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第09話

 橘は深く座り直すと、賢吾を睨み付けてから軽く息を吐いた。


「皆さん、忙しい中集まっていただきありがとうございます。私が提案した新規アプリ開発について、プレゼンをしたいと思います。では、渡辺さんお願いします」

 橘から出される厳かな雰囲気に包まれ、会議は開始される。


 動き出した渡辺は、持ってきていたノートパソコンを大型ディスプレイへと繋いだ。


「あれ? 紙なし?」

 賢吾がそう聞くと、

「経費削減です。知りませんでしたか?」

 橘が間髪入れずに言い返してきた。


 賢吾は玲子へ確認するような目線を向けたが、そうだと頷いていた。


 自分の知らないところで、会社が勝手に動いている。今までの自分ならどうでもいいかと思ったであろうが、賢吾は多少なりとも悔しさを感じた。


「あ、というわけで……画面にて説明させていだたきます」

 渡辺は柔和な笑みを浮かべた。


「質疑応答はプレゼン後でお願いします」

 橘がそう付け足し、また場が緊張感に満ちた。


「それでは、皆さんよろしくお願いいたします」

 渡辺は深く頭を下げると、なぜか楓もペコペコとしていた。


「新規アプリは箱庭ゲームです」

 フワフワしていた様子から一変し、渡辺は真面目な表情で切り出した。


「自分好みの箱庭を作る楽しさ、他ユーザーとのコミュニケーション、ユーザー同士の箱庭の出来映え比べ、等々を軸に置いています。通貨はゴールド。ショップでアイテムを買う、キャラを買う。レベルが上がるにつれて、ゴールドの上限も上がっていく仕組みです。ゴールドの初期設定は百にしており、五分置きに一ゴールド回復する予定です」

 淀みないプレゼンテーション。


 画面に映し出されたのは、可愛らしい家具に囲まれた部屋。その部屋の中にいるデフォルメされた愛らしいキャラクター達は、動いたり、笑ったりしていた。


 しかしそれだけではなく、あぐらをかいて酒を飲んでいるおっさんのようなキャラクターもおり、シュールな面白さもあった。


「マネタイズは、ゴールドを全回復させることですが、こちらは時間が経てば回復しますので主軸ではありません」

 最中、なぜか石橋が溜め息を吐いていた。


「主にはガチャです」

 言い放った渡辺とは対照的に、石橋は気落ちしているようであった。


「ある特殊なアイテムやキャラは、ガチャで獲得できるようにする。基本的なアイテムやキャラは、ゴールドで買うような仕組みです。被ったアイテムやキャラは、ユーザー同士で交換できるシステムを設けたいと思います。他にもタイムセールなどを実施し、ゴールド回復で稼ぐことも考えてはいますが、メインはガチャです。ガチャでは自社で作る物だけではなく、市販されている家具や、有名デザイナーとのコラボ。キャラであれば、アニメや漫画のキャラとのコラボなどを考えており、より収益が見込めると思います」

 渡辺は次々と変わる画面を的確に説明する。


「そして、本アプリの主なターゲットはFlameと同じく若年層です。Flameのネームバリューを利用することで、集客も見込めます。更に、Flameとの連携もできれば幅が広がると思っています」

 言い終えると同時に、渡辺は賢吾達へ正対した。


「簡潔ではありますが、以上です。ご清聴ありがとうございました」

 渡辺がお辞儀をした後、

「質問がある方はどうぞ」

 と橘は手を軽く上げた。


 誰からも言葉が出ないので、橘が渡辺に席へと戻るよう目配せをする。渡辺は片付けをしてから、座っていた席に戻った。


「いいんじゃない?」


「可愛いくて面白そうね」

 まずは松井がそう言い、玲子も続いた。


 しかし、

「私は反対」

 と言った石橋は揺るがない様子だった。


「理由を聞きましょう」

 橘に言われ、石橋は大きく息を吐く。


「結局はガチャゲーってことでしょう? 絶対に嫌です。ガチャは必ず課金周りでエラーが生じるし、被害額も半端じゃない。しかも、若年層をターゲットにしているところが殊更に質が悪いですね。未成年がどれだけ親の金を無断で使っているかご存知ですか? そしてそんなクソガキの親からクレームが来るのがウチなわけです」


「それがCSの仕事でしょう?」

 間断なく言い放った橘に、石橋は顔を歪ませた。


「はぁ? CSはユーザーから怒られることが仕事じゃない! ユーザーを快適にもてなすことが仕事なんです!」

 石橋が立ち上がって怒鳴り返す。ソリッドの獰猛なチワワが降臨した。


「トーカ、落ち着いて」

 片倉が宥めると、石橋は不服そうに座り直した。


「私は、輝成さんからガチャはやらないって言われた。その前提でここに入社している。ウチの子達にも理不尽なクレームは受けさせたくない。やるんだったら辞める」

 石橋は怒気を漲らせて述べた後、そっぽを向いた。


「ちょっと、話が飛躍しすぎじゃね? ガチャ云々で辞めるとかさ」

 賢吾はそう笑って場を収めようとした。だが、逆にその態度が癪に障ったのか、

「時代の流れ的に、売るならガチャゲーは必須でしょ」

 と辰巳が言い、

「まぁ……仕方ないよね」

 更に山岡も乗っかってきた。


 その二人を古参者の栗山と平田が強烈に睨み付けており、余計に空気が悪くなってしまったと賢吾は後悔した。


 そんな中で、

「客観的に見て、内容自体は悪くないと思ったけどな。石橋さん的には面白くもないってこと?」

 寺島は我関せずと明るい声だった。


「CSの肩書なしで、フラットな意見もください」

 橘はトーンダウンし、石橋へ確認をした。


「Flameのネームバリューもある。今のところ、そこまで競合するアプリがない。売れるとは思いますよ。でも……やりたくない」


「本音が出てる」

 不貞腐れて言う石橋に、辰巳は嘲笑っていた。石橋は目つきが鋭くなり、言い返そうと息を溜めたが片倉が手で制した。


「売れるし面白いとは思いますが、僕も反対です。トーカは、我が身可愛さやわがままで物事を決めません。全てはウチのブランドを護ること、ユーザーへの背徳行為が許せないだけです。元々は、ガチャゲーのCSで揉まれてきた奴ですからね」

 石橋を暴走させないよう、片倉はその気持ちを代弁するかのようだった。


「……あ、あのぅ」

 楓が小さな声を出した。

面白かったら☆とブクマをどうぞよろしくお願いいたします。

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