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第39話


 松井も少し口角を上げ、賢吾へ目を向ける。


「昔は賢吾も冬華ちゃんと同じようにベロベロになるまで飲んで、迎えに来た輝成君から冷たい目で見られていたのにね」


「コウの気持ちが少しだけわかってきましたよ」

 当時を思い出し、賢吾は自虐的に笑った。


「あ……でもどうしようかな。さっき旦那に連絡しちゃったんだよね」

 松井はそう呟くと、鞄から携帯電話を取り出し、

「着いちゃってるみたいだわ」

 と液晶画面を見ながら言った。


「じゃあ、俺が送らなくてもいいですかね?」


「んー。楓ちゃんって家どこ?」

 賢吾の言葉に少し唸った後、松井は楓に顔を向けた。


「大和駅近くです」

 楓が答えた。なお、その姿は石橋に抱きつかれ硬直状態のままだった。


「そっか。じゃあ冬華ちゃんは私が送っていくから、楓ちゃんは賢吾が送ってあげて」

 松井は石橋を自分に、楓には賢吾を指さして言った。


 松井の自宅はみなとみらいにあるタワーマンションであり、石橋が住んでいる野毛町は通り道となるが、大和市は丸っきり正反対の方向だった。既に松井の夫が迎えに来ているので、指示は合理的であり納得がいくものだった。


「えー、社長が送り狼になるかもしれないじゃないですか! 私の楓ちゃんが危ない!」

 石橋は更に力を込めて抱きついているのか、楓が苦しそうな顔をしていた。


「送り狼になるわけないだろ」

 賢吾は単調な口調で言った。


「賢吾にそんな度胸があると思う?」

 松井が鼻で笑うと、

「……ああ……ヘタレ童貞野郎ですもんね」

 そう言って石橋はようやく楓から離れた。


「何かムカつくなぁ」

 と賢吾は舌打ちをするが、二人が気にする素振りは全くなかった。


「あの……送ってもらっていいんですか?」


「いいのいいの。そもそも私達が無理やり誘ったんだし、終電も終わっちゃったからね。気にしないでよ」

 恐縮している楓に対し、松井は笑顔で答えた。


「ありがとうございます」

 頬を緩めつつ頭を下げた楓を見て、

「それじゃ、守屋さんは店の前で待ってて」

 賢吾はそう言った。


 楓が頷いた様を確認し、賢吾が行こうとした瞬間だった。


「賢吾。絶対にないとは信じてるけど、もし楓ちゃんに手を出したら命はないからね」

 松井が右手拳を上げ言ってきたので、

「百パーセントないので、ご安心ください」

 賢吾は真顔で言い返した。


「なら良し」

 松井は手で払う仕草をし、薄く笑った。


 それから賢吾が車で店の前まで来ると、三人が店の前に立っていた。


 松井と石橋が残っていたのは楓を見送るためだったようで、それ自体は良いことなのだが、楓が車の後部座席に座ると石橋も乗り込もうとしたので、松井が止め最終的には後ろから羽交い絞めをしていた。


 早く行けと松井に手で合図をされ、結局別れの挨拶もせず慌ただしく出発することになったが、昔自分も似たようなことをして輝成を困らせていたと思い返し、賢吾は楽しさと悲しさが入りまじったような気持ちになった。


「とりあえず大和駅まで行くから、そこから指示してもらっていい?」


「あ、はい」

 大通りに入って賢吾が言うと、後ろから遠慮がちな楓の声が聞こえた。


 なお、住所を聞いてナビに入れた方が手っ取り早かったが、賢吾は何となく住所を聞くことに抵抗があったのでやめた。


「松井さんと石橋さんに付き合ってくれてありがとうね」

 賢吾は前を見据え、口元を緩めた。


「そんな、私なんかが滅相もないです。お二人と食事ができて光栄です」


「なんかがって……やめなよ。君も凄いんだからさ」

 かしこまった言い方をする楓に、賢吾は軽く笑った。


「いえ、一緒に仕事をすればするほど、松井さんや石橋さんの凄さがわかるんです。お二人だけじゃなく、片倉さんに瀬戸さん夫妻、橘さん、瑠衣さん、山岡さん、辰巳さん。皆さん……本当に凄い方達です」

 楓はしみじみと感じているかのように言った。


 言葉に重みがあり本心なのだろうとわかったが、挙げた人の中に寺島が入っていない。そのことが賢吾的にはツボで若干ウケたが、片倉のガードがしっかり効いている証拠でもあった。


「けど……君が絶賛している二人は、君をコウの後継者に推していたぞ」

 寺島の件で笑いの余韻を残しつつも、賢吾は平静を装いそう返した。


「そんなの無理ですよぉ」


「デカでも荷が重いんだ。気にしなくていいよ」

 笑い飛ばすように言った賢吾に、楓は安堵の吐息を漏らしていた。


「波多野さんは偉大な方だったんだと、聞けば聞くほど思います」

 楓が言った。声から真剣さが伝わり、賢吾は少し間を置いてから語り始める。


「ウチの妹、真利亜は中学で英語がペラペラになって、学業だけじゃなく芸事も得意でさ。こういう奴が天才っていうんだろうなと思った。けど、真利亜は自分のことを天才だと思っていなかったようで、底が見えない力を持つ者、コウみたいな奴が天才なんだと言った。松井さんがコウを異次元だと評したが、コウは正しく天才だったよ」


「そんな天才と比べるのは、苦痛でしかないんですが」

 楓は沈んでいきそうな感じで言った。賢吾はクスッと笑い、赤信号で車が止まると、


「守屋さんの恩人ならどうだろう?」

 そう、バックミラーで楓を見ながら聞いた。


「……え?」


「恩人の話を聞かせてもらっているけど、かなり常軌を逸しているよな。君がデカにも負けないって言っていたわけもわかるんだ」

 賢吾はそう言った。

面白かったら☆とブクマをどうぞよろしくお願いいたします。

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