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黙示録のラッパ吹き 〜魔法師世界で魔法が使えない少年〜  作者: 岩月敬一
学年別クラス対抗戦編
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第六十八話 あまり無茶はしないでください

「っ、何かあったんですか?」


 突然掛かって来た通信の相手であるダグラス様に私はそう聞く。予定には無かったタイミングでの通信な上に一言目で分かるほど焦っているダグラス様の様子から、何か問題でも起こったのかと私は思った。


『時間も無いから単刀直入に言うぞ! 国に侵入して来た魔族の正体が判明した! 名前はグレイプレ、戦争の時に『色欲の魔王』の配下だった奴だ!』


「なっ、そ、それはたしかな情報なんですか!?」


 ダグラス様の言葉に衝撃を受けた私は思わず座っていた椅子から飛び上がる。


『ああ、俺も直接知った訳じゃ無いが確実だと思っていい!』


 ダグラス様の言葉に私は自分の耳を疑ってしまった。


 かなりの数がいる魔族達の中でもよりにもよって『色欲の魔王』の関係者だったなんて……! なんて事だ、私は考えうる限り最悪の人物を奪還メンバーに選んでしまったのか!


 ………………いや、今は一旦落ち着きましょう。後悔なんてしている場合ではありません。それは後々に取っておいて、今はこれからどうするべきなのかを考えた方がいい。


『そこでレグリア、お前にはもしもの事があった時のためにメリアと一緒にその魔族共のアジトに向かって欲しい!』


「……なるほど、私の『固有魔術』でメリア様をお連れすればいいんですね」


『ああ、そうだ! もし最悪の状況になったらメリアの『固有魔術』を使わなきゃいけなくなるがあいつは移動手段を特に持ってない! そこで俺達の中で一番移動速度が速いお前の『固有魔術』を使ってメリアを運んで欲しいんだ!』


「はい、分かりました」


『メリアには俺から連絡を入れとく。あいつもこの国に魔族が侵入して来た事は知ってるからな、普段ならまだしもこのタイミングでの俺からの通信には出るだろ!』


 そういえば魔族がこの国に侵入したのはメリア様からの情報だとダグラス様は仰っていましたね。


『お前は解説席の方に向かってそこでメリアを拾ってくれ! あいつにもそこでお前と合流するように伝えとく!』


「はい」


『それじゃあ頼んだぞ! 俺もやれる事はやっとく!』


 最後にダグラス様がそう言ってから通信は切れた。


 ダグラス様との通信中、実は私の頭の中では一瞬ある案がよぎった。それはスミラ君の持っている通信用魔道具に通信してあの方を呼び戻すという事だ。しかし、その案はすぐに自分の中で却下した。


 通信を掛けても向こうが戦闘中で出れない可能性があるし、そもそも通信に出た所でどの様な理由を付け加えても「退いてください」と言ってしまえば変に怪しまれてしまう可能性がある。


 その為この状況ではダグラス様の仰った指示が一番なのだ。


 ……いや、今はこんな事を考えている場合ではありませんでしたね。


 小型の通信用魔導具を耳から離した私は部屋にいたスミラとフラス君の二人に話しかける。


「少しマズイ方向に状況が変わりました、今から私も敵のアジトに向かいます。場所は把握していますので道案内は結構です」


「分かりました」


「……何が起こったの?」


 きっと今の通信相手がダグラス様だと気付いたんでしょう。フラス君の返事の後に、いつの間にか隣に立っていたスミラが真剣な顔で私に聞いて来る。


「…………イリーネ君を攫った魔族の正体が判明しました。彼女を攫ったのはかつて『色欲の魔王』の配下として戦争に参加していた男です」


「え!?」


「あの方を向かわせたのは最悪手だったという事になりますね。そこで、今から一番速い移動手段を持っている私がメリア様を連れて敵のアジトに向かいます」


「でも、それって…………」


「ええ、あの方に何事も無ければそれで大丈夫ですが、もしもの場合は《《あの時と同じ事》》をしなければならなくなります」


「っ……!」


 私の言葉を聞いたスミラは少しショックを受けた表情を見せる。


 ……普段の彼女は明るく場の雰囲気を盛り上げてくれる様な女性ですが、それと同時に彼女は人一倍優しく自分を責めやすい人間だ。きっと今でも魔族の侵入を許してしまった事で自分を責めているし、そのせいで《《あの方とメリア様》》がまた悲しい想いをするのかもしれないと思っているのでしょう。


「……わ、分かったわ。それじゃあ学園の守りは任せて。私の全身全霊を持ってここに侵入者は入らせないわ。もちろん常時発動型じゃ無くて本来の結界を使ってね」


 少しして顔を戻したスミラは私の目を見ながらそう告げた。


 魔族達が学園に侵入して来た時、学園に張ってあったのは言わば常時発動型の結界。彼女が結界に意識を割いていなくても常時発動される反面、彼女が使える他の結界より感知能力や頑丈さが落ちてしまうデメリットがある。つまり、他の結界なら防げていたであろう敵も常時発動型だと侵入を許してしまう事もあるのだ。


 彼女は、今からそんな常時発動型では無く本来の結界を使って学園を守ると言っているのだ。


 彼女の結界は常時発動型も含めて本当に素晴らしい物だと思う。本来であれば私もそれを快諾していただろう。


「それは…………」


 しかし、一つだけ問題があった。それは彼女が「全身全霊を持って」と言った事だ。


 《《全身全霊》》という言葉から察するに、恐らく彼女は一番感知能力が高くて誰にも破られない頑丈さを誇る、彼女の中での最高峰の結界を使うつもりなのかもしれない。


 その機能だけを見れば私は迷わず彼女に頼んでいたでしょう。しかし、問題なのは彼女の出す結界の機能の高さは彼女の体力の消費に比例しているという点だ。


 そして彼女が出そうとしている最高峰の結界は特に体力の消費が激しく、10分程しか使っていなかったのに一ヶ月程ベッドで寝込んでしまった事もあったぐらいだ。


 そして先程も言った様に彼女は人一倍優しく、同時に人一倍自分を責めやすい人間である。きっと魔族の侵入を許してしまった事に罪悪感を抱いている彼女は自分の身を削る事に一切躊躇わないだろう。


 しかし、そんな無茶はさせられない。


「……はい、お願いします」

 

「ええ、まかせ…「ただ!」


 返事をしようとしたスミラを遮って私は続ける。


「あまり無茶はしないでください。学園の守りの要である貴女が倒れたらそれこそ大惨事ですから。それに忘れないで下さい、この学園には貴女の師匠であるメイゲル様もいらっしゃるのですよ。だからあまり気負う必要はありません」


「っ、…………ええ、分かったわ。忠告ありかどう、レグリア君」


 自分のやろうとした事が見抜かれてスミラは一瞬戸惑ったが、そのあと先ほどよりも少し和らいだ表情を私に向けてくれた。


 その表情が出来るなら大丈夫でしょう。


「いえ、では行ってきます」


 二人にそう告げて、私はメリア様と合流する為に解説席に向かった。


 

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