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黙示録のラッパ吹き 〜魔法師世界で魔法が使えない少年〜  作者: 岩月敬一
学年別クラス対抗戦編
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第七十三話 ……道理でおかしかった訳だ

 ……目の前にいるこいつはさっきから何を言ってるんだ? 俺の記憶じゃあアイツはたしかに生きてる。連絡は取れてねえけど今もあの国で幸せに暮らしてる筈だ。


 なのにコイツのこの様子……本当に心の底からアイツが死んだって思ってるじゃねえか。いや、おかしいだろ。コイツは言動からして軍の中でも相当上の立場にいた筈だ。それなのにアイツが生きてるって事を風の噂でも知らないのはおかしい。


 それに死んだ事実を確認したっていうのも引っかかる。アイツは死んで無いからそんな物は残ってない筈だが……。


「…………おい、貴様に一つ聞いておきたい事がある。貴様は先程、あの方が遠い国で住んでいると言っていたがそもそもその国とはどこなのだ?」


 その魔族が、まるで何か重要な事を確認するかのように俺に聞いて来た。


「どういう意味だよ?」


「……あの方と戦ったのであれば貴様もあの方の特性は知っているだろう。貴様の言う通りあの方が実は生きていたとすると、貴様らはどのようにしてあの方を遠くの国まで連れて行ったのだ?」


「は? 特性……?」


 え、特性ってなんの事だ? そんな物アイツには…………あっ、いや、そうだそうだ。そういえばアイツにはとんでもない特性があったな。たしかアイツが『《《色欲》》の魔王』って呼ばれる所以になってた特性の筈だ。


 ええと、その特性の能力がたしか…………


「……あの方の特性は『自分の周囲に存在しているすべての人間の、色欲に関連する欲求を強制的に最大限引き出させる』という物だ。つまり、あの方はただ存在しているだけで周りに存在する人間に影響を及ぼす。そんな方をどのようにして遠い国まで連れて行ったのだ? あの方が人間の近くを通るだけでかなりの騒ぎになっている筈だろう」


 アイツの特性の説明を交えながら聞いてくるそいつの様子には、俺が『黙示録のラッパ吹き』の団長だと知った時のような焦りや怒りは存在していなかった。ただただ疑問に思った事を聞いて来ている様子だった。


 たが質問の意味が分からない。アイツを連れて行った方法なんて簡単じゃねえか。


「何言ってるんだお前? アイツを遠くの国に連れてった方法なんてそんなの……え? ……がぁっ!」


 しかしその方法を思い出そうとした瞬間、酷い痛みが俺の頭を襲った。そしてその痛みのあまり俺は頭を抱えて膝をついてしまう。


「あれ、思い出せねえな。でも俺はたしかアイツを……あ゛ぁっ!」


 くそっ、何で思い出そうとしたら頭痛が走りやがるんだ。これじゃあ余計思い出せねえじゃねえか。……でも俺はたしかにアイツを国まで連れてった後、そこで別れを済ませ……て……。


 ……あれ、俺アイツと別れる時になんて言って別れたっけ?


 いや、違う。そもそもコイツの言う通り俺はどうやってアイツをあの国まで連れて行ったんだ? アイツの特性上絶対に人に近寄れないから遠くの国に連れてくのなんて無理だろ。それにその遠くの国って一体どこの事なんだ? それに仮に遠くの国に連れて行けたとしても周りの人に害を与えてしまう以上アイツは安心して暮らせねえだろ。

 そもそもあの特性を持ったアイツが安心して暮らせる国があるとは思えねえ。……あれ、じゃあアイツは今どこにいるんだ?


 くそっ、一体どうなってやがるんだ。何かがおかしいぞ……!


「…………おい、もう一つ聞かせろ。貴様の言う通り主が実は生きていたとしよう。だが、だとすれば俺達『色欲の魔王』陣営と貴様ら人間の戦争はどのようにして終わったと言うんだ? あの戦争は俺達の主である『色欲の魔王』様が亡くなられたから終わったのだ。しかしお前の言う通り主が生きているのならば、あの戦争はどのように終結したのだ?」


 俺は頭を抱えながら弱々しくその質問に答える。


「そ、それは……軍の幹部以外にはアイツが生きている事を隠して……」


「それがおかしいと言っているのだ。いいか、俺達『色欲の魔王』様の配下は他の魔王の配下に比べて主への忠誠心がかなり高い者達が集まっていた。そして軍での位が上がれば上がる程、相対的にその魔族の忠誠心も増していったのだ。そんな軍の幹部達が、主が死んだという不名誉な偽情報を流すと言われて大人しく引き下がると思うのか?」


 ……そうだ、コイツの言う通りだ。『色欲の魔王』陣営の魔族達は忠誠心が高い事でかなり有名だった。そんな忠誠心の塊の奴等をまとめる幹部の全員が魔王の死の偽装に大人しく付き合ってくれるとは思えない。本来なら一人ぐらいは抵抗していてもなんらおかしくはない。


 じゃあなんでアイツが死んだって事は広まったんだ? 『色欲の魔王』陣営の幹部達の一人でも受け入れなかったら、アイツが実は生きてるって情報が少なからず流れてる筈なのに。流れるどころかそんな話一回も聞いた事がねえ……!


 いや、でもアイツが生きてるのはたしかなんだ。だって俺はアイツと戦って無力化した後アイツの呪いとも言うべき特性を解いて…………


 あれ、特性を解いた? どうやって? いや、そもそも俺はアイツの特性を解いたのか? だってさっきまではあの特性を持ってるアイツをどうやって遠い国まで連れてったのかを悩んでのに……!


 え、じゃあ何なんだ? 本当に何が起こってるんだよ一体! 訳がわからない! アイツはたしかに遠い国で暮らしてる筈だ! 俺はたしかにそう記憶してるんだぞ! なのに何でこんなにも矛盾が起こってるんだ!?


 くそっ、思い出せ! どれだけ頭痛が酷くなってもあの時の事をもっと鮮明に思い出すんだ!


『好き』


 ………………………………………………あっ。


 違う……違う…………そうか、道理でおかしかった訳だ。…………そもそもが違うんだ。アイツは遠い国になんかいない、そもそも……生きてすらいない。アイツは……アイツは…………!!!


「ア、ア、ァ、あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛!゛!゛!゛」


 俺がこの手で殺したんじゃないか……!

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