思われた。
来月にはレオンがセントラルに戻ってくることが決まっていた。
レオンが戻ってきた時に子供のことを打ち明けようとミレーヌは決めていた。
ミレーヌはレオンが戻ってきた時の生活の準備をするため、一度セントラルに戻ることにした。
ルーナにも事前に連絡をし、まずルーナの家を訪れてから家に向かうことにした。
セントラルに行く間、ソルはレイに預けられることになった。
「ミレーヌ、ミスミソウ持って行きなさい。」
「えぇ、レイさんには本当に感謝してます。ソル、先生の言う事聞いていい子にしててね。」
「はーい。お母さんいってらっしゃーい。」
レイが手配した馬車に乗り込み、ミレーヌはセントラルへ向かった。
ミレーヌがルーナの家に着くと昔に戻ったように2人はたくさんお喋りをした。
5歳になったシエルはミレーヌにすっかり懐き、自分の誕生花であるヒイラギをプレゼントしてくれた。
「嬉しいわ、ありがとう。大切にするわね。来月にはシエルくんと同い年の息子も一緒に来るから仲良くしてあげてね。」
「うん!」とシエルは嬉しそうに笑った。
そうしてその日は夜まで話が尽きることがなかった。
翌朝、ミレーヌは5年ぶりのセントラルの家へ向かった。
ミスミソウを持ってはいるが念のため、家まではカイが護衛としてついてきてくれた。
昼すぎにまたカイが迎えに来てくれることになっている。
ミレーヌは周りに人がいないことを確認すると家に入り鍵を閉めた。
久しぶりに入る家は少し埃っぽかった。
ミレーヌは窓を開け掃除を始めた。
ここでレオンとソルと3人で暮らすことを想像し、ミレーヌはとてもウキウキしていた。
昼すぎになりカイはミレーヌの家へ迎えに来ていた。
するとミレーヌの家の裏からガシャンと音がした。
カイが急いで音のする方へ向かうと、馬車が倒れて崩れている。
馬車の前には人が倒れており、ローブをかぶった男がその人を抱えようとしていた。
「ミレーヌ!」
カイは剣を抜いて駆け寄りミレーヌから男を引き離した。
男はどうやらカイの剣で右腕を負傷したらしく、右腕を押さえたまま逃げていった。
カイはミレーヌをそっと抱き上げた。
「これ…の…おかげで…わたし…あの…男に…拐われず…に…すんだの…。」
ミレーヌはポケットからヒイラギを取り出し、血だらけの顔で微笑んだ。
そしてそのままミレーヌは息を引き取った。
ミレーヌが持っていたはずのミスミソウはミレーヌが倒れていた通りに面した森の中で見つかった。
ミレーヌはおそらく森の中でローブの男に追いかけられ、逃げる途中通りに飛び出し馬車に轢かれたのだろう。
御者も亡くなってしまったため、詳しい状況は何も分からなかった。
事故の少し前に森から迷子らしき子供の泣き声がしたという情報があったが、どこの子供なのか分からなかった。
ただひとつわかっているのは、ミレーヌの死にローブの男が関わっているということだ。
ローブの男はミレーヌを諦めていなかったのだ。




