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○おすすめ短編

3+1の幸福

作者: 黒十二色

「親切な老婆よ、これは本当に本物の四葉か?」


「もちろんでございます、勇者様。特別な四葉の聖なる草でございます」


「本当に、あの四葉の草なのだな?」


「ええ。ですが勇者クローバー様。世界を救った英雄が、永遠の若き命を求めるというのは、一体なぜなのでございましょう?」


「……ここだけの話にしてほしい」


「ええ、もちろんですとも。この婆、約束は守りますゆえ」


「魔王を倒したことで、皆から感謝され、祝福され、崇拝さえされるようになった。けれど、いずれ俺は老いて弱くなってしまう。そうなったら、誰が世界を守るというのか」


「……………………」


「……ふぅ、お見通しか。いや、さすが占いのスペシャリストといったところか。わかった。本音を言おう。俺が求めるのは、愛するレトロだ」


「レトロ様……。たしか、魔王を倒した二人組の片割れでございますね。回復をご担当でございましたね」


「ああ、よく知ってるな」


「このような商売ですからねえ。たしか、たいへん美しい女性でございましたはず」


「知っているなら話が早い。俺は最高の彼女と結ばれたのだ。だが時の流れは残酷なものだ。彼女も永遠に美しくはいられない。魔王を倒したのだから、俺は、もっと色々なことを求めても良いはずだ。この際、富と名誉なんてものは捨てたって良い。しばらく借金を背負って生卵を投げつけられる日々に突入したって構わない! そうしてでも永遠の幸福が、俺は欲しいのだ」


「それで四葉の聖なる草を求めるのでございますね。いいでしょう。あなた様になら、売って差し上げます」


「おお、そうか。これで若きレトロとずっと一緒にいられる。よかった。本当によかった」


「それでは、聖なる儀式を行いますので、今夜、日付が変わる時刻に、愛するレトロ様をお連れになってください」


「ああ。感謝する。では、のちほど」


「おっと、扉は静かに閉めていってくださいな。埃が立つと、喉に悪うございます」


「む、失敗されては困るからな。言うとおりにしよう。夜までに、適度に呪文の練習をしておいてくれ」


「お任せください、勇者様」


  ★


「ねえ、クローバー。本当にやるの?」


「当たり前だろう。俺たちは、いわば守護者になるんだ。魔王は消し去ったが、いつか魔王のような別の存在が現れるかもしれない。異種族間や異文化間の闘争の恐れだってある。それどころか、人間同士の争いの火種だって、まだまだ溢れている。そこで俺とレトロが永遠の若さと強さと美しさを手に入れれば、この世界をより良い方向に導けるはずだ。俺は何か間違ったことを言ったか?」


「でも……」


「何も悪いことなんかない。老婆の話では、病気をすることもないし、本当に役目を終えたと思える日が来たら、安らかにこの世を去ることもできるそうだ」


「たしかにそういう伝説の魔法があるっていうのは聞いたことがあるけれど……。でも、その人って、本当に信じられるの?」


「今まで俺が間違ったことがあったか?」


「あったけど?」


「まあまあ、長旅だったし、そういう局面もあるにはあったかもしれん。でも最後は魔王を倒せた。違うか?」


「……まあ、そうよね。魔王はもう居ない。それに、私たち、本当に頑張ったんだもの。二人きりで魔王を倒すなんて、きっと他に誰にもできない立派な仕事だわ。そのご褒美だと思ってもいいわよね」


「ああ、それじゃあ出掛ける準備をしよう」


「ええ、行きましょう……って、まってクローバー」


「なんだ」


「あなた、そんな小汚い服装で良いの? お願いをするのだから、礼節というものがあるでしょう」


「だが、今は儀式を邪魔されないほうが大事だ。だから多少くたびれていても問題ない。用心に越したことはないだろう? 敵はなにも魔物ばかりではないのだからな。まさか、勇者がこんな格好をしてるとは思うまい。」


「たしかにそうね」


「聖なる魔術が成功したら、もう怖いものなしだ。着飾ってどこかに出かけよう」


  ★


「さあ。二人でこの四葉を握るのでございます」


「これでいいか?」


「それだと少し浅くございますね。手を絡めるように握りこむのでございます」


「こうかしら」


「はい結構。では続いて、この老婆めの呪文を復唱するのでございます」


「ああ。わかった」

「ええ、お願いします」


「『魔王なき世を憎み、勇者なき世を祝福す。冷たい風を変えられず、道は今、閉ざされる』」


「何?」

「そんなものが呪文?」


「――愚かなものよ。この術に呪文など必要ない。ただ呪いのこもった草を一定時間、握るだけでいい。そんなことも知らぬとはな」


「なっ、男の声? おまえ、老婆ではないな!」


「ククク、永遠に若く、美しくねえ……。そんなもの、持っていたら自分に使っておるわ。あったとしても貴様などにくれてやるはずもない」


「まさか、この声……。嘘だ、お前はっ……!」


「クククク。今更気付いてももう遅い。この四葉の呪術は、別の世界へ追放するためのものだ。ワタシは勇者の消えた世界で、好き放題にやらせてもらうとしよう」


「ばかな、本当に魔王なのか? 聖剣の力で消し去ったはずでは?」


「大半は消えたさ。だが完全には消されなかった。塵になって逃げのびて、お前たちが愛を育んでいる間に復活を果たしたのだ。人々のマイナスの感情が助けとなった。残念なことだなあ、魔王が死んでも、世界は変わらなかったわけだ」


「そんなばかな」


「まったく、愚かな勇者だ。武力でワタシを討ち果たしたからといって、本当に世を変えられると思っていたのか? だがこれが現実だ。この世界は、まだワタシの手による破滅を必要としているらしい」


「儀式は中止だ。老婆に化けた魔王! 俺たちが何度でも、お前を倒す!」


「では、愛する女の代わりに剣を握ってみてはどうかな」


「ああ、そうさせてもら――な……どうしたレトロ? なぜ手を離さない」


「ちがうわ。ちがうのクローバー。ぴったりくっついて、離れなくて」


「すでに呪いの術は発動した。間もなくお前らは追放される。戻ってくる望みはゼロではないが、その間に、ククク、この世界はまさに魔界と化すだろう。次に行く世界が、四葉草のある世界だったらいいなあ。クッククククク。ハーッハハハ」


「……ッ、おい、レトロ、どうしたレトロ」


「安心するがよい。ワタシの復活という事実にショックを受けての転倒にすぎん。ワタシを倒したにしては、脆い脆い。こんなものに敗れたのかと恥ずかしい限りだよ」


「おのれ魔王ォ!」


  ★


「おわぁ! 何だぁ?」


「――ッ、少年、ここはどこだ?」


「僕の部屋ですけど。なんか光ったと思ったら、急に現れて……。どっから入って来たんですか」


「わからない。急に目の前が暗くなり、思わず目を閉じた。そして目を開いたらここにいたんだ」


「そっちの人、大丈夫ですか? ぐったりしてますけど」


「ああ、気を失っているだけだ。レトロは、そう簡単に死ぬようなレベルではない」


「はあ、そうなんですか」


「少年は、何しているんだ。手に握っているそれは何だ」


「コントローラーですけど。格ゲーしてたんで。え、もしかして、ゲーム機の中から? いやそんな本格RPGみたいの全然持ってないんですけど」


「何をわけのわからんことを」


「どう考えてもこっちの台詞ですけど」


「それにしても少年、この世界は何だ。変な匂いがするし、君の着ている服も、見たことのないカラフルなものだ。定期的に唸り声のような変な音がするのは何だ?」


「唸り声? 車の走る音ですかねえ。すいません窓薄いもんで」


「それに、なんだこの大きな板は。中では絵が動いているようだが」


「テレビですねえ、32型なんで、全然大きくないですけど」


「む? なんだ。窓の向こう、あの鏡で出来た建物は! 何階建てなんだ! とんでもなく高いぞ!」


「あー、わかんないですけど、たぶん四十階くらいかと」


「四十! なんという……。ヤツの言う通り、明らかに、ここは俺たちの世界じゃない。なんてこった。どうすればいいんだ」


「とりあえず、落ち着いて事情を説明してください。あと、家の中では靴を脱ぐものです」


「そのような世の中なのか! いざという時に裸足では、急いで逃げられないではないか」


「あー、気にしなくて大丈夫です。平和なんで」


「ばかな。この世界には魔王がいないとでもいうのか」


「魔王? 小説とか漫画とかゲームとかじゃあるまいし」


  ★


「話をまとめるとですね、クローバーさんはレトロさんと二人きりで魔王を倒して、ついにレトロさんと結ばれたと。そして、二人で幸せに暮らしていたところで、道ですれ違った老婆に、『不老不死に興味はあるかい』と声を掛けられたんですね」


「ああ。そうだ。ところが、それは罠だった。魔王は復活していたんだ。その声をかけてきた老婆こそが、実は魔王だった」


「そして、草を二人で握りしめて、この世界に来てしまったと。中世っぽい所からいきなり現代に来てしまって、どんな感じですか?」


「よくわからんな。しかし、それにしても、なんだこのふわふわした軟弱なパンは」


「お口に合いませんか?」


「いいや、異常なうまさだ。何てこった」


「あー、まあ、これに比べたらガチガチに硬そうですよね、あなたみたいな格好してる時代のパンって」


「この茶色い飲み物もうまい。なんだこれは」


「コーヒーですね。安物ですけど」


「レトロにも味わわせてやりたい」


「目覚めませんね。レトロさん」


「ああ、魔法に詳しい彼女であれば、元の世界に戻る方法がわかるかもしれんが……。レトロは繊細なんでな。目覚めた彼女が正気を保ってくれているか、少々おそろしくもある」


「もし正気を失っていたらどうなるんですか?」


「この家は燃えるだろう」


「えーと、この人連れて出て行ってもらえます?」


「もちろん、すぐにでも出て行くつもりだ。魔王がしぶとく生きのびていたとわかった以上、元の世界に急ぎ戻らなくてはならない」


「手がかりのようなものはあるんですか?」


「これだ」


「クローバー?」


「おや、いきなり呼び捨てとはな。この世界の人間はおそろしくフレンドリーらしい。だが無理もないか。勇者である俺も、この世界で何かを成したわけでもないのだからな」


「いや、そうじゃなくて、この草、クローバーっていう名前の植物です」


「なに? 俺の名前と同じってわけか!」


「運命的ですね」


「あ? こうしてわけわからない世界に飛ばされるのが運命だ?」


「あ、いえ、そういう意味では……」


「ふん、まあいい」


「――ん……うん……騒がしいわね、クローバー」


「レトロ! おお、よかった。起きたか。……えっと……怒らないのか?」


「油断したのは私よ。だから、今回はあなたを怒れないわ。……ここは? この優しそうな方は誰?」


「落ち着いて聞いてくれよ、レトロ。ここは、異世界だ。そしてこの人間は……あー、名前をきいてなかったな」


「佐々木です」


「だそうだ。うまいパンを持っている。レトロも味わうと良い」


「待って、クローバー。それどころじゃないわ」


「どうしたよ、レトロ。何を慌てている?」


「急いで戻らないと、大変なことになる」


「どうなるんですか?」


「死ぬわ」


「え」


  ★


「なぜ呪いの術を掛けられるときに気付かなかったんだろう。クローバー。ごめん。私、浮かれてたのね。永遠の若さと美しさという言葉に、目をくらまされていた。……『異世界追放の呪術』にも、不老不死の魔法に使うのとは別種の四葉草を使うの。元の世界に戻る方法は、何でも良いからその世界に生えている摘みたての『野生の四葉草』を使って再び同じように草を握って、術を発動しなきゃならない。タイムリミットは……日没」


「同じようにできなかった場合は、どうなるんですか」


「呪いによる転移は、正規の手段と違うから、代償が必要なの」


「代償?」


「さっきも言ったわね。日が没すると同時に死ぬの。転移してきた私たちのうち、どちらか一人が」


「えっ、ちょ、急がないと」


「しかし、佐々木よ。さきほどの反応を見る限りでは、この俺と同じ名を持つ四葉の草が、この世界にも存在しているのだろう? そんなに難しくないのではないか?」


「それが、野生の四葉クローバーとなると、少し事情が変わってくるんですよ。クローバーって基本的には三葉ばっかりで、幸運の象徴とされる四葉クローバーは、非常に希少で、何千本に一本とか、そういう割合でしか生まれないんです。それに……」


「要するに、ピンチってわけだ。大丈夫だ、ピンチなんざ、これまでだって乗り越えてこれた」


  ★


「ねえ、お兄さんたち、何を探しているのかしら? 大事なもの? 指輪とか?」


「いいえ、そういうのじゃないです。すみません。怪しいですよね」


「いえいえ、あら、誰かと思ったら佐々木さんのところの……」


「あ、どうも、お向かいの山田さん」


「探し物なら手伝うわよ。こんな草だらけの河川敷で、何を落としちゃったの? 婚約指輪とか?」


「それが……四葉のクローバーを探しています」


「あら、幸運が欲しいの? 何かいやなことでもあったのかしら?」


「いえ、そこの演劇の衣装みたいな服を着た二人組が……ええと、そうですね、映画。映画にしよう。映画の撮影のために、陽が沈む前に本物の四葉のクローバーを使ったシーンを撮りたくて、欲しがってるんです。何が何でも必要みたいで。僕はその四葉のクローバー探しを手伝っています」


「あらー、血眼ねぇ、あの二人。そんなに四葉のクローバーが撮影したいなら、切って貼って四葉に見えるようにしちゃえばいいのに」


「いやあ、本物志向なんですよ。妥協を許さない性格でして」


「そうなのね。……あら、でもなんだか、泣きながら探してない?」


「泣いてますね。天に向かって悲痛に叫んだりもしてます。相当追い詰められているみたいです」


「ただならない感じ……。本当に困っているみたいだし、助けを呼んできていいかしら」


「あ、ありがとうございます」


  ★


「だめですね。ありません。空き地にも、公園にも、河川敷の土手にも……。道行くノリのいい人たちにも参加してもらって、これだけ大人数で探したにもかかわらず、一本も見つからない……。やっぱり、この辺りの四葉のクローバーは、子供たちによって全て摘み尽くされてしまっていたのかもしれません」


「そんな、嘘だ、ああレトロ。もう太陽が。世界に闇が来る」


「ねえ、クローバー、私はあなたに生きて欲しい」


「なにを。何を言いだすんだレトロ。お前こそ生きるべきだ。お前が選ばれなかったら、俺はこの世界を呪い続けるだろう。まるで魔王のように」


「大丈夫。あなたが選ばれるわクローバー」


「いいや、お前だレトロ」


「あーもう! 二人で生きてください! 希望はあります! 見えるでしょ、まだ太陽はちょっとだけ残ってます!」


「そうは言っても……」


「大丈夫! 今、僕が見つけました!」


「本当か、佐々木!」


「ええ、僕を信じてください。さ、これを持って。そして二人で手を繋いで。しっかり握り合ってください。そう。そうです。それで魔術が発動するんですよね」


「佐々木……なぜ泣いている?」


「目の前で死なれたら、寝覚めが悪いからですよ!」


  ★


「ここは……洞窟の中のようだな」


「ええ、みて、小さく光が見えるわ」


「生きている」


「ええ、そうみたいね。私たち、元の世界に戻って来れたのかしら」


「確かめよう。佐々木が四葉を掴ませてくれていたなら、きっと、俺たちが冒険し尽くした元の世界に戻れているはずだ」


「……クローバー。こんな、見渡す限りに赤い土に覆われた場所、知ってる?」


「いいや、レトロ。俺の知る限り、こんな場所は、地図のどこにもなかった」


「どう見ても、不毛の大地……。空の色も、紫に近いかしら。見たことのない色をしているわ」


「ああ……」


「……今の、何の声かしら。獰猛そうな獣の叫びみたいな……」


「ここは、また別の異世界ということに、なるのだろうな」


「そろそろ日没のようね。このまま、手を繋いだまま、待ちましょうか」


「ああ……雨も降り出したことだし、さっきの洞窟で、その時を待つとしよう」


  ★


「みて、クローバー。朝日よ」


「日が沈むを通り越して、昇ったってのに、二人とも生きてる。ということは、本当に俺たちは助かったのか?」


「そのようね」


「よかった。生きている限り、希望は続く」


「ええ、これは間違いなく、奇跡ね」


「ああ。佐々木に、どのようなものを掴まされたのか、確かめていいか?」


「ええ」


「むっ、この草は……三葉に、一枚の葉っぱが接着されている」


「つまり、ニセの作り物――いえ、違うわね。これはもう、新しい術だわ。3+1の魔法。知らない世界に行く魔法。おそらく、無理に四葉にしたものは、転移術式の機能を完全に再現できなかった。かわりに、リスクも不完全になった術が上書きされて、それで私たちは助かったのね」


「ならば、強い覚悟が必要だ」


「ええ」


「さあレトロ、これからだ。この何もない世界で生き抜く勇気はあるか?」


「一人きりだったら、どんな世界でもだめだったわ」


「ああ。だが、俺がいる」


「今、覚悟は決まりました。あなたと一緒なら、どんな世界でも生きていきます」


  ★


 やがて、時が流れた。


 子供たちのはしゃぐ声がする。一緒になって遊んでいる大人たちも、楽しそうに声を弾ませている。


 大地には、一面クローバーのような緑が広がっていた。


 過酷な天候と闘いながら、家族に囲まれて幸せに暮らす老夫婦の姿がそこにはあった。


 大きな岩に腰かけて、庭を駆けまわる子供たちを、優しい目で見つめていた。


 もちろん苦労はあった。開拓は大苦難の連続だった。


 荒れ狂う天候、凶暴な獣、未知の病。


 大きな喧嘩も数えきれないほど起きた。


 長年かけて魔力を注ぎ込んで、聖なる草が新たな大地に増え始めた時、3+1の魔法を再び発動することはできなかった。


 環境が合っていないのか、どういうわけか葉が一つか二つのものばかりだったからだ。


 それらを組み合わせて無理矢理に四葉をつくってみても、術は発動してくれなかった。


 それでも、たくさんの喜びがあった。


 はじめに思い描いた自分勝手な幸福さよりも、さらに大きな、かけがえのない幸運と幸福を、3+1の魔法はもたらしたのだ。


 そして時が流れた今、広い広いクローバー絨毯の片隅に、ついに野生の四葉クローバーが誕生した。


 待ちに待った突然変異だ。


 末っ子が、その草に気付いて摘み取った。他とは明らかに違っていた。


 念願の四葉だ。


 両親に見せようと駆け出して行く。


 種類が違うため、永遠の若さと命などは望めない。


 けれど、これがあれば、魔王の呪いのような術式ではなく、正しい転移の術式で、老いた父がもといた世界に戻ることができるかもしれない。


 四葉に新たに葉を接着するなりして、知らない世界に飛び出すこともできるだろう。


 復活した魔王を倒しに向かうのだろうか。

 未知に飛び出して行くのだろうか。

 あるいは、父の恩人に恩返しにでも行くのだろうか。

 どこにも行かずに赤土の世界を探検し尽くしに行くのもいい。

 

 たくさんの道が広がっているのだ。



【終わり】

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