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黙示録のラッパ吹き 〜魔法師世界で魔法が使えない少年〜  作者: 岩月敬一
学年別クラス対抗戦編
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第六十七話 『色欲の魔王』の配下だった男だ!


 我が主は『魔王』という言葉が非常に似合うお方だった。戦争では敵である人間を大量に殺し、部下である我々に対しても決して笑顔など見せない冷徹なお方だった。


 人間共や他の魔王の配下達はその事に恐怖を覚えるのかもしれない。しかし、俺はその姿に心の底から憧れた。あれこそが魔族の真にあるべき姿なのだと、あれこそが魔族の頂点に立つのにふさわしい方なのだと。


 あの方は普段から最高幹部である四天王の方々としかお話しにならないため直接面と向かって話した事は数える程度しか無かったが、それでもあの方の偉大さを感じるには十分だった。初めてお会いした時から一生付いていこうと決心した程だ。


 しかしある日、人間との戦争中にあの方は死んでしまった。人間共の間で英雄、もしくは生きる伝説と持てはやされている『黙示録のラッパ吹き』という集団に殺されたのだ。そいつらの姿は俺も戦場で見た事があった。まさに人間にとっての英雄、我々魔族の頂点である魔王にも遜色がない程の強さだったと認識している。


 だが、だからと言ってあの方の死は簡単に受け入れられる物では無かった。あの方が、魔族の理想を体現しているとも言うべきあの方がそんな簡単に死んでしまうとは到底思えなかったのだ。それこそあの方が死んだという報告をしに来た部下を半殺しにしてしまった程だ。


 だが、その部下の報告は変えようが無い事実だった。


 あの方の死後、軍のトップである四天王の方々もどこかへと消えてしまった我々の軍は統率が取れなくなり事実上壊滅してしまった。そして憧れの存在を失い、自分の所属していた軍も無くなってしまった俺は何も考えられなくなる程の凄まじい喪失感に襲われた。


 そして俺はそんな喪失感を紛らわす為か、もしくはあの方が死んでしまった事実を受け入れたくない為か、持ち前の頭の良さを生かしてなんとかあの方を蘇生出来ないものかと研究を始めた。もちろん魔王の蘇生なんて現実的では無く、この研究は実を結ばない可能性が非常に高い事など分かりきっていた。だが、あの方への憧れが人一倍強かった俺はそれをやらずにはいられなかったのだ。


 しかし、いくら時間を割いても俺の研究は一行に進む気配が無かった。元々気を紛らわす為に進めていた無茶な研究だ、当然の結果とも言えるだろう。


 しかしそんなある日、自分の研究に一切の進展が見えず再び喪失感に襲われていた俺に突然来訪者が現れた。


 その来訪者は見た事の無い者だった。かなり中性的な顔立ちをしており、声質からもどちらなのか判別が付かなかった。そして肌の色や身体の様々な特徴は魔族では無く人間の物だったのだが、人間と言われるとそれも少し違う気がした。どう言い表せばいいのか分からないが、今まで見た事の無いような雰囲気を纏っていたのだ。


 そして俺の前に現れたそいつはこう言って来た。


「ずいぶん面白い研究をされている様ですね。まさか魔王の蘇生を行おうとは。ですがどうやら滞っているみたいですね。……ふむ、ではその研究に私も協力させて頂けますでしょうか。もちろん見返りなどは求めませんよ、私はただ貴方の研究がどうなるかを見たいだけですから。ああ、もちろんすぐに信用など出来ないでしょうからまだ返事はして頂かなくて大丈夫ですよ。次に私が来た時に貴方に必要そうな資料を何個かお持ちしますので、それをご覧になってから判断してください」


 その言葉に俺はかなり半信半疑だった。いや、というよりも怪しさしか無かった。ただでさえ突然訪ねて来た上にその正体が一切謎で、さらに俺の研究に協力すると言って来たのだ。怪しむに決まっている。


 だがどれだけ怪しいと分かっていても、一切研究が進んでいなかった俺にとってその提案は砂漠にあるオアシスの様な物だった。そして少しでも研究が進む可能性があるかもしれないという誘惑に負けてしまった俺は、すぐにその提案に乗ってしまったのだ。


 その時、すぐに提案に乗った俺を来訪者がかなり驚いた表情で見ていたのを覚えている。


 初めの頃はその提案に乗ってしまった事を後悔していた。いくら研究を進める為とはいえあんな怪しい者の提案に乗ってしまってもよかったのかと、あまりにも安直過ぎたのでは無いかと。


 しかし、結論から言ってその提案に乗ったのは正しかった。


 その日からそいつは度々俺の前に現れて、その度に研究に役立つ様々な情報や資料を俺に教えてくれた。そしてその情報を元に進めて行った俺の研究は、それまで一切進展が無かったのがまるで嘘かのように順調に進んで行ったのだ。


 そいつの目的や正体が何なのかは何回聞いても教えてくれなかっため結局分からずじまいだったが、研究が順調に進んでいた俺はその事を気にも止めなくなった。そんな事よりもうすぐあの方に会えるのかもしれないという事実の方が俺にとっては数百倍も大事だったのだ。


 そう、俺が心の底から憧れた存在である『色欲の魔王』様に。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「おう、悪いな待たせて。ちょっと席を外してたからよ、それでどうした?」


『ああ、この前テメェに頼まれた事で分かった事があるからそれを伝えようと思ってな』


 王城の中にある執務室でダグラスは椅子に座りながら、大きめの通信用魔道具を使って映像に映っている男性と会話をしていた。


 ダグラスが使っている魔道具はヘステが使っていた物とは違い、サイズが大きくて持ち運びが出来ない分通信相手の映像が映るようになっている代物だ。


「おっ、調べててくれたのか! ありがとな、ホント助かるぜ!」


『別に礼なんていらねぇよ。俺も気になってた事だしなァ』


 テンションの上がったダグラスに男は少し鬱陶しそうにしながら返す。彼はダグラスがメリアからこのリークレッド王国に魔族が侵入したという報告が伝えられた後、ダグラスによってその侵入して来た魔族の正体や目的などを調べて欲しいと依頼されていた人物なのだ。


 いや、人物と言うのは正しく無いのかもしれない。身体の構造は普通の人間とほとんど大差が無かったが、彼には普通の人間とはまったく異なっている点が2つあった。それは普通の人間には絶対に無いであろう濃赤色の肌と、頭からまっすぐ上に生えている二本の角だ。そう、グレイプレ達と似たようなこの特徴から分かる通り、彼は人間では無く魔族なのだ。


「いや、それでもありがたいよ。ただ、もうちょっと早い方が助かってたかもなぁ」


『それはどういう意味だ?』


 ダグラスの言葉に通信相手の魔族は少し怒気を孕んだ声で聞き返す。


「実はな、うちの王女様がそいつらに攫われちまったんだ。だからその王女を取り戻す為にレグリア達が奪還組を編成して敵のアジトに向かってる最中なんだよ」


『っ、なっ!? おい、そいつらはもうアジトに着いちまったのか!?』


 画面の向こうで急に机を叩きながら身を乗り出して大きな声を上げた通信相手にダグラスは少し戸惑ってしまう。彼が急に大きな声を出す事には慣れていたが、その大声の出し方や様子がいつもと違っていたのだ。


「い、いや。さっきレグリアから奪還メンバーが敵のアジトに向かったって連絡が入って来たばかりだからまだ着いて無いと思うぞ」


『そん中にテメェらの団長は入ってんのか!?』


「奪還メンバーの詳細は知らねえけど、レグリアの事だから団長の事もメンバーに入れてるんじゃねえか?」


 何故急にそんな質問をして来るのかと思いながらダグラスは答える。


『クソがっ、ヤベェぞ!』


「おい、どうした?」


 ダグラスの返答に通信相手は再び大声を出しながら机を叩いた。それも一回目よりかなり大きめの声で。

 そして、そんな様子の通信相手にダグラスは徐々に不安を感じ始めた。今まで彼がこんなに焦っている姿は見た事が無かったからだ。


『俺の部下に一通り調べさせたらよォ、テメェらの国に侵入した魔族共のリーダーの正体が分かりやがったんだ! 侵入した魔族の名前はグレイプレ、戦争の時にテメェらが殺した『色欲の魔王』の配下だった男だ!』


「!!!」


『急いでテメェらの団長を呼び戻すなりなんなりしやがれ! 『色欲』の関係者にあいつを接触させるのはマズイんだろ!』


 通信相手から『色欲の魔王』の名前が出た瞬間、ダグラスは自分の血の気が引いていくのを感じた。まさかここでその名前を聞くとは思っていなかったのだ。


「悪い、切るぞ!」


『ああ!』


 だが、何もしない訳には絶対にいかない。一瞬で立て直したダグラスはすぐに通信を切って急いで別の所に掛け始める。


 その様子は先程とは違ってかなり焦りに満ち溢れていた。


(くそっ、何でよりにもよってそうなるんだ! 『色欲』の配下って、そんなの一番可能性低かっただろ!)


『もしもし、どうされましたか?』


「っ、レグリア! 今から俺が言う通りに動いてくれ! じゃないと取り返しの付かねえ事になる!」


 そうして、ダグラスはレグリアに敵の正体を教えると共にこれからどう動いて欲しいのか指示も出した。

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