ひまわりミュージアムへようこそ
ふと目が覚めた。そこは通勤電車のようだった。寝てしまっていたようで、長椅子の上で頭を振って辺りを見回すと様子がおかしい。
そこには白骨化した遺体が座ったり転がったり。窓から見える風景も、ひっそりとしていて人がいるとは思えなかった。
「な、なにが起こった?」
たぶん、だろうだが、大量破壊兵器かもしれない。大きな建物は倒壊して瓦礫が散乱している。真っ先に頭に浮かんだのは家族だった。
「ひ、ひわは!?」
それは三歳の娘の名前。いつも帰ると妻とともに玄関まで迎えに来てくれる。
こうはしていられなかった。
街に出ると瓦礫や白骨が転がっている。喉が渇いてもコンビニは開きっぱなして店員の動きはない。商品も散らばっている。そこに入って時間を削るより、家に帰るほうを選んだ。
足元に気を付けながら出来るだけ早く我が家への道を急ぐ。辺りには人の気配はおろか、灯りなどもなかった。
家にたどり着き、ドアを開けて叫ぶ。
「ひわ!!」
「あ、パパだ。おかえり~」
「おかえりなさーい」
いつも聞こえてくるその言葉。
それはなかった。
やはり。
それはなかったのだ。
屋根の上には草が生えていた。
家の床もベコベコにへこむ。
リビングに入ると、ガラス窓は部屋の中に散乱していた。
妻と娘はどこにいってしまったのだろう? 何度も何度も返事なこないのを分かっていながら彼女たちの名前を呼んだ。
だが二人はすぐに見つかった。キッチンのテーブルの下に二つの白骨。涙を飲み込んで二人を誉めた。
「そうか。お利口だもんな、ひわは。ちゃんと机の下に隠れたんだね。偉い、偉いぞぉ」
でもやっぱり泣いていた。
◇
水も食糧もない。店にある飲食物はすべて腐っていた。白骨を見ると人類が全滅してから何十年も経過したのだろう。
どうして自分は生かされたのか?
それは分からない。
だけどやれることをやるだけだ。
家の中を掃除し、衣料店からマネキンを運び入れて妻と娘の服を着せた。
棚にはありし日の写真を写真立てに入れてたくさん飾った。
これが自分達の家族ですよって。
誰も訪れることもない我が家博物館。これが妻と娘の生きた証。
庭の雑草も全て抜いたが、娘とともに植えた大きなひまわりはそのままにした。
この種が自然と地面に落ちて、この博物館の周りを飾ることだろう。
訪れた旅人がここを『ひまわり博物館』と言ってくれたらそれでいい。
もうすぐ力尽きる自分にもその時が来るだろう。
娘を真ん中にして二階のベッドに身を沈めた。