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黙示録のラッパ吹き 〜魔法師世界で魔法が使えない少年〜  作者: 岩月敬一
学年別クラス対抗戦編
70/90

第七十話 私が変わったきっかけ(後編)

「うっ……ん、ここは…………」

 

 盗賊を探している最中に意識を失った私が目を覚ますと、私はうす暗い檻の中にいた。どうやら手足が縄みたいな物に縛られてしまっているらしく上手く動けそうに無い。


「おおっ、目を覚ましたか!」


 そして目の前にいた見るからに不潔そうな男が、気を失っていた私の意識が戻った事に気付いて私に話しかけて来る。


「ギャハッ。どうだいお嬢ちゃん、俺達に捕まった感想はよぉ」


「………………」


「ギャハハハハハッ! 答えたくねぇってか!」


私が何も言わない無いのを確認すると、その男は汚い歯を見せながら笑った。


「………………」


「もしくはあれか、怖くて言葉も出ねぇのか!」


「………………」


「………………ちっ、おいテメェ。俺が話しかけてやってんだから一言ぐらい喋りやがれよクソアマが!」


 しかし流石に返答が一つも無い事にイラついたのか、その男はさっきと打って変わってイラつきを見せながら怒鳴る。


 喋りかけて来る彼に対してずっと無言だった私だが、別に彼を無視しようとしている訳では無かった。それまで魔法を使った戦闘でほとんど負けた事が無かった私が盗賊なんかに負けた事がショック過ぎて反応する余裕が無かっただけなのだ。


 ラーンベルト学園に在籍している今では魔素量至上主義に反対な私だが、幼い頃はその思想を支持していたのだ。私の周りの家庭教師がみんな口を揃えて魔法師は魔素量がすべてだと言っていた上に実際に大会を見ても魔素量の多い子が勝ち続けていたため、幼かった私はその考えを疑おうともしなかったのだ。


 そしてだからこそ、私のショックは大きかった。ただ盗賊に負けただけではなく、魔素量で圧倒的に勝っている私が負けたという事が信じられなかったのだ。


「チッ、これも反応なしかよ。……やっぱ一回殴っとくかァ?」 


「おいおい、そんぐらいにしとけよ。傷を付けたりするとまた首領に怒られるぞ」


「はっ、別にちょっとぐらい傷付けても大丈夫だろ……なあ!」


「……っ!」

 

 同じく檻の中にいた仲間の言葉を流しながら私の後ろの壁を蹴った不潔そうな男に、私は思わず身体で反応した。いくらショックを受けているとはいえ周りの情報を完全に遮断している訳ではなかったのだ。


「ギャハッ、今度はちゃんとビビりやがっなぁ!」


「はぁ……ったく、ほどほどにしとけよ。じゃあ俺はこいつが目覚めた事を首領に伝えてくるよ」


「ああ、流石にやり過ぎはしねえよ」


 今までの経験からその男を止めるのは無理だと判断した仲間の男は呆れながら檻から立ち去って行った。


「……ははっ、理解のある仲間でホントに助かるぜ。そんじゃあ嬢ちゃん、テメェの綺麗なそのお顔が恐怖に染まった顔をもっと見せてくれよォ。俺はそれを見るのが大好物なんだからなァ」


 立ち去る仲間を見送りながら、気味の悪い笑みを浮かべた不潔そうな男が私に近付いて来る。


 事が済んだ今だから言えるけど、こういう時って普通はもっと性的な事をしようとする物じゃないかしら。それをしないで私を殴ろうとするなんて……この男はよっぽど人を殴るのが好きだったのかしらね。


「そんじゃあ一発目行くぜ! ギャハッ、まずは腹から行くか!」


 手が届く範囲まで近付いて来た男はそこから思いっきり腕を振りかぶる。そしてその動作や言葉から殴られると思った私は目を瞑りこれから来るであろう痛みに備えた。


「おい、何をやってる!」


「っ、しゅ、首領! それにガグレイル様!」


 しかし、備えていた痛みは来なかった。檻の外から野太い声が聞こえて来ると、その男は動きを止めてそちらの方を見たのた。


「…………テメェ、攫って来た奴は傷付けんなって何回も言ったよな? ……しかもこいつ子供じゃねえか。こういう奴はマニアにいい値段で売れるんだから変な傷は付けるな」


「は、は、はい!」


 そして野太い声の持ち主の男とその隣で歩いて来ている男の二人が檻に入って来ると、不潔そうな男は彼等の邪魔にならない様に急いで下がった。


 二人の男の内、私の目の前にいた不潔そうな男に話しかけていたのは頭にバンダナを巻いているガタイがそれなりにある男で、もう一人は正直人間と言っていいのか分からない風貌だった。というのも、肌色が橙色で頭には角が生えていて風貌が人間のそれでは無かったのだ。


「やあ、調子はどうですか?」


 そして、その橙色の肌色の男がしゃがみながら笑顔で話しかけてくる。


「………………」


 だが私はその問いに答える事が出来なかった。魔素量が自分より圧倒的に少ない盗賊に負けたというショックは癒えていたが、今度は恐怖が私を襲って来たのだ。


「ふむ…………どうやら緊張しているようですね」


「ははっ、こいつを捕まえられたのはガグレイル様のおかげですぜぇ。あんたの指示通りに動いたら簡単に捕まえられたんだからなぁ。ったく、あんたが来てから俺達の仕事も楽になったもんですよ!」


「いえいえ、私は特別な指示など出していませんよ。貴方達の動きがよかったから彼女を捕まえられただけです。…………ああ、それと彼女が隙だらけだったという事もあるでしょうか。なにしろあんな森の真ん中にいたのに周りの警戒を一切していませんでしたからね。彼女の背後に回り込むのは簡単だったでしょう?」


「ああ、かなりな」


 ガグレイルと呼ばれた男の言葉に首領と呼ばれていた男が頷く。


 たしかに彼の言う通り私は盗賊を探そうとするあまり周りの警戒を怠っていたが、それでも魔素量の多い私なら急に襲われてもすぐに返り討ちに出来る自信があの時の私にはあったのだ。


「恐らく自分の魔素量の多さを過信していたのでしょう。人間の貴族にはそういう事が多いとよく聞きます」


「えっ、今なんて言ったんだガグレイル様?」


 気になる言葉があったようで、首領の男はガグレイルに聞き返した。


「ん? ああ、この子は恐らく貴族の娘ですよ。衣服は平民の物を着ているようですが、手入れの行き届いた髪の毛や肌の具合からしてかなり裕福な生活をしていた事が伺えます」


「おいおいおい、そりゃあまたすげぇのが来ちまったなぁ!」


 そしてガグレイルの言葉に首領の男はあからさまにテンションを上げた。思わぬ情報に舞い上がっているのだ。まさかあの様な山の中を貴族の娘が一人で歩いているとは思ってもいなかったのだろう。


 貴族の人間は普通の平民とは違い、人質にしてその家から身代金を要求する事が出来る。もちろんその家から報復を喰らうという危険性はあるが、平民を奴隷として売るより莫大な金が手に入る可能性があるためそのリスクに目を瞑ってもあまりあるリターンがあるのだ。


 その上、私はただの貴族では無く王族だ。より多くの身代金を要求されるだけではなく、王女の私が攫われた事が各地に知られてしまうと国の警備について疑問を抱かれてしまってより大きな問題になってしまう可能性もあるのだ。


 今更ながら、自分の立場を一切考えないで好き勝手に城外を動き回っていた事を私は後悔し始めた。


 そしてその状況にかなり絶望していた私だったが、同時に私にとって最大の転機となる出来事が起きたのもその時だったのだ。


「貴族の娘なんていくらでも使い道があるぞ! ははっ、喜べお前ら……「しゅ、首領!!! 大変です!!!」


「……チッ、どうした?」


 私達のいる部屋に駆け込んで来た手下の盗賊に自分の言葉を遮られた首領の男は少し顔をしかめながらその手下に用件を聞く。いい気分になっていたのにそれを邪魔されて少し苛立ったのだ。


「そ、それが! このアジトが襲撃を受けているんです!」


「な、なに!? まさかこいつの家族がもうここまで辿り着きやがったって事か!?」


「い、いえ違います! 敵は……《ドーーーーン》


 報告を続けようとした盗賊だったが、大きな音と共に壊れてた壁に押し潰されてしまった。


「はあ、やっぱここにいやがったか」


 そして、壊れた壁からそう話しながら入って来たのは右手に炎を纏った変わった形の剣を持っていて、《《黒色と白色が混在している》》変わった髪色をした少年だった。恐らく歳は私と同じぐらいだろう。


「おい、俺ちゃんと伝えたよな? お前は絶対に逃さないって」


「な、な、なぜこの場所が分かった!」


 そしてその少年を見たガグレイルはあからさまに動揺し始める。


「何でって言われても…………ここら辺を牛耳ってる盗賊団が急に強くなったって話を聞いてな。強くなり始めた時期がちょうどお前が逃げ出した時期と同じだったからもしかしたらと思って来たら……この通りだ。まあ、ついでにこの盗賊団は潰せるし一石二鳥だな」


「ガ、ガグレイル様? こいつは何者なんですかい?」


「ふ、ふざけるな……!」


 首領の男が怯えながらガグレイルに聞くが、ガグレイルにはもうその問いに答えれる程の余裕が無かった。


「わ、私を逃さないだと? ふ、ふざけるな。お前らにどれだけ私の人生が狂わされたと思っている! やりたい事をして、好きなように生きていただけの私の人生を奪ったお前なんかに……これ以上私の人生を狂わされてたまるか! み、みなさん! 一斉にかかりなさい!」


「「「「は、はい!」」」」


 ガグレイルの指示によって周りにいた盗賊達が武器を持って一斉にその少年に襲いかかる。






 そして、そこからどの様な戦闘が行われたのか正直私は詳しく覚えていない。だが何故覚えていないのかは分かる。私はその戦闘に見入っていたのだ。詳しく言うと、私を捕らえていた盗賊団と戦っている同じぐらいの歳の少年の姿に。


 盗賊団と戦っている彼の姿は美しいの一言に尽きた。ただ敵を殺すためだけに強すぎず弱すぎず最適化された炎の出力、時には剣から炎を出すのをやめて剣で直接敵を斬る迅速な判断力、そして複数人を相手にした完璧な位置取り。敵を殺すのに一切の無駄がない完璧な動きだったのだ。


 さらに私の存在にも気付いていたのか私を守る動きも何回か見せていた。あれだけ完璧な一連の流れの中で私を守る余裕さえ見せるその姿に私は完全に見入ってしまったのだ。


「ふぅ、これでお終いかな」


 そして気付いた時にはその場に立っているのはその少年だけで、盗賊団は炎によって燃やされたり彼の剣に斬られたりして全員がその場に倒れていた。


 少年を辺りに意識が残っている敵がいないのを確認すると、足元で大量の血を流しながら倒れているガグレイルに話しかける。


「やりたい事をして好きなように生きてたって…………それで、お前はどれだけの人間を自分の娯楽の為に殺したんだ? そんなもん許されるわけ無いだろ」


 だがガグレイルはすでに死んでいたため返事が返って来る事は当然なかった。


「ふぅ、さて…………君、大丈夫か?」


 返事を求めた訳でも無かったのだろう、少し息を吐いた少年は私の方に駆け寄って来て私を縛っていた拘束具を外しながら聞いて来る。


「ええ、ありがとう……」


「そっか、それならよかった」


 少年は朗らかに微笑んでから続ける。


「それにしても、こんな奴等に捕まるなんて大変だったね」


「…………いいえ、私の勝手な行動のせいだから自業自得よ」


「……そうか。まあ、何か事情があるんだろうけど…………うん、聞かないでおくよ」


 私が落ち込んでいる事に気付いて気を遣ってくれたのか、その少年はそれ以上何も聞いてこなかった。


「……ありがとう」


「ははっ、いえいえ」


「ところで君はどこら辺の子なんだ? 実は俺今から行かなきゃいけない所があるから君を家まで送る事は出来そうに無いんだよね。実はここに来たのも物のついでなんだ」


「……そうなのね」


「ああ、だから知り合いに連絡して迎えに来てもらおうと思ってるけどどうする?」


「……ううん、大丈夫。一人で帰れるわ」


 恐らく彼の提案に従って彼の仲間に来てもらうのが一番安全なのだろうけど、その仲間に送ってもらうと城の人達に私が盗賊団に捕らえられていた事がバレてしまう可能性がある。そうなってしまったら大事になるかもしれないと思った私は彼の提案を断った。


「ええ? ……そうか。う〜ん、かなり心配だけど…………まあ、当の本人である君がそう言うんだったらどうしようも無いか。それに君なんとなく強そうだから周りを警戒しながら森を進めば余程の大事が起きない限り大丈夫そうだしな。あとは…………よし、これで拘束具は取れたな」


 少年がそう言うと拘束具は『ジャラッ』という音を立てながら地面に落ちた。


「それじゃあ、気をつけろよ」


「え、ええ……」


 そして、私の熱を持った視線に気付かないままその少年は颯爽とその場から姿を消した。


 その少年が姿を消してから少し経った後、私はその少年の指示通り周りを警戒しながら森を抜けてデンネラ達が待つ城へと帰った。城に帰った私はまずデンネラにこれでもかというぐらいのお叱りを受けたけど、内容はいつもと同じだったのでそれは適当に返事をしながら流した。


 そしてあの少年の戦う姿を見てから、私は魔法師の強さに対する自分の認識を大きく改めた。魔法師の実力を決めるのは魔素量じゃなく魔法の練度、扱い方、そして状況に応じた判断力なのだとあの戦いを見て気付いたのだ。


 そして考え方を改めた私が翌日に早速向かったのは魔法師ギルドだ。そこのギルドマスターで、国内でも5本の指に入る程の実力者であるヘステ・ソルネに弟子入りさせて欲しいと頼む為である。彼女はその実力もさる事ながら、魔法の使い方が特殊で有名な魔法師だったため魔素量に頼り切っていた私の戦い方を変えるには最適だったのだ。


 しかし彼女は弟子を取りたくなかったらしく最初はすぐに断られたけどそれでもその後必死に食い下がったおかげで、根負けしたヘステ師匠は私の弟子入りを認めてくれた。


 ヘステ師匠に弟子入りを認めてもらった私は彼女の元で必死に魔法の鍛錬に励み、彼女の戦闘術を学ぶ事によって着々と力を付けていった。そして本来であれば魔素量に胡座をかいて中途半端にしか強くなれなかったかもしれない私は、王女でありながら世代最強と言われるまで強くなる事が出来たのだ。


 私が必死に力を付けていたのには二つ理由があった。もちろん一つは強くなっていざという時に国民を守る為である。そしてもう一つは、私を助けてくれたあの少年にもう一度会って、あの時のお礼をすると共に強くなった自分を見て欲しかったからだ。


 もちろん強くなった所で彼に会える保証なんてどこにも無いし、そもそも彼が自分を覚えていてくれてる保証も無い。しかし、彼に憧れを抱いていてしまった私は少しでも彼と会える可能性があるのならそれに備えて強くなっておきたかったのである。




 この一連の話が、私が変わった最大のきっかけとなった出来事である。今でもたまに城を抜け出したりしてるけれど、それでも魔素量の事や戦い方についての私の認識はこの日以来大きく変わる事となった。


 そして今の自分にはかなり満足していて楽しい日々を過ごしているのだけど、それでもやっぱり一つだけ不満はあった。それはあの時の少年との再会どころか、彼の噂すら一切耳にしていない事である。彼程の実力者なら名前が知れ渡っていてもおかしく無いのだけどね。どうやったらまた彼と会うことが出来るのかしら……。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ん……。あれ、ここは……?」


「おや、目を覚ましてしまったか」


 眠りながら少し昔の事を思い出してから目を覚ました私に、緑色の肌で頭に二本の角が生えている魔族の男が話しかけて来た。

 

 自分のいる場所はいつの間にか自分の部屋では無く薄暗い部屋の中に移動していて、さらに腕と脚が拘束具に壁に繋がれていた為身動きを取ることも出来なかった。


「あ、あなたは誰?」


 そして自分の周りの状況をある程度確認した私は目の前いた一切見覚えがない魔族に彼の名前を聞く。


「ふむ、俺の姿にはあまり驚かないか……。大抵の人間は初めて魔族を見た時必ずと言っていい程大きく驚くのだがな。元々その様な事に驚かない人間なのかそれとも以前に魔族の姿を見た事があるのか…………。いや、そこはいいか。分かっても仕方のない事だな。ではお前の問いに答えてやろう。俺の名前はグレイプレ、偉大なる『色欲の魔王』様の配下だった男だ。かなり短い付き合いになるから覚えなくてもいいがな」


「……どういうこと? 私を人質にするつもりなの?」


「ほう、突然この様な状況に置かれていてもまだそれほど頭が回るのか。それに随分と冷静みたいだな。流石は人間共の間で『栄光の世代』と持てはやされているだけの事はあるか」


 グレイプレと名乗った男は私に感心しながら答えた。


 私はヘステ師匠の所に弟子入りしてから、特訓の一環で度々危険な目に遭わされていた。もちろんいざと言う時に私を守れる位置に師匠はいたが、それでも私は何度も窮地を自分で脱して来た経験があるのだ。恐らくその経験が自信にかわったおかげで私はこの状況でもあまり取り乱さずに済んでいるのだろう。


「だが残念ながらそれは大きな間違いだ。俺達にお前を人質にしてお前らの国に何かを要求しようとする気などまったく無い。俺達が欲しいのはお前の中に流れている血だけだ」


「血……?」


「ああ、そうだ。お前の中に流れている血は極めて特殊な物でな、俺達の目的を果たすにはどうしてもその血が必要なんだ。…………ただ一つだけ難点があってな、目的の為にはお前の血に空気中の微生物などを含めた一切の不純物を混入させずに大量に抜き取る必要があるんだ。だからお前をその場で殺すのでは無くこの様な場所に攫って来て専用の装置を使う必要があった」


 目的の事とか気になる要素は多かったけど、私は特に自分の血が特殊だという部分がかなり気になった。私の両親はどちらも普通の王族で、私の中に流れている血も普通の王族の血の筈なのだ。なのになぜ彼はそんな私に特殊な血が流れていると断定しているのだろうか。


「グレイプレ様! 血抜きの準備が整いました!」


 私がグレイプレの言葉について気になって考えていると彼の部下らしき魔族が準備が終わったという報告をしに来た。


 今までグレイプレに集中し過ぎて気付かなかったけどどうやらこの部屋にはグレイプレを合わせて三人の魔族がいて、残りの二人は少し大きめの装置の調整をしていたらしい。


「ふっ、やっとか。先程も言った通りお前の血が大量に必要でな、お前が確実に死ぬ程の量を抜き取るつもりだ。せめてもの情けだ、何か言い残す事はあるか?」


 部下の報告を聞いたグレイプレはニヤリと笑みを浮かべながら私に聞く。


 そして最初は冷静でいられた私も、自分の置かれている状況を完全に理解した今ではあまり冷静ではいられなかった。目が覚めた時の私はせいぜい人質にされる程度でだろうと思っていて、まさか自分に死が訪れそうになっているとは思いもしなかったのだ。


 ……どうしよう、すぐに何か手を打たないと本当に死んでしまう。


「………………」


「まあ、あった所で聞くつもりも無いがな。ふっ、じゃあ血抜きを開始するぞ」


 しかし、そもそも返答を聞く気すら無かったグレイプレは私が何か案を思い浮かべる前に血抜きを始めようとする。


 そしてグレイプレに指示された彼の部下は大きな針の付いたチューブを私に刺そうと伸ばして来た。恐らくこのチューブで私の血を抜く気なのだろう。


(…………くっ、私の人生もここまでか。王女の割にはかなり好き勝手にやらせてもらってたしそこまで未練がある訳じゃないけど…………せめて最期に、私を救ってくれたあの方にもう一度だけ会いたかったわね…………)


「ふっ、これで俺もあの方のお役に……《ゴオォォン》


「「「「!?」」」」


 しかし、チューブの針が私に刺さろうとした瞬間、大きな音と土埃と共に地下室の天井が崩れた。それに驚いたグレイプレと彼の部下を含めた三人は思わず血抜きを中断してそっちの方に注目する。


 そして私もその崩れた天井の方に視線を向けると、そこには一人の人影が横に倒れていたのが見えた。


「っ、ベンゼル!」


 その人影の正体をグレイプレの部下の一人が叫ぶ。恐らく上で見張っていた彼等の仲間なんだろう。


 ……でも、だとしたら誰が天井を崩してこの魔族を倒したの?


「ふぅ、ギリギリ間に合ったかな」


 すると、段々と晴れて行く土埃の向こうで立っている人影から男性の声が聞こえて来る。それは私の知っている声だった。入学式の時の校門で初めて聞き、それから何度も私を王女としてではなく普通に接してくれた大切な友人の声。


「っ、リンドウく……え?」


 しかし、私は彼の名前を言い終える前に呼ぶのをやめてしまった。自分の中で信じられない事が起きたのだ。


(あれ、なんか……リンドウ君の姿があの時の《《あの方》》と重なって見える様な…………)


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