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昼食を食べ終わりしばらくすると診療所の扉からコンコンとノックの音が聞こえてきた。
「どうぞ」と先生が応えると扉が開き、茶色い髪をひとつに束ねた男の人が入ってきた。
「はじめまして。騎士団長のレオンです。」
レオンは拳を胸に当て挨拶するとニコッと笑った。
「はじめましてって言ったけど、さっき森ですれ違ってるんだよ。君たちは気付かなかったようだけどね。」
「森で?あの森に何か用事が?何もないところですよ?」
ソルは不思議そうに尋ねた。村のはずれにある森は山菜や木の実が採れるため村の人もよく訪れる。ソルの母親もよく森に行っていた。しかし診療所の裏にある森は何もないので滅多に訪れる人はいない。ソルも母親の墓がなければ行くことがないだろう。
「目的は君たちと同じさ。学生時代からの知り合いなんだ。ちなみにここにいるレイさんは学校の先輩だよ。」
レイとは先生の名前だ。ソルは驚いて先生の方を見た。先生は静かに頷いた。小さい頃からずっと側にいたが初めて聞いた話だった。
「それでレイさん、僕もさっき森ですれ違った時に驚いたんだけどもしかしてこの子は…?」
「レオンが想像してる通りだよ。この子はソル。ミレーヌの息子だよ。17歳だ。」
ソルは母親のミレーヌにそっくりだと先生からも村の人からもよく言われていた。母親と知り合いだというレオンはおそらくソルの顔を見て気付いたのだろう。他人の空似と言うには似すぎているのだ。
「17歳ということは、僕が東部へ配属されてる時に生まれたんだね。どおりで知らないわけだ。戻ったときにはもうミレーヌは…。」
ソルが生まれる前は母親はセントラルに住んでいたそうだ。父親がいなくなり、以前から知り合いだった先生を頼ってフィーネに越してきたのだ。レオンがセントラルに戻って来たのは母親が亡くなって半年後のことだったそうだ。
「ソルくんのお父さんは?」
「俺が生まれる前に行方不明になってしまったみたいで会ったこともないんです。母さんからは立派な人だったと聞いてます。」
ソルはそれ以上は何も知らない。写真も残っていなかった。ソルは母親との暮らしに満足していたし、ソルから父親について尋ねたこともなかった。
レオンは一瞬困惑した顔をしたが、すぐに「そうか。」と答えた。そしてレオンはシエルの方を向いた。
「シエルくん、久しぶりだね。君が覚えてるかはわからないけど、カイの葬儀の時以来か。カイが任務中に亡くなって僕はセントラルに戻ることになったけど、君たちは葬儀が終わるとすぐルダンに引っ越していったから。僕が東部にいる頃に君が生まれたと手紙で知らせをもらったけど、結局会えたのはその1回だけだったな。ルーナの葬儀に行けなくてすまなかったね。」
カイはシエルの父親だ。カイとレオンは騎士団の同僚であり、セントラルで一緒に剣を振るっていた。レオンが東部へ配属になり、手紙のやりとりこそしていたものの再び会うことなくカイは任務中に亡くなった。シエルが5歳の誕生日を迎えたばかりの頃だった。
そしてルーナはシエルの母親だ。ルーナが亡くなった時にはレオンは騎士団長に就任していた。葬儀の時も任務に赴いており、参列することができなかったのだ。
「父からよくレオンさんの話を聞いていました。次期騎士団長候補だと。レオンさんに負けないように自分も鍛錬を重ねてるんだといつも言っていました。」
「ははは、カイらしいね。自分も次期騎士団長候補に名前が挙がっていたというのに。カイが生きていたらきっと騎士団長はあいつだったさ。カイに勝てるやつなんて誰もいなかったんだから。今でもあいつが任務中に殺されたなんて信じられないよ。」
カイは盗賊の討伐に向かい、盗賊を捜索してる最中に殺された。カイは指揮官をしており、団員をエリアごとに配置をして捜索をしていた。団員が捜索を終え基地に戻るとカイは既に倒れていた。カイが亡くなり、指揮官にはレオンが就いた。セントラルで指揮官に任命されるのは名誉あることだったが、レオンが喜べるはずもなかった。レオンはその後ひたすら懸命に任務をこなし、騎士団長になったのだ。
「さぁ、とりあえず基地へ向かおうか。書記官が待機してくれてるから。」
診療所をあとにして4人は基地へ向け歩き出した。基地は森の近くにある。普段は警備隊が在中しているところだ。宿舎もあるのでそこを利用している。しばらく歩いたところで、レオンがふと立ち止まった。
「ソルくんはここの村の出身だったね。基地の場所はわかるかい?診療所に忘れ物をしたから取ってきたいんだけど、先に向かっててくれるかな?」
「わかりました。じゃあ先に行ってますね。」
「悪いね。行けばすぐ書記官のところへ案内してくれると思うから。」
そう言ってレオンは走って戻って行った。
「シエル、騎士団長さんと知り合いだったんだな。そういえばシエルのお父さんの話聞いたことなかったな。」
「僕もシエルのお父さんには会ったことないけど、よくルーナおばさんから話聞いたよ。そういえば騎士団長さんの話もしてたなぁ。」
リヒトが懐かしそうに話した。
「リヒトがいつも怪我ばっかしてるから、父さんみたいだってよく言われてたな。レオンさんと一緒に訓練と称して競争ばっかしてるからいつもあちこち怪我してたって呆れたように言ってたよ。」
「まだローダンセが咲いてなくて魔力過多になっちゃってたからね。自分で発散しようとあれこれ試したんだけどことごとく失敗しちゃって、よくステラのお母さんに治療してもらってたんだよね。」
「どうやって発散してたんだ?」
「とにかく力を出し切っちゃえばいいかと思って思いっきり木をパンチしてみたり、山をダッシュで登って修行っぽいことしてみたりかな?魔力が溢れてるなら花以外に魔法が使えるんじゃないかって試したりしたんだけど、そもそも魔法の使い方も知らなければ魔法そのものを見たこともないのに使えるわけないよね。」
ごく一部だが花を咲かせ力を使う以外に魔法を使える人間が存在している。もともと王族は生まれつき魔法が使える。そして王族から選ばれた人間だけが王族から力を分けてもらえるのだ。そうして力を分けてもらった人たちは魔法師団と呼ばれ、騎士団と同じく国を守っている。分けてもらった魔法の力は遺伝することはない為、親が魔法師団でも子供が魔法を使えることはない。国への忠誠と本人の確かな力がないと魔法師団にはなれないのだ。魔法師団は一般人がお目にかかることはそんなにない。騎士団が表で国を守るのに対し、魔法師団は裏から国を支えているのだ。
「リヒトが魔法使えちゃってたら王族の隠し子だって大騒ぎになるよ。」
ソルはそう言って笑った。
話しているうちに基地にたどり着いた。門の入り口で名前を告げると奥から眼鏡をかけた青年がこちらへ向かってきた。
「わざわざ来ていただいてありがとうございます。書記官のシンと言います。事件の日に起こったことを1人ずつ聞かせて頂いて食い違うところがないか確認させてください。」
そう言って基地の中へ案内された。リヒト、ソル、シエルの順に隣の部屋へ呼ばれた。リヒトはルミエの身元引受人ということで、ルミエの様子についても聞かれた。シンはそれらの話を聞きながら書類にまとめていった。シンはルミエの取り調べの時も書記官をしていた。ルミエは桔梗を咲かせて急がせたと話していたので、きっとシンも桔梗によっていつも以上に仕事をさせられたことだろう。ソルはシンに対してなんだか申し訳なく思い、心の中でそっと謝った。




