第43話
それから飲み込み終わると、井畑はまた真面目な顔つきに戻る。
「ウチとしてはクオリティの高いアプリを常駐させることが一番なわけ、それがユーザーへの満足度に繋がるからな。確かに、Flameのユーザーも取れるだろう。だが、そもそもFlameはブリッツと異なるSNSアプリだ。その良さを理解しているユーザーであれば、簡単にこちらへは流れてこない。ブリッツにメディタルを置くことで、メディタルは一瞬で日本一のメンタルケアアプリとなる。それだけのポテンシャルがあるんだよ、自分達でその可能性に気付いていない。そこがアホ!」
「単体でFlameを越える可能性もある……ってことですか?」
「そう」
信じられないと思いながら聞く賢吾に、井端は即答だった。
「多分、刑事や橘も薄々はわかっているのかもしれないが、世間からウチの子会社だと思われるのが癪に障るんだろうな。全く、輝成ならそんなこと気にしねぇに……。業務提携なんだから、ウチと対抗するかは自社を大きくしてから考えればいい。事実として受け止め、負けではなく勝ちへの途中と思えばいいんだよ」
井端は話し終えると、
「……どうした?」
と言って唖然としている賢吾に眉をひそめた。
「いや、ちょっと感動しちゃいました。さすがコウの恩人ですね」
やはりこの人も別次元の人間だと、賢吾は感嘆していた。
賢吾の態度に、井端は苦笑いを浮かべる。その後はこの話題は止め、最近ランボルギーニを購入したと井端が言い、賢吾は興奮して今度乗らせて欲しいと懇願する。終始互いの趣味を話し合い、昼食は盛り上がった。
昼食を終えた賢吾と井端は、クイーンズスクエアの道路沿いに待たせていた社用車へ向かっていた。といっても一分も掛からないので、直ぐに井端の社用車である黒のロールスロイスが賢吾の目に映った。
井端が車へ近付くと、男性の運転手が出てきて後部座席のドアを開けた。井端はそのまま車へ乗ろうとしたが、動きを止め賢吾へ顔を向ける。
「そういやさっき渡辺さんと守屋さんを紹介してもらったが、二人共メディタルに関わっているんだろう? 陽と陰が上手く合っているコンビだな」
「はい。守屋さんが企画し、二人で仲良くやっているみたいです」
井端は普段人を褒めないので賢吾は驚いたが、井端に評価されたことが純粋に嬉しく思い笑顔で答えた。
「刑事にしてはいい目利きだ。あの二人相当えぐいぞ、絶対に逃すな。逃がしたらウチがもらうからな」
「勿論、大切にしますよ。ヘッドハントは勘弁してください」
「輝成には松井や刑事だけじゃなく、いっぱい持っていかれているんだ。そうはいかん」
井端は意地悪げに言うが、今までそんなことはしなかったし、これからもそうであろう。と、賢吾は引き続き穏やかな表情だった。
「賢吾。純粋さはお前のいいところだが、疑うことも覚えろ。自分が無知だという認識はしているんだろうから、必ず瀬戸や刑事に確認をしろ。絶対に自分だけで処理をするなよ。俺が詐欺師だったら、お前の財産を根こそぎ奪ってるからな」
井端は真剣なトーンで言った。緩んでいた賢吾の表情が引き締まる。
「肝に銘じておきます」
賢吾は自身に刻み込むように言った。その姿を見て井端はフッと笑い、車を発進させた。
走り去る井端の車へと頭を下げ、車が見えなくなると賢吾はその場から離れた。
自分自身のことも含め、沢山の金言をもらってしまった。相変わらずパワフルな人で、敬服するしかないなと思いながら賢吾は会社へと戻った。
それから賢吾は片倉と橘に井端の真意を伝え、どうするかは橘達で決めて良いと委ねた。
井端の真意や輝成ならやったという意見に橘は賛同したが、片倉は渋っていた。というか、駄々をこねていた。橘も不貞腐れている片倉を無視して強行することはなく、渡辺と楓も含めて協議した。
結果、賛成三人、反対一人でブリッツへ常駐させることが決まった。
「社長が井端さんに言いくるめられるから、こうなったんですよ。僕がいるんだから、任せてくれればいいものを……」
「お前、俺の目を見て言え」
片倉はいじけていたが、本人もどっちが正しいかはわかっているのだろう、全く賢吾と目を合わせようとしなかった。
早急にブリッツとの連携作業に取り掛かった橘の好判断、テンポ良く進める渡辺と楓のコンビネーション、不満そうではあるがやることはやる片倉。メディタルプロジェクトチームの総力を上げて、事に当たっていた。
その甲斐もあり、一月足らずでブリッツ内にメディタルが実装された。
そして、井端の予言は完全に的中した。
メディタルは一瞬にして世間へと浸透していった。
だが代償も大きかった。
ブリッツから大量のユーザーがメディタルに雪崩れ込み、特にプロジェクトチーム、サーバーチーム、CSがパンク状態になった。
サーバーチームは調整や増設作業を二十四時間交代体制でやっており、プロジェクトチームやCSも休日を取らず毎日出社していた。石橋なんかは疲れ果て完全に狂犬と化しており、実際に賢吾は何度も噛み付かれた。
そして他社員達も、夜遅くまで残業する日が続いた。
輝成がいたら、こんなことにはならなかったであろう、と賢吾は申し訳ない気持ちがあったが、Flameがリリースして飛躍していく様を思い出していた。
会社が成長していく、加速していく様子をまじまじと見ることができる幸せ……いや違う、それだけではない。輝成が残したものを、より高みへと昇らせることができたという達成感があった。
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