表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/70

第54話


 重い瞼を少しずつ開いた。


 賢吾の視界に、見慣れた白い天井が入った。


 賢吾は気怠さを感じながら身体を起こし、状況を確認していた。


 自分の家、自分の部屋であり、賢吾自身はパンツ一丁であることがわかった。


 なぜここに?

 と額に手を当て考えていると、


「賢吾。大丈夫か?」

 部屋に入ってきた竜次が、不安と怒りを合わせたような表情で言った。


 そうか、自分は昨日あのまま山下公園で気絶してしまい、竜次が助けてくれたのか。と賢吾は状況を把握する。それと共に、昨日の最悪な気分がよみがえってきた。


「面倒をかけちまってすまん」

 気が塞いでいることを見せぬよう、賢吾は竜次の顔を見ずに言った。


「昨日お前が会社を出てから二時間ちょっとかな、向坂さんから会社に電話がかかってきて、お前に話があるってさ。会いに行ったはずなのにおかしいなと思って、電話をかけたらお前はおかしなことを口走るだろ? 位置情報を頼りにしてお前を山下公園で見つけたけど、死んでいるのかと思ったぞ。全く……電話に出ろや」

 竜次の言葉の端々には怒気が込められていた。


「向坂さんからは何も聞いてないのか?」


「聞いたけど教えてくれなかった。重大なことなので、お前から指示があるまでは開示できないって……どんなことだよ」

 イラ立つ竜次に対し、賢吾は目を逸らした。


 舌打ちをした竜次は一つ息を吐き、

「向坂さんも話があるみたいだから、今から呼ぶぞ。それから、玲子とデカも来ている。着替えたらリビングに来い」

 と言ってドアをバタンッと強く閉めた。


 賢吾は大きな溜め息を吐いてから、部屋にある時計で時刻を確認した。


 午後二時三十八分だった。


 あの状態からずいぶん寝たな、と自嘲的な笑みを浮かべ賢吾は起き上がった。


 部屋着である上下グレーのスウェットに着替え、賢吾はトイレで用を足した後一階へと降りた。そのままリビングに入ると、片倉と玲子がソファに座っている姿が目に映った。


「雁首揃えて……いつから暇になったんだ?」

 ソファに座った賢吾は、表情筋を一切動かさずボソボソと言った。


「暇なわけないでしょ? 僕はさっき来たばかりですよ。社長が守屋さんをクビにするとか言うもんだから、わざわざ来たんです!」


「賢ちゃん、冗談だよね?」

 憤る片倉と、困った顔をする玲子。しかし、賢吾は何も答えなかった。


 竜次は温かいほうじ茶が入った湯飲みをテーブルに置くと、玲子の隣に座った。そして、竜次からも非難の視線を賢吾は向けられていた。


 賢吾は湯飲みに手をつけ、ほうじ茶を一口飲んだ。フーッと息を吐いて、湯飲みを戻すと賢吾は口を切る。


「デカ、守屋さんがいなくなると厳しいか?」


「守屋さんが抜けた状況を社長も見ていたでしょう? 調整能力が凄いのは勿論ですが、そもそもメディタルは守屋さんが企画し主導しているアプリです。彼女なしでは成長しませんよ!」

 賢吾の隣にいた片倉は、目を剥いて捲し立てた。


「じゃあ、メディタルを消すか……」


「社長ぉ!」

 気の抜けた返事の賢吾に、片倉の強烈な怒号が響いた。


「賢吾、お前自分で何を言っているのかわかっているのか? ブリッツにも常駐しているんだぞ。井端さんの顔に泥を塗るつもりか?」

 竜次は、怒りからだろうか眉間がピクピクと動いていた。しかし、賢吾の魂が抜けきった態度が変わることはなかった。無表情のまま、賢吾は竜次へと視線を合わす。


「俺が井端さんに土下座をしに行くよ。でも、多分許してくれると思う」

 小さな声で賢吾は言い返し、ほうじ茶を飲んだ。


「賢ちゃん……何でよ? 何で楓ちゃんをクビにしなきゃならないの?」

 玲子は泣きそうな顔になっており、声を震わせて言った。玲子の態度に呼応するかのように、竜次と片倉も厳しい視線を賢吾へ向け続ける。だが賢吾は意に介さず、ほうじ茶を飲んでは息を吐いてを繰り返していた。


 玲子の言葉から、一分ほど経った頃。


 賢吾は湯飲みをテーブルに置き、ソファへ深く座り直した。


 ……言うか。

 と心の中で呟いた賢吾は、一度天井を見つめてから三人へと顔を向ける。


「守屋さんは……守屋楓じゃない」

 賢吾が言う。しかし、三人共一様に怪訝な表情を浮かべていた。


「鉄楓だ」

 三人の状態を置き去りに、賢吾は単調に続けた。


 だが、状況が飲み込めていないのか、三人の態度は変わらなかった。そんな中で一番最初に気付き、顔が青ざめたのは竜次だった。


「鉄って……もしかして?」


「そうだよ」

 竜次の問い掛けに、賢吾は平然と言った。この段階で玲子も気付いたらしく、顔が引きつっていた。


 賢吾は深呼吸した後、

「守屋楓の父親は、鉄恭一だ」

 そう、決定的に告げた。


「はぁ……」

 小さな声と共に、竜次と玲子は沈痛な面持ちへと変わった。


「鉄恭一って……10.5爆破テロの犯人?」

 片倉が信じられないといった様子で賢吾へ確認するが、賢吾は鼻を鳴らした。


「ああ、知ってるだろ? 俺の妹、真利亜を殺し、コウの精神を壊した元凶だよ」

 またも賢吾は感情を全く込めずに言った。


 輝成が苦しんでいた様を片倉も見ていたので、ようやく理解したのであろう。片倉は顔を両手で覆ってから、大きく息を吐いた。


「そういうわけでクビにしたい。いや……する」

 淡々と続ける賢吾だったが、このタイミングで訪問を知らせるチャイムが鳴った。


 玲子が玄関まで出迎えにいき、向坂と遠山をリビングに連れてきた。


 向坂と遠山は深々と頭を下げたが、賢吾は会釈をしただけだった。


 それから、竜次と玲子が向坂と遠山の分の茶を用意し、L字ソファには賢吾、片倉、玲子、竜次が座り、対面のカウチソファには向坂と遠山が座った。


「昨日お話しきれなかったことを、どうしても伝えたくて参りました」

 向坂は鞄をソファの横に置き、また賢吾へ一礼した。


「自分も聞きたいことがあったので、丁度良かったです」


「聞きたいこととは、何でしょうか?」

 向坂が賢吾の言葉に反応した。


「いや、それは後で聞きます。まずは昨日見せていただいた、守屋楓の戸籍謄本はありますか?」

 賢吾はそう言い、向坂の返事を待った。向坂は鞄から一枚の紙を取り出すと、一度テーブルの上に置こうとしたが躊躇っていた。


「構いません」

 と言う賢吾に促され、向坂は楓の戸籍謄本をテーブルの上に置いた。


面白かったら☆とブクマをどうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ