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黙示録のラッパ吹き 〜魔法師世界で魔法が使えない少年〜  作者: 岩月敬一
学年別クラス対抗戦編
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第七十五話 それがアイツらに出来る唯一の贖罪だ!

 イリーネの誘拐事件から数日後の昼頃、城の中にある王の執務室には6人の人物の姿があった。一人は執務机に座っている国王のダグラス、次にソファに座っているメリアとメイゲル、部屋の手前に立っているレグリアとスミラ、そしてレグリア達と同じ様に立っている見た事のない細目の男だ。


 座っていたり、逆に立っていたりと体勢はバラバラな彼等だったが全員が共通して深刻そうな顔をしていた。


「…………まさかここに来て夏が思い出しちまうなんてな」


 少しの静寂の後にダグラスが話を切り出す。


 そう、世間では伝説的な存在として扱われている彼等が今こうしてこの場に集まったのは他ならぬ彼等の団長、竜胆夏について話し合う為なのだ。


「……す、すみません! 私が結界を張っていたにも関わらず敵の侵入を許してしまったせいで!」


 そして話を切り出したダグラスに続いてスミラが頭を深く下げながら謝った。


 彼女はただでさえイリーネが攫われた事に罪悪感を感じていたのだが、その上自分が魔族の侵入を許した事が夏の記憶を呼び起こしてしまった原因になったと思い込んでいる為、余計に罪悪感に苛まれていたのだ。


「いや、あれはお前のせいじゃない。前から何度も言っているが俺から見たお前の結界はかなり高度な物だ。もちろん学園に張ってあった物も含めてな。俺はむしろお前の結界を侵入された事に驚いているよ」


 そんなスミラに対して彼女の師匠でもあるメイゲルがフォローする。この言葉から分かる通りメイゲルもレグリア同様、彼女の結界には絶大な信頼を置いているのだ。


「……あ、ありがとうございます」


「実はその事について気になった事があるのですがよろしいでしょうか?」


 スミラがメイゲルのフォローに感謝した後、会話に入ったレグリアにダグラスが続きを促す。


「ああ、どうした?」


「はい、他ならぬ敵の首魁であったグレイプレという魔族についてです。例の地下室で会った際に、その魔族がスミラの結界を破ったという事でかなりの実力者だと思い警戒をしていたのですが、ヘステ君達と戦っている姿を見た所そこまで強い印象は受けませんでした。とてもスミラの結界を破れるような実力があったとは思えません」


 それはレグリアがグレイプレとヘステ達の戦いを見ていた時に抱いた感想だった。大会でBクラス対Fクラスの試合が行われていた際にレグリアが言った通り、スミラの結界は簡単に破れたりすり抜けられる物では無い。それこそ『黙示録のラッパ吹き』並みの実力が無いと結界内に侵入する事は不可能なのだ。


 しかし、グレイプレは『黙示録のラッパ吹き』の弟子である自分どころかヘステ達にでさえ苦戦していた。もちろんヘステ達は決して弱くない、むしろかなりの強者の部類に入る実力者達だ。しかし、だとしてもスミラの結界を破る事など到底不可能なのだ。


「そういや、お前でも一撃で倒せたんだよな?」


「はい」


「じゃあ考えられるのは協力者がいたって線か…………」


 そしてその話を聞いたダグラスはすぐにある結論に辿り着いた。


「それは結界をすり抜けられる程の実力を持った何者かがあの魔族の手助けをしていたという事か?」


「ああ、そうとしか考えられねえだろ。なんせスミラの結界をすり抜けられる様な奴が簡単にやられるわけねえからな」


「……たしかにそうだな」


 ダグラスの説明に対し、メイゲルは一瞬考えた後自分の弟子の方を見ながらすぐに納得した。


「…………あの、お話を区切る様で申し訳ないんですけど……。そろそろ団長の話をしませんか?」


 ダグラス達の話に一旦区切りが付いたのを確認したメリアが、この場の全員が敢えて触れずに避けていた話題を口に出す。


 もちろんメリア自身も他の人間と同様にこの話題は避けたかったのだが、それでもこれからの事を考えると口に出さない訳にはいかなかったのだ。


「……今回私は団長に私の『固有魔術』である"消実新実しょうじつしんじつ"を使いました。これは最初に使った時と合わせると二回目、つまり私の『固有魔術』の制限回数である三回まではあと一回の猶予しか無いんですよ。

 頼みの綱である瑞香達の研究もあまり進んでいないと聞きますし……。あと一回しか行えない記憶の改変、その猶予が無くなってしまう前に何か対策を講じませんか?」


「「「「…………………………」」」」


 メリアの言葉に全員が言葉に詰まってしまった。触れたく無かった話題に触れなければならないというのももちろんあるが、何より夏の記憶を書き換えた本人として一番この話題に触れたく無かったであろうメリアにこの話を始めさせてしまった事に、申し訳なさを感じていたのだ。


「……そうだな、避けてばかりじゃいられねえか………………。とりあえずレグリア、学園での夏の様子はどうだったんだ?」


 そして少し長めの沈黙の後、最初に口を開いたのは先程も会話の中心にいたダグラスだった。


「……はい、率直に申し上げてリンドウ様の性格はかなり変わっていられました。入学式の前に一度お会いさせて頂いたのですが、その時に以前なら仰っていなかった様な冗談も言っておられましたし。やはり最初の改変が性格の部分にも影響を及ぼしてしまったのだと思います。ただここ数日のリンドウ様を見る限り、時間が経つにつれて以前の様な落ち着きも戻りつつあるとも感じられます」


「……やっぱりか」


 ダグラスからの問いレグリアは少し思い出す素振りも見せながら答えた。そしてその返答が想像通りだったダグラスは納得した様な表情を見せながら少し肩を落とした。


「で、でも……記憶を改変したら性格まで変わってしまうなんて本当にあり得るんでしょうか? 幼少期の記憶ならまだしも私達が改変したのは最近の記憶です。その記憶を変えた事で性格まで変わってしまうとはあまり思えないのですが……」


 そこで、スミラが疑問に思った事を口に出す。それは当然と言えば当然の疑問だった。ダグラスとレグリアは当たり前の様に記憶を書き換えた事が原因で竜胆の性格も変わったと言っていたが、竜胆がそこまで幼くなかった以上、記憶を書き換えただけで性格まで変わるとは考えづらいのだ。


「……ああ、その点に関してはお前も知っての通りアイツは()()()()()()()()()からな。人間の身体の常識がアイツに適用しない事もある。多分そこら辺が関係してるんだろうよ」


「…………なるほど。たしかにそうでしたね」


 しかし、疑問を持ったスミラもダグラスの簡単な説明によってすぐに納得した。一見かなり単純な説明だったが、それでもスミラが納得するには十分な内容だったのだ。


「ところでメリア、あの魔族の研究結果とかはどうした? たしかアイツが研究してたのって……」


「ええ、怪しい物が入っていないか一旦中身を確認した後にしっかりと瑞香達の所に送りましたよ。私にはよく分からない内容でしたけど瑞香達ならきっと研究に役立ててくれるでしょう」


「そうか、ありがとな」


 自分がやってもらおうとしていた事を既にやってくれていたメリアにダグラスは礼を言う。


 そして手を顎に添えながら少しの間考える素振りを見せた後、ダグラスは再び部屋の中にいる人間全員に視線を向けた。


「…………よし、とりあえずこれからの方針を伝えるぞ。メリアがさっき言った通り夏のために何か対策は講じておいた方がいい。とはいえ、ここにいる俺達に出来る事と言えばせいぜい瑞香達の研究が終わるまでアイツの周りに記憶を思い出す要因になりそうな物が近付かない様にする事ぐらいだ。

 だが、だからこそ俺達が出来る事を全力で取り組んで行く。今まで以上に夏の周りの警戒を強めて行くぞ。メリアとメイゲル、お前ら二人にもこの国に残って夏の周りの警戒をしてもらおうと思う。それでもいいか?」


「ええ、もちろんです」


「ああ、俺も大丈夫だ」


「……そうか、ありがとな」


 二人が自分の意見に賛同してくれた事にダグラスは安心した。二人の性格などを考えたら断る訳が無いというのは分かりきってはいたが、それでも彼にとって夏が記憶を取り戻してしまわない様にする事はかなり重要な事だったためつい安心してしまったのだ。


 そして少し安心した後ダグラスは少し緩んでしまった自分の顔を元に戻し、目の前にある執務机を勢いよく叩きながら立ち、気合の入った声で言い放つ。


「……お前らも深く胸に刻みつけているとは思うが、夏の事を話し合ってるこの場だからこそあえて言わせてもらうぞ。いくら死に行くアイツの願いを叶える為とはいえ俺達は団長である竜胆夏に『色欲』を殺させ、そしてその記憶を書き換えた。それは俺達の我儘であり、一生背負って行かなきゃならない罪だ。

 その事をしっかり自覚し、心に刻みつけ、せめて瑞香達の研究が終わるまでは全力で団長の周りに『色欲』の関係者が近付かない様にしろ。それが俺達が()()()()に出来る唯一の贖罪だ! いいな!」


「「「「ああ(はい)!!!!」」」」


 ダグラスを含めた全員の目には確固たる決意がハッキリと映っていた。それは自分たちの選択によって深い悲しみを味わってしまった彼等の団長に、そして死に行った大切な仲間の最期の願いを叶えてしまったが為にその仲間の望まぬ未来になってしまった事に対する、罪の意識から来る決意だった。


 自分達の選択が間違えだったと気付いた時彼らはその選択を酷く悔い、そして同時に誓ったのだ。彼等の選択による被害者となってしまった竜胆夏と『()()()()()』を救う為に……たとえ禁忌の行いであろうと手を染めようと。


「……………………悪いなギンラ。お前の報告に移る前に一回みんなの意識を高めておこうと思ってな」


「いえ、ダグラス様の言う通り大事な事だったんで自分の事はお構いなく」


 全員で決意を改めて表明した後、少し熱が下がった所でダグラスがレグリア達の横で立っていた細目の男に話しかける。


 この男、ギンラ・エイガーは"聖女"として知られるメリア・グレイシアの弟子であり、『黙示録のラッパ吹き』の為の諜報係を務めている人物である。その情報収集能力はかなり高度な物で、彼はもはや『黙示録のラッパ吹き』には欠かせない存在となっていた。


 グレイプレ達がリーグレッド王国に侵入したという情報も、実はギンラが自分の師匠であるメリアに知らせた物だったのだ。


「そうか……ありがとな。それで、お前の持って来た報告っていうのを教えてもらっていいか?」


「はい。実は報告は二つあるんですけど……じゃあ、まずは今回の事件に関係のある方から報告させてもらいます」


「今回の事件に関係のある方、ですか?」


「はい師匠。イリーネ・ユグドラシルが魔族に攫われた理由についてっす」


 自分の師匠にしっかりと返事をしてからギンラは続ける。


「人質にする事が目的でも無い魔族に何故普通の王女である彼女が攫われたのか。そこには必ず特別な理由がある筈だと思って自分なりに様々な観点から調べてみたんですよ」


「それで……どんな結果になったんだ?」


 ギンラは声を出したダグラスの方を一度見てから再び全体に視線を戻す。


「かなり様々な情報を洗ってみたところ、一つだけ彼女が攫われた理由に関係がありそうな事柄を見つけました。…………皆さんは彼女の父がこの国の血筋の人間という事はご存知っすよね?」


「ああ、そんなの当たり前だろ。俺はそいつから王位を奪ったんだからな」


「そんな堂々と言う事でも無い気がしますが……」


 ダグラスの同意の仕方に、メリアは小さくツッこんだがギンラはあまり構わずに説明を続けた。


「実は問題があるのは彼女の母親なんです。イリーネ・ユグドラシルの両親は国同士の同盟関係を結ぶ為、言うなれば政略結婚で婚約を結んだ夫婦っす。そこまではよくある話なのでいいんですが、問題は彼女の母親が元々いた国の方なんっすよ」


「……その国ってのは?」


 真剣な表情で聞いて来るダグラスにギンラは一瞬視線を送ってからもう一度部屋全体に視線を戻して答える。


「はい、イリーネ・ユグドラシルの母親であるシルファ・ユグドラシルは……神の国、『教皇国ルキアス』の出身です」


「っ、それって!」


 立ち上がりながら驚くメリアに対してギンラは一回頷き、最後の言葉を続ける。


「……そうっす。つまりその国の王族であったシルファ・ユグドラシルは……神の血筋を引いている人間という事になります」


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