第八十二話 まさか、ここまで防がれ続けるとは……
「よし、それでは次の試合を始めて行く。メクル・スズクとフェレライ・ローラル、双方とも準備はいいか?」
ゴルキ先生が結界の中に入った二人に対して確認を取った。
『はい、大丈夫なのでありますよ』
『僕も大丈夫です』
それに対して結界の中にいるメクルとフェレライさんが続けて返事をする。
今から始まろうとしているフェレライさんとメクルの模擬戦を、ネイル達の講評が終わった俺はいつものメンバーと一緒に観戦しようとしていた。
この試合でやっぱり一番気になるのはフェレライさんの実力だ。フェレライさんはこの学園に転校して来れたって事は弱い訳が無いし、むしろこの前聞いたイリーネの話からするとかなり強い可能性の方が高い。
だから普通のFクラスの生徒じゃ相手にならないだろうけど、メクルは複数の属性を同時に使う事が出来る『複法覚者』と戦闘属性のすべてに適正がある『全属適正者』の両方を持っているかなり珍しい存在で、その実力はSクラスにも匹敵するぐらいだ。生半可な実力で倒せる相手じゃない。
……そう考えると、メクルはフェレライさんの実力を知るための対戦相手として一番合ってるのかもしれないな。
「分かった。では、今からメクル・スズク対フェレライ・ローラルの模擬戦を開始する、双方構えろ…………では、戦闘開始!」
そして、二人の戦闘準備が整ったのを確認したゴルキ先生によって合図が出され、模擬戦が開始した。
「それでは行くのであるよ! "雷道砲"!」
試合が始まってまず最初に動き出したのはメクルだった。
メクルは合図が出されたのと同時にフェレライさんに向かって速さ重視の雷魔法を撃ったのだ。最初から複数の属性を混ぜて撃たなかったのは、恐らくフェレライさんの実力を探るための牽制を入れたかったからだろう。
「"断崖土壁"!」
そんなメクルの攻撃に対して、フェレライさんは流れる様な動きで土魔法の壁を作り出す。その動きはかなり洗練されていて、フェレライさんは速度重視のメクルの魔法が辿り着く前に自分の目の前に土の壁を出してその魔法を防いだ。
「"炎雷獄火砲"!」
しかし、メクルの攻撃はそれだけでは終わらなかった。
自分の魔法が防がれたのを見るや否や……いや、多分防がれる前提で動いていたメクルはフェレライさんが魔法を防いでいる間に彼女の左側に回り込み、そこからすかさず魔法を撃ったのだ。
今度はさっきの速さ重視の魔法とは違い、メクルがよく使っている炎魔法と雷魔法を合成した威力重視の魔法だ。
「"六角岩鋼"!」
普通の魔法師ならそれだけでやられていた可能性もあったのかもしれない。しかし、メクルが回り込んだ事に一瞬で気付いたフェレライさんは慌てる事なく自分の左側に左手をかざし、そこから六角形の岩の壁を出してメクルの魔法を防いだ。
「"大泳洪水"!」
しかし、それでもメクルの攻撃は続く。今度のメクルは三個程の魔法陣を自分の周りに描き、そこから大量の水を出したのだ。
「え、水!?」
「"雷来通"!」
そして自分の出した水がフェレライさんの足元まで届いたのを確認したメクルは、その水に向かって雷魔法を撃った。
これは大会の時のサイエスさんとザンザスの連携を一人で再現した物なんだと思う。サイエスさんみたいに水をたくさん出す練習をしていない分、水の量はサイエスさんに比べて大きく劣ってるけど、それでもアイツはこの一対一の状況において十分な量の水を出せていた。普通であればあの水から流れてくる雷を躱すことは難しい筈だ。
「"土下膨張"!」
しかし、判断の早かったフェレライさんは即座に足元の土を盛り上げる事によってその技を避けて見せた。
「"炎雷獄火砲"!」
そんなフェレライさんに一切目を向ける事もなく、メクルは次の攻撃に入る。
……メクルのすごい所はこれだ。アイツは一度攻勢に出たら、そこから攻撃の手を緩める事は一切無い。その攻撃は自分が倒れるかアイツが防御に回るまで止まらない為、どこかのタイミングで隙を突いて攻撃をしないとずっと後手に回ってしまって最終的には押し切られて負けてしまうのだ。
しかもただでさえ絶え間ない攻撃を喰らい続けるのはかなりキツいのに、アイツはその上自分の『全属適正』と『複法覚者』を混ぜた攻撃をして来るので、状況を変えるのは余計に難しくして来るのだ。
それにアイツにはもう一つ怖い部分がある。それは頭が悪いくせに状況ごとに一番適切な属性がどれなのかすぐに判断出来るという事だ。そのせいで一つの属性だけなら攻撃に出れそうな場面でも、別の属性を使われる事によって結局攻撃出来ずに防御に回ってしまうんだ。
……多分だけどアイツ、いわゆる戦闘IQってやつが高いんだろうな。
「"六角岩鋼"!」
「くっ、これもか…! "風霹螺旋"!」
「"断崖土壁"!」
メクルの放った炎魔法と雷魔法を合成した攻撃を、フェレライさんは再び左手から六角形の岩の壁を作り出して防ぎ、その後すぐに放たれた風魔法と雷魔法を合成した速度重視の攻撃も目の前に土の壁を作り出す事で防いだ。
そんなフェレライさんに対し、メクルは再び彼女の隙を突く様に次の魔法を放ったーーー
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そしてそれからしばらくの間……恐らく3分ぐらいは経っただろうか。その間もずっと、メクルはフェレライさんに対して怒涛の攻撃を加え続け、常にフェレライさんに有利な状況にいた。
「嘘だろ……」
「メクル君が強いのは分かってたけど、まさかここまでだっただなんて……」
その怒涛の攻撃に、隣にいるクララさんとソウも言葉を失ってるようだった。
ああ、ハッキリ言って強い。俺が最後に見た時よりも格段に戦い方が上手くなってる。きっと大会の後もかなり練習したんだろうな。
この模擬戦でアイツは自分の持ってる才能を最大限引き出した戦い方が出来てる。今のアイツならSクラスの奴等でも何人かは余裕で倒せるんじゃないかって思うぐらいだ。
…………ただ、だからこそ思う。そんなメクルの攻撃を3分間ずっと難なく防ぎ続けてるフェレライさんは一体何者なんだ、と。
たしかにさっきから攻撃を仕掛けているのはメクルだけで、一見アイツがかなり押してる様にも見える。ただ、フェレライさんはさっきからすべての攻撃を防いで、防いで、防ぎ続けているのだ。
メクルの攻撃は五つの属性が絡んで来るため他の魔法師の攻撃に比べて攻撃を見切るのは格段に難しくなって来るはずだ。それなのに、そんな攻撃に対してかすり傷すら負わずに対処し続けてるフェレライさんが俺は信じられなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ……まさか、ここまで防がれ続けるとは……」
「……僕も驚きだよ。流石は『ラーンベルト学園』の生徒だね、まさか3分間の間ずっと攻められ続けるとは思わなかったよ」
「ははっ、そのずっと攻め続けた某のすべての攻撃を綺麗に防がれた後だと……嫌味にしか聞こえないのであるよ」
たしかにさっきから肩で呼吸をする程疲れているメクルに対してフェレライさんは少し息を切らしている程度で、フェレライさんの方が圧倒的に余裕がある様に見える。
そんなフェレライさんの言葉を嫌味に聞こえても無理はないかもしれない。
「あっ、ご、ごめん、そういうつもりはまったく無かったんだ。あそこまで追い込まれたのはかなり久しぶりだったからね、ただメクル君の実力にすごく感心していただけなんだ。気を悪くしちゃったなら謝るよ」
ただ本当に嫌味のつもりは無かったようで、フェレライさんは慌てながらメクルの言葉を否定した。
「ははっ、大丈夫なのであるよ……某も、本気で言った訳では無いのであるから。嫌味として言った訳では、無いというのは……フェレライ氏の様子を見てれば分かるのである」
「よ、よかったよ……」
「心配しすぎなので、あるよ。ただの……冗談だったのである」
お互いの誤解が解けた事を確認した二人はその顔にちょっとした笑顔を浮かべた。
「…………ふぅ。では、このまま攻め続けても崩せる気がしないし、次の一発に……すべてを賭けさせてもらうのであるよ」
「……そうか。それじゃあ逃げる訳にも行かないし、僕もその魔法を全力で防がせてもらおうかな」
そしてそこから一拍置いた後、息を整えた再び真剣な表情に戻ったメクルとフェレライさんは戦闘体勢に入った。
どうやらこれ以上数で押しても無謀だと判断したメクルは次に自分の一発にすべて賭けるらしく、フェレライさんもそれに乗ってメクルの全力攻撃を防ぐつもりらしい。
つまり、次の一発でこの模擬戦が終わるかもしれないっていう事か。
……今までの攻防を見る感じフェレライさんが耐えそうな気がするけど、メクルの撃てる最高威力の魔法もバカにならないぐらい強力だった筈だ。正直どっちが勝つか予想が出来ないな。
「それでは、行くのであるよ」
「ああ、受けて立つよ!」
二人はそう言い合った後、それぞれの体制に入る。
メクルは左手で右腕を掴み、その掴まれている右腕をフェレライさんに向かって構える。それに対してフェレライさんはまるで合掌の様に自分の目の前で勢いよく両手を合わせた。二人は自分の最高威力の魔法を撃つための準備を始めたのだ。
「"風獄霹靂水衝"!」
「"七角断岩陣角"!」
「「うおおおぉおぉおぉお!!!」」
そして準備を終えた二人は、ほぼ同時に魔法を放つ。
メクルが撃ったのはアイツが使える五つの属性の内の炎、雷、風、水の四つを合成した魔法だ。その魔法は真ん中を進んでいる炎魔法を、水魔法と風魔法がとぐろ状に囲っており、さらにその三つの属性すべてに雷魔法が合成されている感じだった。
まさに『全属適正』と『複法覚者』の両方を持っているアイツにしか出来ない芸当だな。結界の外から見てもかなり強力だっていう事が分かる。
それに対してフェレライさんが作ったのは七角形の土の壁だ。今まで彼女が使っていた"六角岩鋼"ともちろん形は違っていたが、何よりも変わっていたのはその厚さだった。彼女が今まで出して来たどの壁よりも圧倒的に分厚く、その厚みはパッと見"六角岩鋼"の5倍ぐらいはある。まさに、壊れる所がまったく想像できない盾とも言うべき壁だった。
そして、その二つの魔法が激突する。
《ドガアアアアァァアァアァ》
するとその瞬間、運動場中に響き渡る程の大きな衝突音が辺り一帯に埋め尽くし、それと同時に二つの魔法の衝突によって出来た土埃が結界内のすべてを覆い尽くす程上がった。
それほど、二人の魔法の激突は激しかったという事だ。
……この土埃が晴れた後、もしフェレライさんが倒れていればメクルの勝ち。しかし、もし彼女が立っていれば恐らくほとんどの力を使い果たしたメクルは負ける事になる。
どちらにしろ、土埃が晴れるまではどうなったか分からないな。
「……え、ちょっと待てどういう事だ?」
しかし、結果を知るために土埃が晴れるのを待っていた俺の目には信じられない物が映り、その事に驚いた俺はつい声を漏らしてしまう。
こんな光景を、俺は一切予想出来ていなかった。いや、きっと予想できなかったのは俺だけじゃないだろう。恐らく先生達二人を含めたこの場にいる誰もこんな光景を予想していなかった筈だ。
「え、どういうこと……?」
その事に気付いたクララさんも俺と同じように無意識の内に言を漏らした。そしてクララさんは、そのまま俺達が驚く原因になった光景を見ながら続ける。
「どうして……攻撃魔法を撃ったはずのメクル君が結界の外に転送されてるの?」
そう……何故か、攻撃をしていた筈のメクルが結界の外に転送されていたのだった。




