第08話
インターンシップとして楓が入社しておよそ一月。
十一月半ば。
大画面の液晶ディスプレイやプロジェクターも完備し、長方形の大きなテーブルに二十は越える座席。社内で一番大きなミーティングルームであった。本日はそこで各チームのリーダーが集まり、企画会議が行われる。
企画会議のため、ディスプレイが見えるようテーブルを挟んで椅子を配置しており、上座から、石橋、楓、片倉、賢吾、竜次、玲子の順に座っていた。
開始までに幾分か時間に猶予があるので、他のリーダー達はまだのようである。賢吾は緊張を和らげようと、ペットボトルに入っている水を一口飲んだ。
「ねぇねぇ、ケイちゃん。楓ちゃんが欲しいんですけど、ダメ?」
「ダメ」
石橋が片倉に猫なで声でおねだりをしたが、即座に却下された。
石橋冬華。
片倉と同い年の女性。CSとQAを統括しているリーダー。
身長百四十五センチと小柄で愛らしい容姿ではあるが、服装はあえて紺や緑やシックなものを多く選んでいるらしい。本人にとっては愛らしさはコンプレックスなようで、それをネタにしたり、理不尽な要求をされたりすると容赦なく噛み付く凶暴さがある。
通称、ソリッドの小型狂犬、獰猛なチワワ。
高いホスピタリティや柔軟性があると、輝成がスカウトしてきた新参者の一人であるが、片倉同様に賢吾への敵意はあまりない。
なお、石橋は輝成に惚れていたので、恋敵であった片倉とは当初反目し合っていたが、輝成亡き後、互いに慰めあったからか親友になったようである。
「楓ちゃんもウチがいいよね? 毎日お菓子あげるよ。ねっ?」
「……え? はぁ」
「守屋さんは小学生じゃないぞ」
石橋の勧誘に困惑している楓を見て、片倉が止めに入った。
楓は片倉が一任しており、まずはCSに入れたようだ。
自社のスタイルや提供しているアプリに対しての理解、業務の流れや落とし込みには、CSから着手するのが一番手っ取り早いと片倉は判断したのであろう。そして、この一月足らずで石橋に気に入られた。
「トーカのところには、中村さんという優秀な人材を半年前に補充したろ。それに、アルバイトの子達を正社員へ育成するのも仕事だよ」
「そんなのわかってるけどさ。楓ちゃんがCSを担ってくれれば、QAの中村さんと合わせて二本柱になるんだよ。そしたら私は左団扇なのに」
片倉から諭されるが、石橋はリスのように頬を膨らませていた。
和やかな雰囲気の中、続々と集まってくる人々によって、場の空気が引き締まっていく。
入ってきた人達は、賢吾達と対面の上座から座っていった。
松井天音。
年齢は賢吾の二つ上で、三十七歳。グラフィッカーを統括しているリーダー。
初めて輝成がスカウトしてきた新参者だが、立ち上げ当初から関わっているため古参者ともいえる。
セミロングの金髪、セーターにチノパンなどラフな格好を好んでおり、元ヤンキーなだけあってきつめな印象を受けるが、顔立ちは綺麗。
既婚者で三人の子を持ち、旦那は専業主夫。陰口を好まずさっぱりした性格で、古参者達からも姉御と慕われている。
その横には、寺島巧。
賢吾と同い年。営業と広報を統括しているリーダー。
輝成がスカウトしてきた新参者達の一人。片倉ほどではないが、整った容姿にブランド物のスーツを身に纏う姿は若々しく、賢吾とタメには見えない。営業力やマーケティングに長け、いかんなく力を発揮しこの会社を潤してきた。
ただ、既婚者だが大の女好きで、浮気がバレては奥さんに平謝りしているという。片倉曰く、仕事ができなきゃただのクズ。
寺島の席から二つ空いたところに座ったのが、山岡泰示。
三十三歳。プログラマーチームのリーダー。
身長は百五十五センチで痩せ型、いつもフード付きパーカーとジーンズを着用しており、一見根暗そうに見えるが実際に根暗である。
プログラミング能力はずば抜けているが、コミュニケーション能力の低さが難点。リーダーとしては、能力のみの背中で引っ張るタイプ。輝成信者の新参者で、賢吾に対しては敵意を向けている。
そこから三人続く。
まずは、辰巳圭祐。
三十二歳。サーバー管理チームのリーダー。
身長は片倉と同じくらいだが、ぽっちゃりした体型で、冬でもよくTシャツを着ている。
高いコミュニケーション能力を駆使し、外部のサーバー会社とも上手く連携でき、尚且つ自身もサーバー構築ができるプロフェッショナル。山岡と同様に輝成信者の新参者。賢吾のことは、輝成の傀儡としか見ていない。
栗山昴広。
三十三歳。プログラマーチームのサブリーダー。
坊主刈りに金髪、更にガタイも良いため厳つく見える。【滅殺】では特攻隊長をしていた。アロハシャツなど派手な物を好んで着用しており、ファッションセンスはない。
当初輝成には反発していたが、能力を見込まれゼロからプログラミングできるようになり、賢吾とは別の意味で輝成を崇拝していた。
立ち上げから関わっている古参者だが、山岡に実力不足を指摘されサブへと降格。山岡とは仲が悪い。
平田祐樹。
三十三歳。サーバー管理チームのサブリーダー。
身長百六十五センチで細身、身なりはトレーナーにカーゴパンツと地味目な物を好み一般人その者だが、【滅殺】では竜次のサポートをしていた男である。
栗山と同じく輝成に見出された者で、輝成を深く敬愛していた。
立ち上げからサーバー管理を担っていたが、詰めの甘さを辰巳に見抜かれサブへと降格。辰巳とは仲が悪い。
そして、空いていた寺島の横に座ったのは、渡辺瑠衣。
二十七歳。
企画やプロジェクトを推進するチームに属し、サブリーダー二人の内の一人で、橘が次のエースと推す人物。そのもう一人のサブリーダーは、人事を兼任している片倉である。
身長百六十センチ、茶色の緩いニットと深緑色のスカンツを着用し、肩まで伸びた茶髪の先をカールさせ、表情も常に朗らかでゆるふわ系な美人。
なお、仕事に対しては真摯に取り組んでおり、輝成亡き後に片倉が採用した社員。橘、賢吾、どちらの派閥にも与せず社内の軋轢には関心がない様子。
最後。
残っていた席、渡辺の横であり賢吾の目の前に座ったのが、橘宗一郎。
三十七歳。企画やプロジェクトを推進するチームのリーダーで、ソリッドのプロデューサー。
身長は賢吾と同じくらいで細身、毎日決まって紺色のスーツを着ている。また、よく眉間にしわが寄っており威圧感が凄い。指揮能力が高く、しっかりと方向性を正して律する。ソリッドの浮沈に関わるキーパーソンである。
プライベートでは子が二人の既婚者で、妻は専業主婦。
輝成がスカウトしてきた新参者であり、深く輝成を信頼していた。賢吾のことは輝成にたかっている不良債権と認識しており、毛嫌いしている。
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