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0.プロローグ

国の端にあるフィーネという村にソルは住んでいた。何もないところだが、自然豊かでのどかな村だ。


茶色の緩くウェーブがかった髪をワシャワシャとしながらソルは眠そうに目を開いた。半分だけ開かれたまぶたから鮮やかな黄色い瞳が見えている。




「ふぁ〜あ。今日で17歳か。」




ベッドから体を起こしカレンダーを見た。誕生日だからといって特別な感情ない。だが今日は朝から予定が入っているため、ささっと身支度をするとまとめておいた荷物を持って家を出た。








生まれた時から誰もが魔力と花の種を2つ宿している。


ひとつは生まれた時に開花する【誕生花】、もうひとつは15歳前後に開花する【成人花】だ。


それらの花はまとめてマナフルールと呼ばれている。


マナフルールの種類は人それぞれで、魔力を使ってその花の力を発現させることができる。








ソルの友人達はみな成人花を開花させていた。


しかしソルは17歳になった今でも開花していない。


そのことで朝から診療所に呼ばれていたのだ。




診療所はソルにとって実家のようなところだ。


ソルは生まれた時から父親がいない。


ソルが生まれる前に行方不明になってしまったそうだ。


母親はソルがお腹にいる頃からこの診療所で働いていたため、母親が働いている間は診療所で過ごしていた。


しかしソルが5歳になる頃、母親は事故で亡くなってしまった。


それからは診療所の先生がソルを引き取り育ててくれた。


母親と住んでいた家はソルが引き取られてからも先生が管理してくれていたため、15歳の頃からソルはそこで一人で暮らすようになった。




診療所の扉を開けると、先生が「おかえり」と笑顔で出迎えてくれた。


先生からはルダンという村の植物園を紹介してもらえることになっている。


「ここの植物園ではマナフルールについて研究しているんだ。ソルの成人花についてもなにかわかるかもしれないよ。植物園のラルム博士には私から連絡してあるから行ってみなさい。」




先生は手書きの地図をソルに手渡した。成人花について先生に相談していたわけではないが気にかけてくれていたんだろう。




「大丈夫。私は今まで沢山の子たちを見てきたが、成人花が開花するのが早い子も遅い子もいたけど開花しなかった子はいなかったよ。ソルにもすぐに咲くさ。」




実際のところ成人花が咲かなくても体に影響はない。


ソルが困っているとしたら友人達との「成人花は何が咲いたか」という話に加われないということくらいである。友人達も成人花が咲かないソルを誰一人としてバカにする者はいなかった。




「ありがとう、先生。とりあえず行ってみるよ!」




地図を折りたたみポケットにしまうとソルは外に出た。ぽかぽか暖かい日差しの中で時折そよそよと吹く風が花の甘い香りを運んでいる。


ルダンまではだいたい半日ほどかかるだろう。先生は植物園に行ってからの生活についてもラムル博士に相談してくれたようで、部屋が余っているからとラムル博士の家でお世話になる事になっている。


ソルはフィーネが大好きだ。村の人達もみんないい人だし、親代わりにいろいろ世話を焼いてくれた先生も。


フィーネを離れるのは寂しいが、初めて村を出ることにワクワクもしていた。


ソルは手のひらを空に向け魔力を込めた。手のひらが淡く光ったかと思うとふわふわと白い綿毛が一面に舞った。




「ははは。素敵な旅立ちの挨拶だね。来年の春には診療所の周りにソルの花が咲き乱れそうだ。いってらっしゃい、ソル。」




先生は窓から雪のように舞う綿毛を眺め、そっとソルの背中を見送った。


ソルは自分の誕生花をとても気に入っている。野草であるその花はひたむきに咲き可愛らしい見た目ではあるが野草らしい強さを持つ。他の花が咲かないような場所でも花を咲かせていたりする。花を終え白くなってなお人の目を引き付け、風に乗って飛んでいく。最後まで自身の役割を果たすのだ。


そんなタンポポは綿毛にも花言葉がある。『別離』という言葉に「いってきます」という思いを込めてこの村に贈りソルは生まれ育ったフィーネを旅立った。



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