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第八十話 転校生が入ることになった

 イリーネが俺達とちょくちょく昼飯を食べ始めてから一週間が経った日のホームルーム、いつも通り俺達が教室で雑談をしていたらそこにオーズスタン先生が入って来た。


「よ〜し、お前ら席に着けよ。ホームルームを始めるぞ〜」


 オーズスタン先生の姿を確認した俺達はすぐに自分達の席に戻った。


「いつも通りのつまんねぇホームルームを始めようと思うんだが、その前にお前達に紹介したい奴がいる」


「おっ、来たな! 待ちに待った転校生だぞ!」


 教師が生徒の前で言ってしまっていいのかという台詞を耳に流しながら、隣に座っていたネイルが小さな声で話しかけて来た。


 どうやらネイルも俺と同じ様にテンションが上がってるらしい。


「ああ!」


「なあナツ、お前はどっちだと思う? どっちだと思う!」


「分かんねえ、このクラスの男女の割合もちょうど半々だしな!」


 ネイルは特に主語を言ってなかったけど、それでも俺がその意味を理解するには十分だった。


「よし、そんじゃあ入ってくれ〜!」


 先生は扉の外で立っていた転校生に手招きをしながら入るように言った。


「はい」


 すると、元気の良い返事と共に転校生は俺達の前に姿を表した。


 転校生の姿を見た時にます何よりも目を引いたのはその端正で中性的な顔立ちだ。きっとさっきの返事を聞いてなかったら男性だと勘違いしてたかもしれない。それほど中性的だったのだ。


 そんな彼女の首辺りまで伸びている言わばショートカットで青色の髪も、彼女の中性的な顔立ちを引き立たせているのかもしれない。


 見た感じ太ってる様子はまったく無く、どちらかと言うとスリムな印象を受けた。


 そしてその転校生が自分の隣まで歩いて来たのを確認すると、先生は再び口を開く。


「お前らも噂で聞いたかもしれないが、今日からこのクラスに転校生が入る事になった。まあ、このクラスにいるのも少しの間になるかもしれないが全員仲良くしてやれよ。それじゃあ、軽く自己紹介をしてくれ」


「はい」


 先生に促され、転校生は教室全体を見渡してから自己紹介を始めた。


「やあ、初めまして。僕の名前はフェレライ・ローテル、適当にフェレとでも呼んで欲しい。こんな見た目をしてるけど、僕はれっきとした女性だ。転校生だから何分至らない点も多いと思うけど、クラスメイトとして仲良くしてくれると嬉しいかな」


「「「「うおおおおーーーー!」」」」


 その自己紹介にクラスのほとんどの男子、特に隣に座ってたネイルが興奮した声を上げた。


 ちなみに、もちろん俺もちゃんと上げてる。


「お〜い、静かにしろ〜! いきなりそんな大声出したらローテルが驚くだろ」


「いや、大丈夫ですよ。むしろ明るいクラスだって分かって安心してます」


 先生の言葉に俺達は一応落ち着いて席に着いたが、その気遣いにフェレライさんは笑顔で構わないと答えた。


「おっ、そうか? まあ、ならよかった。とりあえず、今はお前の好きな席に座ってくれ。正式な席は後々決めるからよ」


「はい」


 笑顔で返事をしたフェレライさんは先生の言葉に従って、顔を左右に振って教室全体を見渡しながらゆっくりと歩き始めた。


 それにしても……どこに座るんだろう。初めてのクラスで初めて会う人ばかりだからどこに座ったらいいか迷うんじゃないかな? やっぱ見た目的に一番話しやすそうなクララの所に行くのか?


 …………ん? いや、あれ? なんかまっすぐこっちに向かって来てる様な……。ていうかバッチリ目が合ってるんだけど。


「やあ、隣に座ってもいいかな?」


「あ、ああ、いいよ。全然座っちゃって」


 えっ、俺の横!? 何で? だって俺男だしあんまここに座る理由って無くない!?


「何でだ! 何でナツの隣なんだ〜!」


 ほら、見てよネイルの様子。これでもかっていうぐらい驚いてんじゃん! 俺もそんぐらい驚いてんだけど!


「だってクラスの中で一・二を争うぐらいヤバいあのナツだぜ!? 顔もイケメンって訳じゃないし、どう考えても一番無いだろ〜!」


 いや、それは言い過ぎだろ。たしかに信じられないのは分かるけど。……よし、コイツは後で絶対にぶっ飛ばそう。


「ど、どうしようライア! もしかしてフェレライさんもリンドウ君の事好きになっちゃったのかな!?」


「大丈夫だから、安心して。ソウも前に言ってたけど、リンドウ君を好きになる様な人なんて滅多に現れないんだから」


 あれ、なんかちょっと離れた席にいるライアからも遠回しに馬鹿にされた様な気がする。


「おっ、ナツの隣か…………そんじゃあまあ、ついでだししばらくの間フェレライの世話係はナツに頼むとするか。まあ、世話係とは言っても校内を案内したりするだけだがな。それでもいいか、フェレライ?」


「はい、もちろんです。よろしくな、ええと……ナツ君」


「あ、ああ。よろしく」


 爽やかな笑みを見せて来たフェレライさんに俺は少し戸惑いながら答えた。


 あれ〜、先生俺にも確認して欲しいんだけど。世話係って事は、多分しばらくの間校内の色んな所を案内しなきゃいけないって事だよね。うわぁ、大変そう。


 ……まっ、それでもかなり楽しそうではから全然やるんだけど!


「よし、じゃあ特に連絡する事も無いし今日のホームルームはこんぐらいで終わっとくか。お前らも次の授業が始まる前に転校生と色々と話しておきたいだろうしな」


(正直……学園長の話の事もあるし他所の人間だった転校生をいきなりナツに近づけるのは少し怖い気もするが。……流石にそんなすぐに『色欲の魔王』の関係者が来るとは思えねえし、何よりフェレライは見るからにして人間だ。とても繋がりがあるとは思えない。大方白っぽいあいつが俺の変な勘繰りのせいで居心地が悪く感じるのも嫌だし、普通の生徒として扱った方がいいな。まあ、念のため何かあったらレグリア学園長に報告するか)


「挨拶も特にいらないから自由にフェレライに話しかけに行ってもいいぞ。あっ、ただ一限目は第3グラウンドで実技の授業だから、それには遅れるなよ〜」


 そう言って、オーズスタン先生はいつ出席を付けたのか分からない出席簿を片手に持ちながら、教室から出て行った。


「なあなあ、どこから転校して来たんだ?」


「この時期に転校して来るって珍しいね!」


 そしてそれを見るや否や、クラスの全員がフェレライさんに話しかけるために俺の横の席に迫って行った。


「ていうか何でナツの隣に座ったんだ!? たしかに顔はそれなりにいいし優しい所もあるいい奴だけど、それを上回るぐらいヤバい性格だから一番ダメだって!」


「いやちょっと待て、誰だ今言った奴! 普通に聞こえてんぞ!」


 どさくさに紛れて言ったつもりかもしれないけど、フェレライのまんま横に座ってるんだから会話丸聞こえなんだぞ、分かってんのか! でもちょっと褒めてくれてるから怒るに怒りきれねぇ!


「う〜ん、何でだろうね。なんとなくナツ君の隣が目に止まったからかな?」


 うおっ、何そのすごい曖昧な理由。ちょっと嬉しくなっちゃう。あれ、でもなんかまだほとんど言葉を交わしてない筈なのにもう名前呼びが定着してる……!


「ちなみに、本当に何でナツの隣に座ったんだ?」


「はっ! まさか無意識の内にリンドウ君の魅力に惹かれたとか……?」


「あははっ、う〜ん、そうだね。もしかしたらそうかもしれない。何せすぐに目に留まったからね」


「「「「……………………え?」」」」


 クララに対するフェレライの思わぬ返答に、あれだけ騒がしかった周りの空気が一瞬にして固まった。


「「「「えええぇぇえぇええ!?」」」」


 そして、示し合わせたかの様に全員が一斉に大声を上げた。


「マジか? マジなのか!?」


「くぁwせdrftgyふじこlp!!!」


「や、やばい! ネイルが倒れたぞ!」


「なっ、あまりのショックに気を失っちまったか! クララすまん、こいつに聖魔法を掛けてくれ!」


「いや、ダメ! クララも倒れてる!」


「なに!? ライバルの出現に精神が耐えられなかったのか?」


 あっ、これすごい。もうあっちこっちから悲鳴やら叫び声やらがむっちゃ聞こえて来る。ちょっと耳が痛くなるぐらいなんだけど。


「いや、大惨事にも程があんだろ……」


 数少ない冷静を保っていたソウがこの状況に軽くツッコんだ。


 十人近くが叫び声上げてるし倒れてる奴も二人いるわで……たしかにこれ大惨事だな。とても転校生が来た日の光景とは思えない。


「え、それで!? 本当にリンドウ君に惹かれたの!?」


「…………あっ、い、いや、ごめん……今のは冗談なんだ。みんながすごい盛り上がっちゃってて撤回する機会を逃してた。本当にごめんよ」


 クラスの女子の一人に迫られたフェレライは戸惑いながら、すぐに申し訳無さそうに謝った。


 まあ、そりゃそうだよね。みんなあり得ないぐらい騒いでたし、初対面の人達が自分のちょっとした冗談でいきなりあんな騒いでたら誰でも戸惑うよ。普通あんなに騒ぐとは思わないもん。


 むしろあの状況でよくすぐに撤回出来たと思うよ。初対面の人達があんなに騒いでる状況で、すぐに冗談を撤回するなんて俺には出来ないもん。


「へっ、んな事だろうとは思ってたぜ」


「うわっ、ビックリした! ネイル君、回復早いっすね……」


 フェレライの弁解を聞いたネイルはさっきまで気絶してたのが嘘かの様に元気よく両足で立った。その事に、みんなを代表してザンザスが少し驚きながらツッコみを入れた。


 そして、今までの様子を俺の近くで静かに見てたドリアドが俺に話しかけて来る。


「それにしてもお前はかなり落ち着いてたな、ナツよ」


「ん? ああ、そりゃそうだろ。あんなの冗談以外ありえないって、はははっ!」


 俺は初めから冗談だって分かってたぜ。だって俺なんかに好意を向けてくれる奴がいる訳無いしな。そこさえ分かってれば、さっきのフェレライさんの冗談にも焦らなくて済む。


 …………あっ、いや、違うな。今のは言葉を間違えた。これほど悲しくなる台詞は無いわ。何だよ、俺に好意を向ける奴はいないって。自分で思っておきながらすごい悲しくなって来たんだけど。


 あっ、ダメだ。なんか涙も出てきた……。


「え、泣いてる!? ……あっ、もしかして僕が酷い事をしちゃったからかな? ごめん、流石に初対面でするべき冗談じゃなかった!」


 目元から少し涙を流し始めた俺を見て、自分の責任だと思ったフェレライさんは慌てて謝って来てくれた。


 今ので分かった。ああ、この人絶対いい人だ……。


「……ソウ氏、これはどう思うのである?」


「まあ、ナツの事だしフェレライさんが原因で出た涙じゃ無いってのは確かだな」


「であるよな……」


 ソウとメクルが何か言ってるけど、とりあえずあいつらは無視しとこう。


「皆さん、一時間目は第3グラウンドなんですからそろそろ移動しないと間に合いませんよ」


 騒ぎがある程度落ち着いたのを確認したサイエスさんが、クラス全体に伝わる声で俺達に呼びかけた。


「えっ、第3グラウンドってそんなに遠いの?」


 その言葉にフェレライさんは驚く。一時間目までは今からまだ20分ぐらいあるから、今のうちに向かわなきゃ授業に間に合わないっていうのが信じられないんだろう。


「まあ、15分ぐらいは掛かるかな」


「うわ〜、やっぱり相当広いんだねこの学園って」


「うん、かなり広い。俺もたまに道に迷うしね。それじゃあ着いて来て、案内するよ」


「あっ、うん。ありがとう」


 俺はそんな彼女に同意すると、席を立ってフェレライさんに着いて来る様に言う。

 

「ダメ、みんな待って!」


 そしてみんなで教室を出て第3グラウンドに向かおうとすると、背後からライアの必死そうな声が聞こえて来た。


 その為、呼び止められた俺達は全員で足を止めて後ろを振り返る。


「クララが……まだ気絶してる」


「マジか、ライバルの出現がそんなにショックだったのかよ……」


 そして最後に、ソウの小さな呟きが聞こえて来た。


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