第49話
社員達が右往左往している中、賢吾は邪魔にならないよう自席へと戻った。
「賢ちゃん。ちょっとこっち来て」
着席した瞬間、玲子から声を掛けられた。
浮かない表情の玲子に、賢吾は手招きされるがまま近くのミーティングルームへ入らされた。中には竜次もおり、賢吾は座ったと同時に目を向ける。
「どうかしたか?」
賢吾の言葉に、二人は重苦しい空気を返してきた。賢吾が眉間にしわを寄せていると、玲子がゆっくりと喋り始める。
「そろそろ落ち着いたかなって、状況を確認しようと一昨日楓ちゃんに電話で連絡をしたのよ。でも全く繋がらないから心配になって、昨日楓ちゃんの家に行ったのね。でも、留守だった。今朝も出勤前に行ったんだけどやっぱり留守で……嫌な予感がしたから、慌てて大家さんに連絡して、楓ちゃんの部屋を開けてもらったのよ」
「……それで?」
「楓ちゃんはいなかった」
え?
と疑問を浮かべる賢吾の顔に、同調を示す玲子と竜次であった。
「その時たまたま隣人の女性が出てきて、この部屋の人を知りませんか? って聞いたのよ。そしたら、先週の土曜くらいから生活音が全くしなくなったって言った。楓ちゃんの家、鉄筋コンクリートのマンションなんだけど、築年数が経っていて劣化していたし、そもそも壁が薄くて生活音が結構聞こえるんだって。だから、部屋にいる時はわかるって言っていたわ。それで今……二人で警察に捜索願いを出そうか話し合っていたとこ」
「いや、今直ぐに出そうよ」
何を迷う必要があるのか、と賢吾は思い口にした。
直ぐに言い返した賢吾に対し、玲子は渋い顔を向ける。
「でも、どこかに旅行しているのかもしれない。一週間は丸々休みにしたわけだしね。休んでる時に警察がいきなり来たら、楓ちゃんショックじゃないかな? 悪化しちゃわない?」
「だからって、電話くらいはでれるだろ?」
竜次が玲子の意見に反発したが、
「コウちゃんの時もそうだったじゃん! 症状が酷かった時は、賢ちゃんも意図的に接しなかったって言っていたよね?」
玲子は悲しそうな表情を浮かべ反論し、賢吾にも訴え掛けた。
……確かにそうだった。
「ああ、医者から言われたからな。優しくするのもいいが、少し一人の時間を設けた方がいいってな。俺も極力コウが望むようにしていた……玲子の言い分もわかるな」
そう、賢吾は輝成が鬱病やパニック発作を患っていた時のことを思い返し、玲子の意見も一理あると同意した。
「言いたいことはわかるが、最悪のことも考えられる。俺は出した方がいいと思うぞ」
だが、竜次の意見は変わらなかった。
その主張も理解できる。と思ったのであろう、三人一斉に黙りこくってしまった。
「……あ」
ふとその瞬間、賢吾の声が漏れた。
「向坂さんのとこに聞いてみる」
賢吾がそう言うと、二人共ポカンとしていた。
「守屋さんの恩人を探してもらっている興信所だよ。情報が少なすぎるって言っていたし、あの人のことだから多分守屋さんのことも調べているはずだ。守屋さんがいそうな場所を探すか、警察にも依頼するかは、向坂さんに聞いてからにしよう。ちょっと待ってて」
賢吾は二人に説明した後、向坂探偵事務所へ電話をかける。三コール後に遠山が出て、賢吾はどうしても今から向坂に会いたいと言った。確認の時間が大分あり無理かと思ったが、直ぐに来てくれるのであれば大丈夫とのことだった。賢吾は礼を言ってから通話を終了し、二人へと向き直った。
「今から行くなら大丈夫みたい」
賢吾が二人へそう言うと、
「じゃあ残っている仕事は俺が引き受けるから、お前はダッシュで向かえ」
「話が終わったら、直ぐに連絡を頂戴ね」
竜次、玲子の順で言われ、賢吾は頷いた後、帰り支度をし向坂探偵事務所へと向かった。
『必ず瀬戸や刑事に確認をしろ。絶対に自分だけで処理をするなよ』
電車内、井端の言葉が賢吾の脳裏をよぎった。
あの場には竜次もいたが、その後勝手に一週間の休暇を与えたのは自分だ。やはり、竜次や片倉と協議するべきだった。と賢吾は後悔の念に駆られていた。
向坂探偵事務所のドアをノックした賢吾は、急いで来たため息を切らしていた。心配そうな顔をした遠山に中へと案内され、賢吾はソファに座り呼吸を整えていた。
「すみません……」
向坂が対面のソファに座ると、賢吾は軽く頭を下げた。
「大丈夫ですか? どうぞ飲んでください」
そう、遠山は冷たい緑茶が入ったコップを賢吾へ差し出した。賢吾は一礼し、一気に飲んだ。
賢吾の呼吸が整い始め、心配そうに見つめている向坂にも笑顔を見せた。
「いきなりのご相談で、申し訳ありません」
「いえいえ、私も話したいことがあったので丁度良かったです」
「え? 話したいことですか? 手短であれば先にうかがいますが?」
向坂からの思わぬ返答に、賢吾はどうぞと手を出した。
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