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黙示録のラッパ吹き 〜魔法師世界で魔法が使えない少年〜  作者: 岩月敬一
学年別クラス対抗戦編
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第七十四話 急で申し訳ありませんが、戦闘終了です

 アイツとの思い出はどれも楽しい事ばかりだった。


 アイツが大切な行事の時に寝坊した事を俺達にこれでもかというぐらい謝って来た事、野宿の時に珍しくアイツが夕飯を作るって言うから頼んでみたら喉を通らないぐらいマズイ物が出来上がった事、腹が減ったからと言って二人で蓄えてあった食料を盗み食いした時にブレイズに半日ぐらい怒られた事。


 どれだけ辛い出来事があってもアイツが側にいるだけで俺は自然と笑顔になれた。アイツは俺にとって大切な存在だったんだ。


 そしてだからこそ、そんなアイツを殺さなきゃいけないと決まった時は心臓が押し潰されたかと思うぐらい辛かった。幼い頃から一緒にいて、最早俺の生活に欠かせない存在になっていたアイツが死ぬのはいくらアイツの為とはいえ簡単に耐え切れる物じゃなかったんだ。


 それでも、俺はアイツを殺すしか無かった。そうでもしないとアイツにはとんでもない運命が待ち受けていたからだ。


 だからせめて、どんな事があろうとアイツを自分の手で殺した事は絶対に忘れず、どれだけの苦しみを伴ったとしても胸に刻みつけようと思った。


 ……それなのに、俺は…………その事を完全に忘れてしまっていたんだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛!゛!゛!゛」


 正直、リンドウ君とあのグレイプレっていう魔族の会話は全然理解出来なかった。もちろんリンドウ君が『黙示録のラッパ吹き』の団長だったっていう事に対する衝撃も大きかったけど、何よりも話が大きすぎて私には着いていけなかったのだ。


 ただ、一つだけたしかな事がある。それはその会話が原因でリンドウが叫び始めたという事だ。


「大丈夫かリンドウ君!」


「おいどうしたナツ!?」


 リンドウ君の突然の変化に異常を感じた師匠とオーズスタン先生がいそいで駆け寄る。


「リンドウ君!」


 私もすぐにでも駆け寄りたい気持ちだったけど、手足が縛られているせいで声を出す事しか出来なかった。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛!゛!゛!゛」


 しかし、師匠とオーズスタン先生の二人が駆け寄ってもリンドウ君はそれに構わずただ辛そうな叫び声を上げ続けるだけだった。


「ねえあなた! 一体リンドウ君に何をしたの!?」


 そもそもリンドウ君が突然ああなった原因が分からなければ何も出来ない。そう判断した私は先程までリンドウ君と話していた魔族に問いただす。


「いや、分からない……」


「何を寝ぼけた事言ってるの!? リンドウ君が突然叫び始めたのは貴方と話している最中だったじゃない!」


「だから分からないと言っているんだ。むしろ俺が一番驚いている。俺はただアイツと会話をしていただけで『固有魔術』などは一切使っていない。それなのに何故あの様に…………っ、まさか本当に記憶が書き換えられていたのか……?」


 しかし、その魔族もリンドウ君の突然の変化にはかなり驚いている様子だった。後半も私では無く自分の中で喋っている様だった。


「リンドウ君! どうしたんだリンドウ君! 私の声が聞こえるか!」


 リンドウ君のあまりの変化に師匠は先程までの怒りを完全に忘れて全力で声をかけるが、それでもリンドウ君の異変が収まる様子はまったく無かった。


「くそっ! おいテメェ、本当にナツに何もしてねえのか!」


「だから俺も何も知らないと言っているだろう! 俺もそいつのその状態についてかなり驚いているのだ!」


 いくら声を掛けてもリンドウ君から一向に反応が返ってこなかった事にいよいよ焦りを覚えたオーズスタン先生は魔族に問いただそうとするけど、彼も何が起きているのか分かっていないため特に有益な情報は返ってこなかった。


「くそっ、じゃあ一体何が起こったって言うんだよ!」


 グレイプレの様子から本当に何も知らないんだろうと察したオーズスタン先生は大きく頭を掻きながら言う。


 ……本当にどうしたらいいの? リンドウ君が急に叫び出した理由がまったく分からないからそれを解決する方法も全然思いつかない。今は幸い敵の魔族も戸惑ってるみたいだからいいけど、もしコイツが冷静になったらリンドウ君が危ないわ!


「この叫び声は何ですか!?」


 そして、そんな風に私が頭の中で焦っていた時だった。この状況を救ってくれる救世主がこの地下室に現れたのは。


「っ、レグリア様! それに……なっ、メリア様も!?」


 師匠がその二人の存在に気付き驚きの声を上げる。そう、学園で待機している筈だったレグリア学園長先生が大会の解説を行っていた筈のメリア様を抱えてこの地下室に入って来たのだ。


 レグリア学園長がかなり息を切らしている様に見えるのは、それほど急いでここまで向かって来たからなんだろうか。


「これは…………くっ、なるほど一歩遅かったですか。オーズスタン先生とヘステ君! リンドウ君の事は我々が対処しますので貴方達二人には拘束されているイリーネ君の事を頼みます!」


「っ、分かりました! 行くぞオーズスタン!」


「……ああ!」


 ある程度辺りを見渡したレグリア学園長は状況を察したのか、すぐにメリア様を降ろしながらオーズスタン先生と師匠に指示を出した。


 そしてレグリア学園長とメリア様が現れた事で少し心に余裕が出来た師匠達は学園長の指示通りすぐに私を助け出す為に動き出してくれた。きっとメリア様達なら絶対にリンドウ君の事を何とかしてくれるという安心があったんだろう。


「くっ、ナメるなよ! 俺は四天王直属の部下だった男だぞ! 二人とはいえ貴様らなどに負ける訳が無いだろう!」


 そして二人が自分に向かって来ているのを確認した魔族もすぐに臨戦態勢に入った。


「私達二人を相手にして負ける訳が無いって、ナメてるのはどっちだ! "電光でんこう"、"縛雷ばくらい"!」


 魔族が臨戦態勢に入った事を確認した師匠は一度消した雷を再び足裏と両手の拳に纏わせて、拳を振りかぶりながら一瞬で距離を詰める。


「なっ!」


「はあっ!」


 急に距離を詰められた事に驚いた魔族はたじろいで一瞬動きが鈍くなる。そして、その一瞬を師匠は見逃さなかった。


 師匠は振りかぶっていた拳に雷を纏わせたまま魔族に向かって振り下ろす。


 師匠の速さや魔族の動きからして、その拳は確実に魔族のお腹に入ると思われた。


「"軟工なんこう"!」


「なっ!」


 しかし拳を振り下ろしている途中で師匠は、まるで何かに足を取られたように唐突に体勢を崩してしまう。


「喰らえ!」


 そして、今度は師匠に出来た隙を魔族が見逃さなかった。師匠が体勢を崩した途端魔族は距離を詰めて来ていた師匠の顔に向かって思いっきり拳を繰り出そうとする。


「"火蝶速飛かちょうそくひ"!」


「っ、くっ!」


 しかし、その魔族の動きをオーズスタン先生が止める。オーズスタン先生は魔族と師匠の間に炎の蝶を数羽飛ばす事で魔族に拳を引かせたのだ。


「大丈夫かヘステ?」


「ああ、助かったよ。ありがとう」


 その隙に自分の隣まで下がって来た師匠にオーズスタン先生は魔族の方を警戒しながら話しかける。


「それにしても何があったんだ? いつものお前ならあんなチャンスに体勢を崩すなんて初歩的なミスはしねえだろ」


「…………私が拳を振り下ろそうとした瞬間に地面が急に泥のように柔らかくなったんだ」


「地面が柔らかく? ……ああ、なるほど『固有魔術』か」


「ああ、恐らくそうだろうな。多分指定した物を柔らかくしたりする能力なんだろう」


「どうする? 一旦引きながら戦ってアイツの『固有魔術』の詳しい部分を探るか?」


「はっ、馬鹿を言え。メリア様達が見てくれているとはいえリンドウ君があんな状態なんだ。こんな戦いはすぐに終わらせるぞ。それに私はチンタラ戦うのが苦手って知ってるだろ?」


「…………そうだな、お前ならそう言うと思ってた。そんじゃあ援護は俺に任せてお前は突っ込んどけ!」

 

「ああ!」


 ある程度の作戦を決めた二人は再び魔族の方に意識を集中させて臨戦態勢に入った。どうやらどう戦うのかが決まったらしい。まあ、師匠の性格からしてどんな作戦かは予想出来るけど。


「おい、作戦会議は終わったのか?」


 そして二人の会話が終わるのをわざわざ待っていたのか、会話中に攻撃を仕掛けなかった魔族が師匠達に話しかける。


「……ああ、わざわざ俺達が話し終わるのを待っててくれたのか?」


「いや、そういう訳では無いのだがな……」


(……どうやら逃げ出すのは中々厳しい様だな。くっ、やはり覚悟を決めるしかないか……)


 魔族は少し沈黙を置いた後、今度は威勢よく師匠達に叫ぶ。


「それでは再開するぞ……今度はこちらから行かせてもらう!」


「「っ!」」


 そして魔族が自分達に向かって走り始めたのを見て師匠とオーズスタン先生は腰を落として戦闘態勢に入る。


「"軟工なんこう"!」


「くっ、またか!」


 その瞬間、師匠は先程と同じように踏んでいる地面を柔らかくされ体勢を崩してしまった。


「はあっ!」


 そしてその隙を突いて魔族は再び師匠に拳を喰らわせようとする。


「させねえよ! "火蝶速飛かちょうそくひ"!」


 しかしそれを読んでいたのか、オーズスタン先生は再び数羽の炎の蝶を、今度は魔族本人に向かって撃つ。


「くっ!」


 そしてその炎の蝶に気付いた魔族は咄嗟に右斜め後ろに飛びそれを避けた。


「チッ、避けやがったか!」


「くっ、流石に2人を相手にするのは無理があるな……! だが負けんぞ! 主の為に俺は必ず生き残らなければならないのだ!」


 そう言った魔族はオーズスタン先生の攻撃によって崩れた体勢を立て直して、すぐにまた攻撃に移ろうとする。


 しかし……


「急で申し訳ありませんが、おしまいです」


「え……」


 突如として聞こえて来た意識外からの声に驚き、体勢を立て直している途中だった体の動きをつい止めてしまった。


「グヷァ!」


 そして次の瞬間、突然目の前に現れたレグリア学園長の炎を噴出している拳を喰らってしまい、そのまま後ろにあった壁まで大きな音と共に吹っ飛んだ。


「「え……………………」」


 ただその事に驚いたのはもちろんその魔族だけでは無く、師匠とオーズスタン先生も呆気に取られてつい気の抜けた声を出してしまった。


「……敵を横取りしてしまってすみませんオーズスタン先生にヘステ君。ただ元からリンドウ君の状態がある程度分かったらこちらの戦闘に参加するつもりではあったんです。

 ……この魔族は四天王直属の部下にしては弱いですが、それでもそれなりの実力者ではありましたからね。貴女達二人が負ける事は無いとはいえ早めに終わらせたかったのです」


「…………いや、大丈夫です。たしかにさっきのナツの様子を見る感じのんびり戦ってる場合じゃ無いっすからね……。まあ、俺はとりあえずイリーネの拘束具を外して来ますよ。

 ちょっと待ってろよイリーネ! 今外しに行ってやる!」


「あっ、はい。ありがとうございます!」


 そして少し申し訳無さそうに謝るレグリア学園長に特に問い詰める事もなく納得したオーズスタン先生は拘束具を外す為に私の方に駆け寄って来てくれた。


「レグリア君!」


 そしてオーズスタン先生が拘束具を外し始めてくれたのと同時に、今度は別の所から声が聞こえて来た。


「っ、どうでしたかメリア様?」


 その声はレグリア学園長と共に突然この地下室に現れ、先程からリンドウ君の様子をずっと見ていたメリア様の物だった。さっきまで目の前で師匠達が戦っていたから気付かなかったけど、いつの間にかリンドウ君は叫び声はあげなくなっていて代わりに寝息を立てていた。


「多分まだ手遅れじゃないと思います。…………私の『固有魔術』を使えばまだ戻せるでしょう。ただ……」


「…………大丈夫ですよメリア様。貴女様が気に病む必要はございません」


「ちょ、ちょっと待ってくれレグリア様! さっきまでは戦闘に集中してて頭から抜けていたが情報が多すぎてまったく整理が付かないぞ。何故あんた達はこの地下室に現れたんだ。リンドウ君が突然叫び出した事と何か関係があるのか? それにリンドウ君本人が言ってたんだが彼が『黙示録のラッパ吹き』の団長だというのは本当なのか? それに…………ああ、くそっ。聞きたい事がありすぎて上手く考えが纏まらない!」


 オーズスタン先生が私を拘束具から解放してくれている事を確認した師匠は、考えが纏まらない事に対する苛立ちを見せながらレグリア学園長に問い詰めた。


 そしてその問いに対してレグリア学園長は少しの沈黙の後に口を開く。


「………………ふぅ、何もかもを秘密にしたままだと貴女達に失礼ですか。そうですね、分かりました。それでは学園に戻り、今回の事件の収拾がある程度付きましたら一部ではありますがリンドウ様について貴女方三人にお話します。……よろしいでしょうかメリア様?」


「……ええ、もちろんです。そもそも団長が自分から素性を明かしたんですから、それを秘密にしたままにしておく方がおかしな話でしょう」


「……ありがとうございます」


 メリア様に確認を取ったレグリア学園長は少しホッとした表情を見せて再び私達の方を向く。


「それではまず城から応援を呼んでそこで倒れている魔族達を国民の皆さんにバレないように運びましょう。皆さんも協力して下さい。リンドウ様の事については後日必ずお教えします」

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