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翌朝、ソルとシエルが朝食を食べているとリヒトがやってきた。


「おはよう。それ食べ終わったら出発しようか。博士、地図ある?」


「用意しておいたよ」と博士は地図を広げた。リヒトが行ったことのない場所は地図で大体の位置を把握しないとローダンセを使えないようだ。

リヒトが地図を確認し終える頃にはソルとシエルも食べ終わっていた。


「食器はそのままでいいよ。さぁ、いってらっしゃい。診療所の先生によろしくね。」


博士は優しい笑顔でそう言った。3人はカバンを手にすると向き合った。リヒトが右の手のひらをそっと差し出しローダンセを咲かせると、ローダンセがくるくると回りだした。




ローダンセの回転が止まり着いたのはソルの家の前だった。


「とりあえず荷物置くか。」


とソルは家の鍵を取り出し玄関を開けた。ソルが誕生日にこの家を出てから5ヶ月ほど経つが、家の中はその日のまま何も変わらず保たれていた。診療所の先生が定期的に掃除をしてくれていたのだろう。


「まずは診療所の先生に挨拶に行くか。」


荷物を置くとソルはシエルとリヒトを連れて診療所へ向かった。診療所へ向かう途中、何人かの村の人に会った。村の人は変わらずソルに話しかけてくれた。ソルが成人花が咲いたことを報告するとみんな自分のことのように喜んでくれた。


「ソルは村の人に愛されてるんだね。」


リヒトはそう言ってニコニコと微笑んだ。ソルは母親が亡くなって家族はいなくなってしまったが、寂しいと感じたことはなかった。村の人達がみんな家族のように接してくれたからだ。ルミエは義父に引き取られ、悪事を強要され、傷つきながらも義父に必要とされるために必死だった。それを思うとソルは自分がどれだけ幸せな環境で生きてきたのかを改めて感じていた。


しばらく歩くと診療所の前に着いた。コンコンとノックをすると「開いてるよ」と懐かしい声がした。


「先生、ただいま。」


「ソル、おかえりなさい。成人花のこと、ラムル博士から聞いたよ。」


先生は優しく微笑みながら言った。ソルは先生にカモミールを咲かせた。


「すぐ連絡しようと思ったんだけど、なかなか来れずにごめんな。」


「いいんだよ。こうして来てくれたしね。騎士団の皆さんは昼過ぎに戻って来るみたいだから、その前にお母さんのところに行っておいで。」


先生に促され、ソル達はソルの母親の墓へ向かった。


「ソルのお母さんは事故でなくなったんだよね?」


「あぁ。俺は5歳だったからその時のことはあんまり覚えてないんだけどそう聞いてるよ。俺はその時診療所にいたんだけど、馬車に轢かれたみたいでさ。」


馬車は乗客を送り届けた帰りだったらしく、乗客は乗っていなかったようだ。街へ戻るのに急いでいたのか、馬が暴走したのかは分からないがスピードが出ていたらしく、ぶつかった衝撃で御者も道に放り出され亡くなっていた。目撃者もなく当時の状況は推測するしか無かった。


「俺はさ、母さんにそっくりなんだって。先生がいつも言ってたよ。父親がいないんじゃないかと思うくらい母さんに似てるって。」


少し重くなりかけた空気を察して、ソルは明るく笑った。


診療所の裏の森を抜けると黄色いオトギリソウが咲く丘に出た。そのオトギリソウに囲まれるようにひとつの墓石がひっそりと佇んでいた。


「この花は1回枯れかけたことがあってさ、気付いた先生がトリテレイアを咲かせて守ってくれたんだよ。そういえばシエルのお母さんの花もオトギリソウだよな?」


「あぁ。秘密って花言葉があってかくれんぼでよく自分の姿を隠すのに使ったっていたずらっ子みたいな顔で言ってたよ。」


そう話すシエルの顔はとても優しく穏やかだった。母親を懐かしんでいるんだろう。

話しながら墓石の前に立つとリヒトが墓石の前に咲く花を指差して言った。


「これはソルが咲かせたの?」


リヒトが指さす花はタンポポだった。春が過ぎても凛と咲き誇っている。


「いや、いつの間にか咲いてたんだよ。どっかから飛んできたのかもね。」


そしてソルはカモミールを墓石を囲むように咲かせ手を合わせた。


『母さん、成人花咲いたよ。母さんの癒しになりますように。新しい友達もできたんだ。シエルとリヒトだよ。他にもステラとルミエっていう女の子もいるんだ。また今度連れてくるよ。』


ソルは心の中で母親に語りかけた。ソルの後ろでシエルとリヒトも手を合わせている。辺りには暖かい風が優しく吹き、まるでソルの母親が返事をしているかのようだった。


「さぁ、そろそろ昼だし診療所にもどるか。」


そう言うと3人はまた診療所の方へ歩き出した。森へ入ると1人の男の人とすれ違った。男の人は驚いたように振り向いたが、3人が気付くことはなかった。男の人は3人に声をかけることなくまた丘の方へ歩いていった。その手にはタンポポが握られていた。


3人が診療所へ戻ると、先生が昼食を用意してくれていた。


「さっき騎士団長さんが迎えに来たんだけど、また昼食食べ終わったくらいに来てくれるようにお願いしておいたよ。」


ちょうど入れ違いになってしまったようだ。3人はひとまず昼食を食べて騎士団長さんを待つことにした。昼食の時間はソルの小さい頃の話をしたり、ソルが村を離れてからの話をしたり、和やかなひと時となった。

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