表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/70

第27話


 片倉は携帯電話をしまうと、何かを思い出したかのような所作をする。


「あ……そうだ。僕がゲイだってこと、引き続き絶対に口外禁止ですよ。知っているのは社長、瀬戸夫妻、トーカ、松井さんの五人だけですからね。ゲイだとバレたら仕事に支障をきたしますので、注意してください」

 そう釘を刺してきた片倉に、賢吾は冷たい視線を向ける。


「お前、女性社員を弄んで楽しい?」


「だから言ってるじゃないですか。僕に好意を抱いて業務の効率が上がれば、それは素晴らしいことでしょう。僕は女性に興味がありません。彼女を作ったり、裏切ったりするようなことはない。完璧ですよ」


「いや、ゲイで最終的には結ばれるわけがないのに、私もいけるんじゃないかって期待させる方が罪じゃね?」


「まぁ、ある意味アイドル活動に似ていますよね」


「いいように解釈すんな」


「なので、秘密厳守でお願いします」

 また、指をバッテンにして口につける片倉であった。賢吾の疲れ切った息と共に、二人はクイーンズスクエアを出た。


 よこはまコスモワールド観覧車の時計は、0時38分を表示していた。


「真利亜さんも愛されていましたね。だから会社をここに移転したんでしょう?」

 賢吾がぼんやり眺めている姿を見ていたのか、後ろから片倉の言葉が聞こえた。


「ああ。立ち上げ当初は、竜次のコネで借りた上大岡の安い雑居ビルだったからな。デカも移転する前に入ったから知ってるだろ?」


「はい、ボロボロでしたね。あそこ」

 片倉がそう嘲笑する場所は、ワンフロア二十五畳で三階建てのビル。一階分を丸々サーバー室にしていたため、実質二階分しか使えない。そんな中で、社員二十から三十名ほどが窮屈に仕事をしていた。


 松井は起業の時からいたので当たり前だが、片倉と石橋も上大岡時代に入社したため、松井と片倉と石橋は新参者達の中でも、上大岡組と呼ばれている。したがって、古参者達ともほとんど軋轢がない。というか、輝成を除く古参者達を顎で使っていた。


 賢吾はみなとみらいの風景を眺めながら、話し始める。


「俺の家から近所だったこともあり、港が見える丘公園、元町、山下公園、赤レンガ倉庫等々、みなとみらい周辺をいつも真利亜がコウを連れ回していたよ」


「羨ましい話です」


「だからだろうな。業績が軌道に乗り始めて、コウがここに移転したいって言った時、俺は泣きそうになった」


「……今、泣いてますよ」


「泣いてねぇよ!」

 手で目を拭って鼻水をすすり賢吾は気を張ったが、片倉にはバレていたようで口元が緩んでいた。


「社長、二フロアとかそんなみみっちい話じゃなくて、クイーンズスクエア丸ごとをウチが買い取ってやりましょう!」


「大きく出たな」

 賢吾が言い返すと、片倉は更に得意げな表情になった。


「僕がやってみせます! なぜなら……」

 そう言って溜める片倉。これから言うであろう言葉が賢吾にはわかり、

「輝成さんの後継者だから!」

「輝成さんの後継者だから!」

 片倉と同時に言った。


 片倉は賢吾もノッてくれたと親指を立てた。


「はよ帰れ!」

 賢吾が半目でそう言うと、片倉は敬礼してから去っていった。


 疲れと多少の高揚感を抱え、賢吾は帰路を辿る。歩いて間もなく、先程まで輝成と真利亜の話をしていたからか、賢吾の脳内で勝手に過去の記憶が呼び起こされる。



 きっかけは賢吾の最後の家族である妹、真利亜が亡くなり悲嘆にくれていた墓地の前。自分以上に精神的にやられていた輝成を見て、賢吾が何気なく放った一言だった。


『真利亜の墓、この墓地で一番でっかくしたいな』


『……そうですね』

 しんみりした返事の輝成だったが、少し目に光が戻ったように賢吾は思えた。


 このまま輝成を腐らせてはいけないと思い、賢吾は輝成にやる気を出させようと、

『俺、社長になろうかな。そしたら真利亜、驚くぞ』

 そんな軽い気持ちで口にした。


『そうしましょう』

 輝成は無表情のまま即答した。


 輝成に活力を取り戻すための嘘。言わば、ただのほら吹きが実現に向けて動き始めてしまった。


 この時、賢吾はまさか自分が社長になるとは全く想像もしていなかった。


 当時賢吾は二十二歳、輝成は十七歳。二人共定時制の高校に通っている最中だった。状況的にも能力的にも、あまりにも現実からかけ離れた話だったわけである。


 だから、輝成が賢吾と同じ職場を辞し、IT企業へアルバイトをしにいったことが理解できなかった。


 けれども、既に輝成は賢吾を社長をにする、真利亜の墓をでかくするために始動していたのだ。


 一方、しっかり計画を練っている輝成とは反対に、賢吾は適当なことしか言わなかった。バイクショップを経営したいとか、中古の外車販売をしたいとか。自分の趣味の一環を述べたり、その場のノリで答えたりしていた。


 しかし、賢吾の提案は一瞬で却下されていくことが繰り返された。


 一年以上そういったやり取りが続き、鈍い賢吾も薄々気付き始めた。輝成は自分を社長にすることを真面目に考えており、実行しようとしているのではないかと。


『コウ。前に俺が社長になりたいって言った話。本気にしているのか?』


『はい。賢さんが社長になって、真利亜さんのお墓をでっかくして、真利亜さんをびっくりさせてあげましょう』

 平然と受け答える輝成に、賢吾は絶句した。


 まさか、本気だなんて思っていなかった。


 輝成のことをバカにしているわけではない。輝成はいい奴だし、頭が切れる。賢吾は輝成のことを高く評価していた。それでもやはり、到底叶わぬ夢物語だと賢吾は思っていた。


 しかしながら、諦観をしていた賢吾とは反対に、輝成の活動はエネルギッシュだっ

た。


 輝成はアルバイトしていた会社でノウハウを学び、スマートフォン向けアプリで起業すると宣言した。


 軍資金の調達は賢吾に蓄えがあったので何とかなったが、問題は人材である。


面白かったら☆とブクマをどうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ