表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/90

第八十九話 ……ちょっと不気味だな

 訓練場から7、8分ほど歩いて学園長室の前まで着くと、オーズスタン先生は俺に少し止まるように言ってから学園長室の扉を二回ほど叩く。


「レグリア学園長、リンドウ・ナツを連れて来ました」


「ああ、ありがとう。入ってくれて構わないよ」


「失礼します」


 そしてレグリアの返事を聞くと俺に軽く目配せをして、目の前の扉を開いてから中に入る。


 中に入った学園長室は廊下とは別世界なんじなないかと見間違うほど豪華な作りをしていたけど、前にも入った事があったから今回はそこまで驚きはしなかった。


「お疲れ様です、オーズスタン先生」


「団長を連れて来て下さって感謝します」


「えっ……」


 ただその代わりと言ったらあれだけど、俺が思わず言葉を失ってしまうほどの人物が目の前にはいた。


「あれ、どうしたんですか団長そんなあり得ない物を見たかの様な顔をして」


「ええ、何をビックリされてるんですか?」


 学園長室に備え付けられている二つのソファそれぞれに、この学園にいる筈のない『黙示録のラッパ吹き』の【第一のラッパ】、メリア・グレイシアと【第二のラッパ】、メイゲル・クレラスが座っていたのだ。


「いや、なにってそれこっちのセリフなんだけど! 何やってんのお前ら!?」


 そんな昔からの知り合いの二人に俺は思わず大声で叫んだ。


 二年前の戦争の後、俺達『黙示録のラッパ』は次の戦いに備えてそれぞれの方法で戦力を増やして行こうと話し合った。そこでダグラスは各国の連携を強める為に人間領でも有数の大国の『リーグレット王国」の国王になる事を決め、ブレイズは世界一とも呼ばれる魔法師養成学校の学園長に籍を置くと決めていた。そしてそれはこの二人も同じで、二人は各国を周って魔法師や聖魔法使い達に教鞭を取ることで戦力全体の底上げを行っていくと言っていたのだ。


 どうやらその思惑はかなり順調だったらしく、あれからこいつらが周った国々の魔法師達の実力は大幅に上がったと耳にした事がある。団体戦でチラッとメリアに会った時はたしか次はナザムット皇国に行くって言ってたはずだ。


 だからてっきりもうこの国を出てると思ってたのに、何でまだこんな所にいるんだ?


「実は……あれから色々とありまして私達この学園の教師になる事にしたんです。私は主に魔素操作、メイゲルは体術の授業を担当する予定ですね」


「いやなんで!?」


「そこでこの学園に入るに当たったまずは団長に挨拶だけでもしておこうかなと」


「いや、まずここに来た理由を教えてくれねぇかな!?」


 説明をくれ説明を! 淡々と新しい事実だけ言われても困るんだけど! 絶対にわざとやってんだろ!


「メイゲル……はダメだからレグリア説明!」


 一瞬メリアと一緒に行動してるメイゲルに説明を頼もうと思ったけど、こいつはメリアを全肯定しやがるからこいつからもまともな説明が来るとは思えねぇ。


「実はですねリンドウ様、先日行われたイリーネ君の誘拐を機にダグラス様やこの国の大臣達と話し合いを行ったんです。そこで魔族がイリーネ君を攫った明確な理由が分からない以上学園の警備は強化すべきだという話が出まして、ちょうどこの国に留まってたメリア様達に学園の警備を頼むと同時に教師もやって頂こうという事になったんです」


「あら、言ってしまうんですねレグリア。もうちょっと団長をからかっていたかったのに……」


 そして思ってた通りレグリアは快く説明をしてくれた。それに対して何かメリアが残念がってるけどやっぱお前わざとだったか。


 ただ今の話ならたしかにメリア達が教師になるのも納得だな。この前何とかイリーネを奪還出来たとはいえ、アイツらがイリーネを攫った理由は結局謎のままだしな。一応ダグラス達が捕らえた魔族達に尋問したって聞いてたけどどうやら全員が情報を吐き出す前に自殺してしまったらしい。


 ほんでもって理由が分からない以上どんな敵なのかも分からないから、どの守り方が最適なのかも決められない。だから個人でも一国に値するほど圧倒的な戦力を持ってるメリア達に警備を頼んだって事か。


 でもそうなると一つだけ気になる事があるんだよな。


「でもさ、お前ら次はナザムット皇国に行くって言ってなかったか? そっちは大丈夫なのかよ」


「ええ、あちらの国にはブレイズ君を通して断りを入れてありますから大丈夫ですよ、快く了承してくれました。それに戦力増強の点に関してで言えばこの学園で教鞭を取って生徒全体の実力を底上げすれば問題無いでしょう」


 なるほど、それならまぁ問題なさそうに聞こえる。たしかに生徒の実力が上がればこの国の戦力の底上げに繋がるしな、メリア達の本来の目的には着実に従ってる。


 ナムザットとしては快くって訳にもいかなかっただろうけど、相手が相手だしどうしようも無かったんだろうな。

 

「そういう事なら俺はいいけど……世間にはどうやって発表するんだ? 流石にイリーネを守るためなんて言えねえだろ」


 個人戦の時にイリーネが攫われていた事は世間には一切知らせてないから、本当の事を言っちゃったら国民にこの国の警備体制について疑問を持たれてせっかく隠してた意味が無くなる。レグリアはどう説明するつもりか決めてるのか?


「もちろんある程度は考えてありますよ、ダグラス様やブレイズ様のお名前も使わせて頂く予定です」


 おおっ、さすがはレグリアだな。ブレイズの弟子って事もあってそこら辺がしっかりしてて安心するよ。


 ただ、あともう一つ気になる事があるんだよな……。


「そっか、それならいいんだけど……もしかしてそれを伝える為だけに俺を呼び出したの?」


 メリアとメイゲルがこの学園に来るって伝える為だけにわざわざ呼び出したの? だったら別に他の日でもよくない? 俺みんなでやってた訓練を途中で抜け出して来てるんだけど。レグリアが呼び出したからてっきりもっと重要な事を話し合うのかと思ってたわ。


 ……いや、まあメリア達の事も十分重要と言えば重要なんだけど。


「ああ、いえ……リンドウ様を呼び出した理由は他にありますのでご安心ください。先程の事はメリア様がついでに報告しておこうと提案されたのでしただけです」


 おおっ、やっぱりあるんだな少し安心した。まあ、冷静に考えてメリア達がそのためだけにわざわざ学園に来るってのもおかしな話だよな。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 隣で学園長達と話しているナツを見ながら俺は頭の中である考えを巡らせていた。


(なるほどな、話を聞いてる以上ナツは俺がこいつの正体を知ってるって所は覚えてるのか……)


 イリーネが攫われた日の後日。俺、イリーネ、そしてヘステの三人はレグリア学園長からとある事を頼まれた。その内容は、ナツの周りに不審な動きが無いか警戒して欲しいとの事だった。だから俺はあの日から時間が空くたびに街の方とかに行くようにしている。


 ただ実はあの時俺たちが頼まれたのはそれだけじゃ無く、もう一つあったのだ。その内容は『あの日のことについて自分からリンドウ・ナツに話を持ちかけてはならない』という物だ。


 どうやら前に聞いていた記憶の消去が大きく関係しているらしいんだが、俺達はそれについて深く聞いたりはしなかった。なにせナツは人類の英雄だ、俺達に言えない秘密の一つや二つあっても当然だからな。


 その頼みもあって、俺達は今まであの日の事もナツが『黙示録のラッパ吹き』の団長だっても本人には話してこなかった。こいつがどこまで覚えるか分からなかったからだ。


 でもここまで覚えてるんならある程度は話してもいいのかもしれねぇな。


「で、俺を呼び出した本来の理由って?」


「そうですね、どこから始めましょうか……リンドウ様、最近この学園の生徒が失踪している事件はご存知ですか?」


「「はぁ!?」」


 ちょっと待ってくれ学園長それ俺も初耳だぞ! いきなり過ぎて俺まで声出しちまったじゃねぇか! うちの生徒が失踪してんのか!? なんでそんな重要な情報が教師の俺に入って来てないんだよ! 


「あっ、でも安心してください。失踪とは言っても一日行方不明になっているだけで翌日には無事に家に帰って来ているそうですし、まだ十数名ほどしか報告は受けていません。なのでお二人が考えているほどの大事にはなっていませんし、学園でも話題にはなっていません。なので本来ならただの夜遊び程度で済ませていたんですが、実は一つだけ問題があるんです。どうやら一日行方不明になった彼らのすべてがその一日の記憶をまったく持っていないそうなんです」


「……学園長、それってつまりどういう事ですか?」


 学園長のよく分からない説明に俺は思わず聞き返す。一日行方不明になって無事に戻って来るってのは分かる、学園長の言った通りどこかに遊びに行ってたんだろうってなるからな。だが記憶が無いってのはまったく分からない。


 仮にそいつらが素行不良で記憶が吹っ飛ぶぐらい酒を飲んでたんだとしても流石にそれで一日の記憶が丸ごと無くなるなんてありえねぇし、そもそも一日の記憶を無くすとかどう考えても外部から何かされたとしか思えねぇ。だから学園長も問題に思ってるんだ。


 でもそうなるとその外部の目的って奴が分からなくなって来るんだよな。何で一日分の記憶だけ消して無傷で家に帰してるんだ?


「……正直に言いますと、私にもさっぱり分からないんです。念のため失踪していた子たちにも話は聞いたんですが体調にはまったく問題が無さそうでしたし、話している感じ他人と入れ替わったという印象も受けませんでした」


 ていう事は疑いようもなく本当に一日だけ謎に失踪してその時の記憶も謎に失ってるって訳か……ちょっと不気味だな。


「なので最初は無視してもいいかとも思ったんですが、そうするにはいささか不気味すぎると感じました。そこでどなたかに周辺の警備をお願いしたいと思い、リンドウ様達をここにお呼びした次第です」


「なるほどな、つまり俺たちは……」


「はい、確証も得てないのでとりあえずは学園の周辺に怪しい人物などがいないか警戒をして頂けると助かります」


「レグリア君、ちなみに少しでも犯人に当たりが付いてたりは……」


 ナツに続いてソファに座っているメリア様も学園長に質問する。


「いいえ、ハッキリ言ってまったくありません。そもそも今回はまだ犯人がいるかどうかも怪しい状態なので、生徒たちに大っぴらに知らせるも出来ないんです。もし発表した後に犯人がいない事が分かったら大変な事になりますからね」

 

 たしかにな……この学園の魔素量至上主義具合には思う所があるが、それでもここは世界的にトップクラスの魔法師養成学校だ。そんな所が大っぴらに発表した事がもし間違ってたりなんかしたら色んな方面から叩かれかねない。


 まあ、生徒を最大限守るためではあるが、それでも必要以上に叩こうとする奴はいるだろうからな。疑惑の域を出ない以上大っぴらにこの事を発表する訳にも行かない。


「……オッケー、大体状況分かった。それで、具体的に俺は何をすればいいんだ?」


 警戒とは言っても具体的にどう行動すればいいのか分からないナツは学園長に問いただす。


 学園長室に入った時はメリア様やメイゲル様に対して高めのテンションで話してたナツだったが、今ではその見る影も無いほど冷静になっていた。


 こいつは普段から結構ふざけた奴だが、こういう切り替えの早さを見るとやっぱり『黙示録のラッパ吹き』の団長なんだと実感が湧くな。


「敵がいるかも分からない以上リンドウ様達にそこまで働いて頂こうとは思っていません。基本的には今まで通りに行動して頂いて、学園の敷地外にいる間だけ周りに怪しい物や人がないか警戒をして頂ければそれで十分です」


「分かった、なるべく警戒はする様にするよ」


「ありがとうございます」


「いやいや、礼はいいって。……それよりも用件が済んだんならもう戻ってもいいか? 俺実はみんなとの訓練を途中で抜け出して来てるんだよ」


 話が一通り終わったと感じたナツは少し足早に聞く。


 ナツが『黙示録のラッパ吹き』の団長だという事を知ってから俺はずっと気になってた事があった。それは伝説の存在の団長を張れるほどの男がどうしてこんな学園にいるのかだ。


 だから俺は時間が空いた時に学園長の所に行き、その理由について聞き出したんだ。


 そしてそこで聞いた理由は、心底納得の出来る物だった。こいつがこの学園を選んだ理由、学園長と知り合いなのにわざわざFクラスに入った理由もそのすべてに納得が行った。ナツの目的を叶えるのにはこの学園のFクラスが一番だからだ。


 だから俺はフェレライが転校して来た日の実技の授業でこいつを教師側に回したり、個人戦でこいつがメクルやライアなど他の代表の訓練に専念できるようわざとメンバーから外したりして、なるべく協力する様にして来たんだ。


 こいつは今まで少しでも時間が空いてたら嫌な顔一つせずライアやソウ、それにクララ達に魔法を教えて来た奴だからな。今少し焦ってるように見えるのも纏まった時間の取れたアイツらとの訓練をかなり大事に思ってるからだろう。


「ええ、もちろんです。大事な時に呼び出してしまい申し訳ありませんでした」


 そしてそんなナツの申し出を断るはずも無く、学園長は快くナツを送り出した。


「だからいいって……それじゃあメリアとメイゲル、さっきはビックリしたけど正直これから学園で会えると思うと嬉しいよ、またな」


「はい、またです団長」


「俺たちもこれから頻繁に団長に会えると思うと嬉しいですよ」


「ははっ、それは嬉しいな。オーズスタン先生もまた明日のホームルームで」


「おう、じゃあな」


 そして俺たちに一通り挨拶を済ませてたナツはそのまま学園長室の扉を開けて訓練場の方に戻って行った。


「それじゃあそろそろ俺も職員室に戻りますね。実はこの後ステファニー嬢と会う約束があるんですよ」


「あっ、いえオーズスタン先生は少し待ってください」


「え?」


「実はリンドウ様抜きでお三方に話しておきたい事があるんです」


 ナツに続いて学園長室から出ようと扉に手をかけた所で学園長に呼び止められたため、俺は動きを止めて後ろを振り返った。


 ナツ抜きでの話ってなるとこの前学園長から聞いた『色欲の魔王』についてか? だとしたら聞かない訳にはいかねぇからな。


「メリア様達もよろしいでしょうか?」


 俺が立ち止まったのを確認した学園長はソファから立ち上がらずに座っていたメリア様達にも確認を取った。

 

 それにしても、初めてメリア様と長い間同じ空間にいたが巷で言われてる通り"聖女"って感じの方だな。口調はもちろんの事、行動の一つ一つからなんと言うか柔らかさの様な物が感じられる。


「ええ、もちろんですよ。私達も貴方に聞きたい事があるので」


「……え?」


 そして「本当に聖女の様」だと思っていたからこそ、俺はその声の変化により一層驚いた。「聞きたい事がある」、そう告げたメリア様は今までと違いかなり険しい雰囲気を纏っていたのだ。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ