13
その頃レオンは診療所へ戻ってきていた。
「戻ってくるだろうと思ってたよ。あの子達が待ってるんだろう?そんなに長くは話せないよ。」
「わかってるさ。ソルくんのこと、確認したいだけさ。」
先生は奥の部屋へレオンを通すとお茶を淹れた。そして1枚の写真をレオンの前に置いた。
「ソルについてはレオンが考えてる通りだよ。今まで知らせなかったのも理由があってね。それはまた時間がある時に話すよ。その時はそれも一緒にね。」
レオンは写真を手に取り眺めた。写真にはソルの母親と生まれたばかりのソル、そしてカイとルーナが写っていた。
「そうか。カイもルーナも知ってたんだな。」
「ミレーヌがあんなことにならなければ、レオンが戻ってきた時に知らせるつもりだったんだよ。今まで言わなかったのはソルのためなんだ。レオンもここだけの話にしておいて欲しい。」
レオンはそっと頷いた。そして写真を自分の手帳に挟んだ。
「お墓の結界もその理由と関係が?」
「さすがだね、やっぱり気付いてたか。あそこはね、私が認めた人間しか入れないようにしてあるんだよ。他の人にはお墓があることすら認識できないはずだよ。」
「ミスミソウだね。」
先生は頷きそっと手を開いた。先生の手の上には白やピンク、紫の可愛らしい花が開いた。
「わたしの誕生花を知ってる人間はそもそも少ないからね。というより見たとしても覚えている人間が少ないと言った方がいいかな。」
ミスミソウの花言葉には信頼と内緒がある。先生はその力を組み合わせ自分が信頼する人間以外には内緒の力を働かせ認識させないようにしている。
そのため先生が何かを隠すことができるという事実自体を隠すことができる。
今までミレーヌのお墓の結界に気付いたのはレオンだけだ。
「レイさんがミスミソウを使ってるということは、ミレーヌはただの事故じゃないんだね。」
「そうだね。現場にいたわけじゃないから確証があるわけではないけどね、カイもルーナもそう思ってたよ。3人で話し合ってね、ミレーヌのお墓はあそこに隠すことにしたんだ。私たちはまずソルを守ることを優先することにしたんだよ。」
「ソルくんは知ってるのかい?」
「いや、ソルには何も伝えてないよ。ソルにはミスミソウを見せたこともないんだ。それに成人花が咲いたら話すつもりではいたんだよ。そろそろ伝えなきゃね。」
レオンは黙っていた。そして静かに立ち上がった。
「そろそろ基地へ行かなくちゃね。夕飯は僕も一緒にご馳走になりますね。」
そう言ってレオンは診療所を後にした。
先生はレオンを見送ると裏の森へ入っていった。
コンコン。
レオンが扉を開くと書記官が立ち上がりレオンに向かって敬礼をした。
「遅れてすまないね。聞き取りは大体終わってるかな?」
「はい、食い違う点もありませんし問題ありません。では僕は報告へ行ってまいります。」
書記官は書類を手に礼をすると部屋を後にした。
「待たせちゃってごめんね。事件についてはこれで一段落つきそうだよ。」
「ルミエは僕がしっかり見守っていきます。」
リヒトが力強くそう言うと、レオンは微笑みながら頷いた。
「今日は僕も夕飯を一緒にとらせてもらえるようにレイさんに頼んでおいたから、仕事が終わったら診療所に伺わせてもらうよ。」
「わかりました。ではまたその時に。」
ソル達3人は基地をあとにしてソルの家へ向かった。
3人が出ていった部屋ではレオンが先生から受け取った写真を真剣な顔で見つめていた。
「ミレーヌ…。僕が必ず…。」
診療所の裏の森では先生がミレーヌの墓の前でしゃがみ手を合わせていた。
「ミレーヌ、ソルは立派な大人になったよ。父親に似て優しくて真っ直ぐな男だよ。今はカイとルーナの子と一緒にいるんだ。いつか会わせたいって言ってただろう。」
先生が優しく語りかけると、辺りに暖かい風が吹き先生の髪がなびいた。先生はお墓の周りに咲くカモミールとタンポポを見つめて微笑んだ。
「そろそろソルに話そうと思うんだ。ソルはもう自分を守れるようになったからね。それに頼もしい仲間もいる。レオンもいるんだ、心配いらないよ。」
先生は静かに立ち上がると空を見上げた。空はゆっくりとオレンジ色に色づき始めていた。
「さぁ、夕飯の準備をしないとね。ミレーヌ、また来るよ。」
先生は手の上にトリテレイアを咲かせお墓の周りに守護をかけると診療所へと戻っていった。




