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第八十一話 リンドウ君って本当にすごいんだね

 そこから20分ぐらいした後、クララが意識を取り戻すのを待ってから移動を始めた俺達は授業時間に少し遅れながらも第3グラウンドに到着した。


「よし、それじゃあ全員揃ったので授業を始めて行くぞ。お前らが遅刻して来た事については、転校生との会話が盛り上がっていたという事で今回だけは目を瞑ってやる。次からは無いから気をつけろ」


「「「「は、はい」」」」


 出席簿を持ったまま俺たちの事を待っていたゴルキ先生の注意に俺達は返事をした。


 この学園では基本的にほとんどの授業を担任の先生が受け持つ事になってるが、実技の授業だけは担任の他にも実技担当の先生が付く事になっているのだ。クラス対抗戦では審判を勤めたこのゴルキ先生は、俺達Fクラスの実技も担当してくれているのである。


 ちなみに皆の返事に勢いが無かったのは、遅れた本当の理由がフェレライとの会話が弾んでいた事では無く、何故か気絶していたクララを介抱していたからである為何となく気が引けていたからである。


 遅れた原因が体調不良だし、正直俺としては本当の事を言ってしまった方がいいと思ったけど、他のみんなにはクララの名誉の為にやめろって言われてしまった。


 ……何でだろう?


「それでは、今回の授業の内容を説明していくぞ」


 ゴルキ先生の説明に、俺達はその場で静かに耳を傾ける。


「クラス対抗戦が終わって間もないが、お前らにはもうそろそろ学年別個人戦に備えてもらう必要がある。知っての通り学年別個人戦はすべての試合が一対一で行われる大会で、戦い方がクラス対抗戦とは完全に異なってくる。そこでお前らにはその形式での試合に慣れてもらう為に、今回は一対一で戦ってもらおうと思う。

 勝敗は決闘制度と同じ様にどちらかが降参するか、もしくは結界の外に転移されたかで決めて行き、最後に俺と隣のオーズスタンがその試合の講評を行っていく」


「ああ、ちなみにだが対戦相手はくじで決めていくぞ〜」


「「「「ええ!?」」」」


 ゴルキ先生の後に説明を加えたオーズスタン先生の言葉に、俺達はつい声を上げてしまう程耳を疑った。


 どうやらゴルキ先生は事前に知っていたらしく、ため息は吐いていたが驚いている様子は無かった。


「……その反応になるのも無理はない。何せ俺も反対したんだからな。だが……」


「いやいや、いつもみたいな決め方だと飽きるだろ。それなら少し遊び心を加えた方がいい」


「はあ、まったく……。いつもは気だるそうにしてるくせにこういう無駄な事はすぐに思いつくな、お前は……」


 ため息を吐きながら言うゴルキ先生の表情にはどこか疲れている様子があった。きっと今までも何回かこういう事があったんだろうなあ。


「ねえねえ、リンドウ君。この授業って結構適当な所あるのかい?」


 そして、クラスの誰よりも大きな声を上げて驚いていたフェレライさんが隣にいた俺に小声で聞いて来た。


「いや、この授業って言うか……俺らの担任がなぁ。まあ、魔法を教える腕はたしかだからそこら辺は信じて大丈夫だよ」


「そ、そうかい? ならいいんだけど……」


 俺は一応オーズスタン先生のフォローを入れたが、それでもフェレライさんは少し疑問に思っている様子だった。


 まあ、そりゃそうなるよな。実技の授業って言えばこの学園でもっとも重要な科目の一つって言っても過言でも無いのに、その初めての授業でこんな事言われちゃあね。


 でも……オーズスタン先生はああ見えてかなりいい先生ではあるから、その内疑問も無くなって行くでしょ。


「あの、ゴルキ先生。俺達いま31人なんで、二人ずつ戦うと一人余ります」


 みんなが対戦相手の決め方について少し騒ついている中、ソウが別の質問ではあるが同時にかなり重要な質問をゴルキ先生にした。


 俺達はこの学園に入学した時、一クラスに30人ずつ割り振られていた。つまりフェレライさんが転校生として入った今、このクラスには31人の生徒が在籍している事になる。そうなって来ると、一対一で試合を組んで行った場合どうしても一人だけ余ってしまうのだ。


「ああ、それについてはしっかり考えてあるから安心してくれ。リンドウ・ナツ!」


「え? は、はい!」


 思わぬタイミングでゴルキ先生に呼ばれて意表を突かれた俺は、少し裏返った声で返事をしてしまった。


「お前は今日この授業に参加しなくていい……というか俺達と一緒に試合を見ていろ」


「え、はいいぃいぃい!?」


 俺はその言葉にこれでもかと言うぐらい大きな声で驚いた。


「いやいやいや、何でですかゴルキ先生!?」


「さっきソウ・アルクが言った通りこのクラスには生徒が31人いるからな。誰か一人は抜けなきゃならないんだよ」


「それは分かるんですけど! それで何で俺が抜ける事になるんですか!」


「お前は強すぎるせいで誰とやっても誰も練習にならないんだよ。この際だから言ってしまうが、今回の授業の主な趣旨は魔法師同士の一対一でのかけ引きの練習なんだ。それなのに一瞬で敵を倒せてしまう程の実力を持ったお前が参加してはかけ引きも何も無いだろう。だからお前を外すべきだと判断した」


「いや、でもそれだと俺の練習にならないじゃ無いですか!」


「え、いるか?」


「あっ、それは…………」


 光の速さで聞いて来たゴルキ先生の目があまりにも素朴過ぎて、俺は一瞬にしてさっきまでの勢いを削がれてしまった。


「いや、正直いらないと思います……」


 そしてその勢いで、俺はついつい本音を漏らしてしまう。


 正直に言っちゃうと、先生の判断が正しいとは俺も思う。俺が本気で戦ったら言葉通り一瞬で勝負が付いちゃうから、ゴルキ先生の言う通りかけ引きも何も無くなっちゃうからな。そんな中で誰かが抜けなきゃいけない以上、俺が抜けるのは道理だ。


「ちなみに、お前を外した理由はそれ以外にもしっかりとあるぞ。……オーズスタンから聞いたんだが、Fクラスの魔法の腕があそこまで上がったのはお前の指導あってこそらしいな」


「え、ま、まあ、……」


「それを今回の授業でもやってもらいたい」


「と、言いますと?」


「つまり、お前には俺達と一緒にお前のクラスメイトの講評を述べていって欲しいという事だ。講評を行う人数が増えた方がより上達に繋がるだろう」


 ああ、なるほど。つまり、俺もアイツらの試合を見てそれに対してアドバイスとかを送ればいいって事か。たしかに人によってアドバイスする時の視点とかも変わってくる物だから、人数が増えた方がみんなの上達に繋がるしな。


 だとしたら、やらない手は無いか。


「そういう事なら分かりました、全力でやらせて頂きます」


「そうか、それは何よりだ。……それでは、リンドウ・ナツ以外の者は名簿番号順にこの箱から一枚ずつ紙を取っていけ。その紙に書いてある数字が一致した者がお前らの対戦相手だ」


 そう言い、ゴルキ先生は地面に置いてあった黄色の箱を両手で持ってみんなに向ける。


「まずは、ソウ・アルクから来い」


「はい!」 


 ゴルキ先生に呼ばれたソウが、前に出てゴルキ先生の持っている箱から折り畳まれた紙を一枚引き抜く。そしてそれに続いて、みんなは順番に箱の中から紙を取って行った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ザンザス・アクタが結界外へ転送されたのを確認した! よって勝者はネイル・グレゴリー!」


『いよっしゃあ!』


 ザンザスとの模擬戦に勝利したネイルの雄叫びが結界内から聞こえて来る。


 今の俺達はくじを引き終わって、その結果によって決まった相手と次々と模擬戦をしている所だ。


 いや、まあ俺は対戦相手とかいないんだけどな。


「よし、それじゃあネイルとザンザス。こっちに来い!」


「「はい!」」


 二人の試合を結界のすぐ外で見てたオーズスタン先生が二人を自分達の所に来る様に呼んだ。これから、二人の試合の講評が始まるのだ。


 ちなみに、講評を言う順番はオーズスタン先生の後にゴルキ先生、そして最後に俺である。


 構図としては基本的にオーズスタン先生とゴルキ先生が試合についてのアドバイスやら何やらを言って行き、二人が言ってない事でもし俺が何か言いたい事があった場合、それを付け加えていく感じだ。


 さっきは俺もメインで講評を言っていくみたいな雰囲気だったけど、俺も生徒である以上これが普通の形ではあるよな。 


「いや〜、それにしても流石は『ラーンベルト学園』だね。一人一人のレベルが凄く高いよ」


 しかし、自分の役割を果たす為にオーズスタン先生達の話に耳を傾けようとした俺を邪魔する様に、すぐ隣から声が女性の声が聞こえて来た。


「あの〜、フェレライさん? 俺二人の試合の講評とかを言うために今は先生達の言葉を聞いとかなきゃならないんだけど……」


 その声の正体は、今日転校して来たばかりのフェレライさんだった。彼女は何故か数試合前からずっと俺の隣にいて、一緒に試合の観戦をしていたのだ。今までは静かに見ていたのだがついに話しかけて来た。


「いや、でも君は僕の世話係だろ? だとしたらなるべく側にいてもらわないと」


「いやいや、あれはオーズスタン先生が分かりやすい様に例えただけで、別に本当の世話係になるって事じゃ無いから。学園内でフェレライさんが分からない事をサポートして行くってだけで、ずっと一緒にいなきゃいけない訳じゃ無いから。ていうかそんな事絶対分かってるよね!?」


「はて、何のことだい?」


 すげぇ、とぼけたよこの子。絶対に誤魔化せる筈がないのにとぼけたよ。


「まっ、その話は置いといて……」


「えっ、いや、出来れば置いといて欲しく無いんだけど……」


 俺としてはこの話は今のうちに解決しときたかった。置いとくって何? もしかして後でまたこの話をする気って事?


「リンドウ君、君って本当に凄いんだね」


「え、なんで?」


 急に褒められてしまった俺はつい素で返事をしてしまった。


「だってただの生徒でありながら授業の手伝いを教師からお願いされてるんだ。それってかなり凄い事じゃないかい?」


「い、いや〜、そうかな?」


「それに、実は僕この前行われたクラス対抗戦を会場で見ていてね」


「あっ、そうなんだ」


『栄光の世代』が出るって事もあって会場に入るのはかなり難しかったって聞いたけど、フェレライさんは会場の中に入れたのか。中々すごいな。


「そうだよ、そしてそこで君達とCクラスの試合を見たんだ」


「ああ、あれね」


 俺はフェレライさんの次に言おうとしている事が何となく想像出来た。何せ、あの試合で注目出来る事は一つしか無かったからだ。


「そう、君が相手チームを刀の一振りで倒してしまったあの試合だよ。あの試合には本当に衝撃を受けたなぁ。なんて言ったって僕がこの学園に入ろうって思うキッカケになったぐらいだからね」


「あっ、そうだっなの? ……ははっ、そう言われると少し嬉しいな」


 正直、魔法師であるフェレライさんが転校を決めたキッカケとしてあの試合が占める割合はかなり小さいと思ったけど、それでもそう言われると嬉しくなる部分はあった。


「お〜いナツ、次はお前の講評の番だって先生達が呼んでるぞ〜」


「ん? ああ、ありがとう。すぐ行く!」


 すると、少し離れた所からソウが俺の名前を呼びながら近付いて来た。どうやらオーズスタン先生とゴルキ先生の講評が終わったらしい。


「あとフェレライさんも次試合だろ? ゴルキ先生がもうそろそろ準備しとけってよ」


「ああ、ありがとう!」


「おっ、次はフェレライさんの試合なのか。相手は誰なんだ?」


「ん? ああ、メクル君だよ」


 あっ、マジでか。フェレライさんいきなりメクルと戦う羽目になったのかよ。それはちょっとご愁傷様だな。


 …………いや、それは違うか。よくよく考えるとこの学園に転校して来れたって事はフェレライさんもかなり強いって事だろうし、そこまで悲観的な事でも無いのか?


「フェレライさん、アイツ大分強いと思うけど頑張れよ」


「ああ、ありがとう!」


 俺の言葉に満面の笑みで答えてから、フェレライさんは結界の方へと向かって行った。

 

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