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シエルの誕生日当日。

ソルがリビングへ向かうと、ステラと博士が料理をしていた。


「おはよう、ソル。料理はほぼ終わってるわ。ケーキは昼頃にリヒトが持ってきてくれるんだけど、飾り付けがまだこれからなのよね。」


そう言ってステラは倉庫から飾りを運んできた。毎年使っている飾りもあれば、新しく用意したものもあるようだ。博士は顔を真っ赤にしながらバルーンを膨らませている。ソルは手伝おうと飾りに手を伸ばした。


「待って、ソルには頼みたいことがあるのよ。リヒトが来るまではシエルがこの部屋に来ないように見張ってて。」


シエルには内緒で準備を終わらせたいようだ。シエルは庭園にいるらしいので、ソルはシエルを探しに庭園へ向かった。


シエルは庭園で母親の花、ではなくその隣に咲く花をしゃがんでじっと見つめていた。シエルが見つめるその花は自然に咲くことはないと言われる花だった。ソルも実物を見たのは初めてだ。


「シエルが咲かせたのか?その青いバラ。」


ソルはシエルの隣にしゃがんで尋ねた。


「いや、俺の成人花はバラだがこの色だけは咲かせられない。これは…弟の花だ。」


シエルに弟がいるという話は誰からも聞いたことがない。ステラが小さい頃のアルバムを見せてくれた時もステラと一緒に写っているのはシエル一人だけだった。ソルが深く聞いてもいいのか悩んでいるとシエルが静かに話し始めた。


「俺は双子の兄として産まれたんだ。生まれた時は2人とも産声をあげなかったらしい。医者が急いで処置しようとしてたら弟の手に青いバラが咲いたんだ。弟はそのまま息を引き取って、反対に俺は泣き声をあげた。弟は俺を助けるのに『奇跡』を使ったんだ。自分に使う手だってあったのに。魔力を使い切ったからなのか弟の体からは成人花の種は消えてたみたいだ。だから弟の形見と言えるのはこの青いバラだけなんだ。」


マナフルールを使うには魔力が必要だ。効果が大きければ大きいほど使う魔力も大きい。『奇跡』というのがどれくらいのものなのかはわからないが、生死に関わるほどの力を使ったのであれば魔力も相当消費しただろう。ましてや赤ん坊だ。もともと持っている魔力が少ないはずだ。自分に使う手もあったとシエルは言ったが、自分に『奇跡』を使ったところで体に負担がかかり助からなかっただろう。シエルもきっとそれはわかっている。


「俺は生まれた時に死に別れたから話したこともないけど、なんとなくあいつと繋がってるような気がするんだ。俺の魔力の中にはあいつの魔力も宿ってる感じがするんだ。2人でひとつなんだろうな。だから俺は青いバラが咲かなくても構わない。青いバラはあいつが咲かせる花だから。」


そう言ってシエルはオレンジ色のバラを咲かせると青いバラの前にそっと供えた。一緒に育つことはできなかったが、そこには兄弟の『絆』が確かに存在しているのだ。

ソルは青いバラに手を合わせた。穏やかな風が吹き、花が優しく揺れた。ソルとシエルは静かに立ち上がった。


「俺もたまに会いに来ていいか?」


「あぁ、好きにしろよ。」


そう言いシエルはゆっくり温室の方へ歩き出した。


「温室でもう少し時間潰すぞ。そしたらそのうちリヒトが来るだろ。」


『ステラ、全部バレてるよ』とソルは心の中でつぶやき苦笑した。それでもステラのサプライズを台無しにしないよう時間を潰すのがシエルの優しさだ。

温室でしばらく時間を過ごしていると、どこからかヒラヒラと花びらが降ってきてリヒトが現れた。


「お届け物でーす。」


「リヒトも来たし、そろそろ行くか。」


そう言って3人はステラ達が待つリビングへ向かった。

リビングの扉を開けると、パーンというクラッカーの音が響いた。シエルは予想していたのか全く動じることなく、いつもの席に腰掛けた。


「もう、もう少し驚いてよね!」


ステラはそう言って少しむくれながらパーティー用の三角の帽子をシエルにかぶせた。


「今年もこれかぶるのかよ。もう子供じゃないんだしいらないだろ。」


「こういうのに大人も子供もないのよ。ほら、パパを見てみなさい。」


博士をチラッと見ると満面の笑みで帽子をかぶっていた。そしてステラも帽子をかぶるとソルとリヒトにも帽子を配っていった。リヒトはスッと帽子をかぶってニコニコしている。


全員が席に着いたところで博士が料理を配膳していく。


「シエル、誕生日おめでとう!」


シエルは黙って料理を食べているが、嬉しそうだ。無表情に見えるが、どことなく穏やかな顔をしている。


料理を食べ終わると、ケーキが運ばれてきた。ミリューで注文してあったケーキだ。


「今年からソルもいるし、次からはルミエも呼びましょう!ケーキはもう一回り大きいサイズにしたほうがよさそうね。」


と言ってステラは楽しそうにケーキを切り分けている。

すると博士が何かを思い出したように「あっ!!」と言った。


「そういえば、この前のミリューの街での事件の話を聞かせてほしいって騎士団から要請が来てたんだった…。伝えるの忘れちゃってたよ、ごめんね。」


呼ばれているのはソル、シエル、リヒトの3人のようだ。騎士団は普段セントラルにいるのだが、国境付近に盗賊が現れたらしく地方に出向いており、フィーネに滞在しているとのことだった。


フィーネはソルが生まれ育った村だ。診療所の先生や母親の墓に成人花の報告をしに行きたいと思っていたが、なかなか行けずにいた。


「急だけど明日フィーネに行ってきてくれるかい?3日程滞在することになると思うけど、ソルくんの家もそのままみたいだし、そこで泊まれるように伝えておくから。」


こうしてソル達のフィーネ行きが決まった。


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