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第46話


 賢吾は竜次に顔を向け、

「竜次も洋食は得意だけど、何か違うな」

 と言うと、


「ああ、これもうプロだわ」

 竜次は小さく頷き素直に褒め称えていた。


「あざまーす! 十八番は生地から手作りのマルゲリータです。片倉さんに言っておいてください!」


「言っとく言っとく。可愛いわね」

 渡辺は座ったまま深く頭を下げ、玲子はその頭を撫でていた。


「あの、すみません。私のハンバーグと竜田揚げはあんまり期待しないでください。瑠衣さんと比べられると……」

 渡辺の出来が凄まじいため、楓は身体を縮めていた。


 渡辺は楓の竜田揚げを一口食べると、

「んん! 美味しいじゃん! 私、意外と肉料理にはうるさいけど全く問題なし! これにはハイボールね」

 と言ってハイボールの缶を開けてあおった。


「プロの味から家庭の味になって和むわね」


「美味しいよ」

 玲子と竜次も楓の料理を食べ、同様の感想を述べた。


「良かったぁ」

 そう、楓は胸を撫で下ろしていた。


 賢吾も楓が作ったハンバーグを口へと運ぶ。肉汁とデミグラスソースの旨味が口の中に広がった。


「うん美味い。でも……食ったことがあるような気がする」

 美味いのは間違いないが、なぜか賢吾は懐かしさを感じた。何でだろうと賢吾は熟考していたが、渡辺の笑い声でかき消された。


「社長ぉ。私に相手にされないからって楓ちゃんですか? そういえばここ何ヶ月か、二人でよくミーティングルームにいますよね。見境ないなぁ」


「瑠衣さんそれは……」

 楓は喋り掛けたが、瞬時に賢吾が手で遮り、

「君、ちょっと黙ろうか」

 渡辺には目と言葉で制した。


 が、

「いや、まだ六杯目です。よゆーっす!」

 渡辺は完全に酔っぱらっていた。


 文句を言おうと思ったが、渡辺の姿に賢吾は力が抜けてしまう。そしてその瞬間、井端の言葉を思い出した。


「そういや、井端さんが君達二人を褒めていたぞ。良かったな」


「マジかい? あの人が褒めたの輝成しか知らんぞ」

 竜次は口をあんぐりとさせていた。


「いやぁ、二人共頑張ったもん。そりゃ井端さんも褒めるよ」

 玲子はよしよしと二人の頭を撫でにいった。


 二人共破顔しており、

「威圧感が凄い方でしたね」

「わかるぅ。自然と背筋伸びちゃったもん」

 楓、渡辺の順で井端の感想を述べた。


「コウが唯一尊敬していた人だもんな、そりゃそうなるか」


「波多野さんも怖い感じだったんですかぁ?」

 渡辺に聞かれた賢吾は首を振る。


「いや、タイプが違う。井端さんは圧倒的な雰囲気を出すけど、コウの場合は支配するような雰囲気だったな。でも不快さはなくて、それが心地いいんだ」

 賢吾の比喩に、渡辺はニヤニヤとしていた。


「やっぱり波多野さんって楓ちゃんと似てるぅ」


「それやめてくださいよぉ」

 楓は渡辺に泣きそうな顔を向けていた。


「そうだ、賢ちゃん。移転前にここでやった飲み会、撮っていたよね?」


「あー、あったな。ちょっと待ってて」

 玲子の提案に、賢吾はすぐさま立ち上がった。


「会社を上大岡からみなとみらいに移転する時、ここで飲み会をやったんだ。コウが映ってるから見せてあげるよ。ちなみに、デカもいるぞ」


「うおおおおおおっしゃい!」

 渡辺は上体を反らして喜びの声を上げた。


「どんな叫び方だよ」

 と竜次が笑う声を背に、賢吾は動画を保存していたタブレットPCを取りに向かった。自室にあったタブレットPCを手に取り、賢吾はリビングへと戻る。その際、渡辺から大袈裟な拍手で迎えられた。


 賢吾は皆が見える位置にタブレットPCを置き、動画ファイルを再生させた。


『えー、飲み会から三時間が経ちました。こらぁ、お前ら飲みすぎだぞー。じゃあ、一人ずつ決意表明といこうかね、まずは昴広』

 撮影して声を出しているのは賢吾だった。


「これ六年前か? 懐かしいなぁ」


「皆若いね」

 竜次と玲子が笑い合っている中、渡辺と楓は食い入るように動画を見ていた。


 動画の中では栗山や平田、竜次や玲子、松井が映り終え、片倉の出番となった。


『石橋さんが邪魔です。輝成さんにまとわりつかないで欲しい』


「くはぁ……片倉さん……今も昔もイケメンすぎる。社長、これ後で送ってください!」

 渡辺はKOされたかのように倒れ込み、最後に賢吾へ懇願した。賢吾はわかったわかったと、半笑いで頷いた。


『片倉君がうざい、てか目障り。輝成さんのバックアップは私だけで充分です』


「噂には聞いていましたけど、片倉さんと石橋さんって本当に仲が悪かったんですね」


「ね。てか、むくれてる石橋さん、今と全然変わらない。小動物みたいで可愛い」

 石橋の映像を見た楓と渡辺が感想を言い合った。一応石橋は先輩なのだが、渡辺は完全に上から目線であった。


『じゃあ、最後にコウ。つうかデカと石橋さん……コウの両腕から離れろ』


『まだまだ始まったばかりですけど、皆のお陰で先へ進む光が見えてきました。真利亜さんのためにも会社をでっかくしましょう! ね、賢さん!』


「波多野さん、優しそうな方ですねぇ。……あれ? 真利亜さんって、波多野さんと一緒に交通事故で亡くなったんじゃないんですか?」

 渡辺は輝成の感想を言った後、賢吾へ確認してきた。


 真利亜が10.5で死んだとは、社内で公にはしていない。


 賢吾は言おうかどうか迷ったが、この子達ならいいかと意を決する。


「いや、違う。真利亜が死んだのは10.5なんだ。それで、恋人である真利亜のためにコウが会社を立ち上げた。表立って言うことじゃないし、皆には気を使ってもらいたくないからあえて教えていない。このことは、一部の社員しか知らないから内密にね」

 賢吾の言葉に、渡辺は動きを止め絶句。楓は尋常じゃないくらい目を大きく開き、完全に青ざめていた。


面白かったら☆とブクマをどうぞよろしくお願いいたします。

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