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黙示録のラッパ吹き 〜魔法師世界で魔法が使えない少年〜  作者: 岩月敬一
学年別クラス対抗戦編
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第六十九話 私が変わったきっかけ(前編)

 貧民街の中にある建物の地下でグレイプレ達が血抜きの準備をしている時、彼等に捕らわれたまま深い眠りについていたイリーネは少し昔の事を思い出していた。それは彼女の性格、そして考え方が大きく変わる最大のきっかけとなった出来事についてだ。


 イリーネは今でこそ王女らしい風格と優しさの両方を持ち合わせた女性だと国民から認識されているが、昔はそうでも無かった。むしろその逆でかなりのおてんば娘で、城の使用人……特に彼女の専属執事であったデンネラはかなり手を焼いていた。


 そんなイリーネが今のような王女の風格と優しさの両方を持ち合わせた女性になった最大のきっかけとも言うべき出来事は、彼女がまだ12歳ぐらいの時に起こっていた。




 これは今から4年程前、イリーネが変わる最大のきっかけとなった出来事が起こった日の事である。


「どなたか、イリーネ様が今どこにいらっしゃるか知りませんか!?」


 王城の中にある豪華な廊下、そこにはその頃からイリーネの専属執事として働いていたデンネラが必死に城内を走り回っている姿があった。どうやらかなり慌てている様子だ。


「あれ、どうされたんですかデンネラさん?」


 そんな彼に、比較的若い執事が尋ねる。


「これから礼儀作法の授業の筈なのにイリーネ様の姿がどこにも無いんです!」


「えっ、イリーネ様がいないんですか?」


「ええ、本当にどこに行かれたのか……!」


 そこに、若い執事と一緒に清掃をしていた若いメイドが思い出した様に口を開く。


「イリーネ様が…………あっ、そういえば私さっきイリーネ様を見ましたよ!」


「そ、それは本当ですか!?」


「はい、たしか庭の方を物凄い速さで走しられていた筈です」


「なぬ!? またですか!」


 メイドの最初の言葉によって一瞬明るくなったデンネラの顔は、その後に続く言葉によってすぐに暗くなっていった。今のメイドの説明でイリーネがどこに向かったのか大体検討が付いたのだ。


「あはは、デンネラさん。またイリーネ様に抜け出されちゃいましたね!」


「笑い事ではありませんよマグラさん! もう何回ご勝手に街へ行かれた事か……」


 そんなデンネラに、同じく近い場所で清掃をしていた少し歳を取っているマグラと呼ばれたメイドが笑いながら話しかける。


「……はあ、イリーネ様には困った物ですよ本当」


「まあまあ、王女とはいえまだ12歳ですから。外で遊び回りたいお年頃なんでしょう。それに、イリーネ様がお忍びで街に行かれるのなんていつもの事じゃないですか」


「いつもの事だからこそ困るんですよ……。もしあの方の身に何かあれば大事件になるのですよ? イリーネ様にはもう少しご自身の立場を理解して頂きたい物です……」


「そ、それはたしかに…………」


 イリーネを擁護しようとした若い執事だったが、すぐにデンネラに返されてしまいそれ以上何も言う事が出来なかった。


「はっ、イリーネ様が街へ行かれたのであればこんな所でお話しをしている場合ではありませんでした! すぐに探しにいかないと! では、情報をありがとうございました!」


 そして、軽く礼を言ったデンネラは足早にその場を離れる。そんなデンネラの焦り具合がハッキリと分かる後ろ姿を見ていた三人の使用人達は、「デンネラさん……大変だなあ」と全員が心の中で思っていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 12歳ぐらいの頃、かなり好き放題していた私は王女というイメージからはかけ離れた行動を繰り返していた。城にいた使用人達にちょっかいを掛けて迷惑をかけたり、デンネラの監視の下で庭で遊んでいたらデンネラが少し目を離しただけで何故か体中が凄く汚れていたり、退屈だと思った授業は抜け出したりなどだ。


 そしてその数ある行動の中でも特にデンネラを困らせていたのが勝手に城を抜け出してお忍びで街中へ出向いていたことだ。


 城の中や外に出てもずっと誰かが側にいるという生活を窮屈に感じていた私は、少しでも隙があればその度に城から抜け出していた。


 ただの子供にそんな事が何度も出来るのかと聞きたい人もいるだろうけど、その頃から風魔法の扱いに長けていて同世代でも抜きん出ていた私は、お付きであるデンネラさえ撒いてしまえば魔法を駆使して簡単に城を抜け出せたのだ。


 そして城を抜け出した私がいつも外でやっていたのが……


「さあ、今日も悪党共を退治しに行くわよ!」


 盗賊や犯罪組織などの、国民を脅やかす存在を退治する事だ。当時の私は絵本などで読んでいた正義の味方という存在に憧れていて、その真似をする事にハマっていた。まあ、いわゆる無駄に正義感の強い子供だったのだ。


「あっ、でも盗賊がどこにいるのか知る為にまずは魔法士ギルドに忍び込まないとね!」


 しかし盗賊を退治しようにも、ほとんどの時間を城の中で過ごす私には盗賊の情報は一切入って来なかった。その為、退治するべき盗賊の情報を得る為にいつも魔法士ギルドに忍び込んでは掲示板に貼ってある依頼書を盗み見ていたのだ。


 ただ、もちろん城を抜け出した時の格好のままだと自分が王女だとバレてしまう為、いつも城から持参していた鞄に着ている服を閉まって、普通の服装に着替えてから忍び込んでいた。


「う〜ん、今日はこれにしようかしら」


 いつもの様に普通の女の子の格好に着替え終わった私は掲示板に貼られていた数ある依頼書の中から盗賊討伐の依頼を探す。そして良さそうな依頼を見つけた私は、その依頼書に載っている盗賊の居場所や規模を確認してから盗賊退治に向かった。


 本来であれば魔法士ギルドに登録して、依頼書を受付に持って行ってから依頼の受注が確認されるんだけど、王女である私はそもそも魔法士ギルドに登録が出来なかった為こうやって盗み見ていたのだ。


 私が勝手に依頼書の盗賊を討伐していた事は、盗賊が勝手にいなくなって討伐の報酬を払わずに済むギルドにとっても無駄に危険な依頼で命を掛けずに済んだ冒険者達にとっても助かっていたので、些細な問題が起こる事はあったが特に大きな問題に発展することは無かった。


 誰も王女である私が討伐していたなんて思ってもいなかったのだ。


「……よし、依頼書に書いてあった盗賊達の襲撃が多い場所はたぶんこの辺ね!」


 そして依頼書の内容を覚え、そこに書かれていた場所である森道に辿り着いた私は早速その辺りの見回りを始める。依頼書によるとこの辺りを牛耳っている盗賊がいるらしく、そこを通る通行人がよくその盗賊達に襲われているらしかったのだ。


 私はそれまで何度もギルドの依頼書を盗み見ては勝手に討伐する事を繰り返して来ていたので、その日もいつも通り魔法で盗賊達を簡単に退治出来ると思っていた。自分の魔法に圧倒的な自信を持っていた私は盗賊という存在をそれ程軽く見ていたのだ。


「さあて、今回の盗賊達どこにいるのかしらね〜」


 そう言いながら私は周りを見渡したが、盗賊の姿どころか動物の気配すら感じられなかった。


「まあ、そんなすぐ現れるわけが無いわよね。う〜ん……まっ、地道に探すしか無いか」


 その事に私は少し落胆したが、すぐに持ち直そうとする。せっかく監視抜きで城の外に来ているのに、楽しまなきゃ損だと思ったのだ。


「え〜と、まずはどこを……えっ?」


 しかし、気を取り直してどこから盗賊を探そうかと決めていた瞬間私は背後に気配を感じた。そしてその気配の正体を知ろうと振り向いたがその時、私の意識はすぐに遠のいてしまった。

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