リッパー・コンサルタント(こんとらくと・きりんぐ)
「何度も言っているけど、嘆く必要はないんです。あなたの切り裂き様はそれは凄惨なものだったわけですし」
「でも、殺し屋さん。おれにはどうしてもそう思えないんです」
「検死官がそう言っていました。あんなにズタズタにされた惨たらしい死体は見たことがないって」
「どっちの検死官?」
「えーと、あっち。飼ってるトカゲの話が面白いほう」
「ラマドアですか?」
「そうそう」
「でも、彼女は先週のトラック事故の死体を見ています。おばあさんが車輪に巻き込まれてカタツムリの殻みたいにタイヤにべっとりに貼りついたやつです。あっちのほうがえぐいですよ」
「まあ、それには負けるかもしれませんが、でも――」
「ああ! やっぱりそうだ! おれは人ひとり、満足にも切り裂けないんです!」
「ちょっと、あああ、待ってください。いいですか、アルバートさん。そりゃあ、向こうはトラック一台用意して、おばあさんをひとり、車輪に巻き込んでカタツムリひとつです。でも、あなたはどうですか? 特殊鋼の殺戮爪一対と戦闘用スーツ一着で三人もバラバラにしたじゃないですか。そりゃあ、カタツムリのおばあさんには負けるかもしれませんけど、所詮事故です。それに、費用対効果っていうか、まあ、数では勝ってます。それに彼女が言うには、あれだけひどいのは検死官人生で一度あるかないかだって言っていました。でも、あなたは? 先週、五人切り裂いてるじゃないですか」
「うぅ。おれなんて、どうせ……」
「自信を持ちましょう、アルバートさん。あなたは最も残酷で情け容赦ないリッパーですよ」
深夜一時半だった。ショートヘアの少女、もしくは長髪の少年に見える殺し屋はなかなか睡眠をあきらめる決意ができなかった。こうなると、アルバートはなかなか離してくれない。朝の五時の太陽を見ることになるだろう。電話番号を教えたことを悔やんだ。『バカヤロー! てめえのことなんざ、知ったことか! 玉ねぎでも刻んでろ! 死ね!』と怒鳴って電話を切りたかったが、それをするとアルバートは本当に自分で自分の喉を切り裂いて死んでしまう。
「殺し屋さん。もうひとりの検死官はなんて言っていますか?」
「タカマツ? うん。誉めてましたよ」
「殺し屋さん。本当のことを教えてください」
「本当だよ」
「殺し屋さん!」
「わかった。えーと……マンネリだって」
たっぷり一分、沈黙だった。
「アルバートさん? アルバートさん? 生きてたら、生きてるって言ってください」
「生きてます。でも、もうすぐ死にます」
「アルバート。あの」
「おれにはもう誰かを切り裂くなんて資格がありません」
「ちょっと待って」
頭と肩のあいだにコードレスフォンを挟んだまま、パソコンをつけ、あとでホテル側から文句を言われるのを覚悟して、アングラ系サイトを開き、犯人がアルバートの殺人現場写真のなかから、タカマツ博士の好意的評価が殴り書きされた画像を探したが、けなすばかりで誉めるということがない。クソッタレめ、と危うく口に出しそうになった殺し屋はやっと一枚、見つけた。
「スタック通りの娼婦殺し。タカマツはべた誉めですよ。こんなに芸術的に切り裂かれた死体は見たことがないって」
「……本当ですか?」
「あなたには才能があるんです」
ぼくを寝かさない才能がな、と言いたいが飲み込む。
「だから、これからも切り裂き続けましょう。検死官たちの評価がなんです。彼らは嫉妬してるんです。自分たちがアーティストじゃないから。他殺死体を生み出せないから。自信がつきました?」
「はい……おれ、これからも頑張って切り裂けそうです」
「それはよかった。じゃあ、おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい」
もう二度と、切り裂き系暗殺者のカクテルパーティになんか行くもんか!