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黙示録のラッパ吹き 〜魔法師世界で魔法が使えない少年〜  作者: 岩月敬一
学年別クラス対抗戦編
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第六十五話 リンドウ・ナツ選手の代役を立ててください

 ナツとオーズスタンがレグリアに説明を受けていた頃、イリーネを連れ去ったグレイプレ達は貧民街の中のとある建物の地下に着いていた。


「ふう、やっと着きましたね」


「そうだなラタル。慎重に動かなきゃいけなかったとはいえ、まさかここまで掛かるとは思わなかった」


 グレイプレの部下であるラタルとデリコルはアジトに着くと自分達が使っていた『固有魔術』を解いてから喋り始めた。


 グレイプレを含めたこの三人はデリコルとラタルの『固有魔術』を駆使して、自分たちの姿を隠しながらイリーネを自分達のアジトに運んで来た。しかし二人の『固有魔術』はそれぞれ音と姿しか隠せず気配や臭いが一切隠せない為、彼らはどうしても慎重に動かざるを得なかった。そのためアジトに戻って来るのに時間を取ってしまったのだ。


「やっぱこんなまどろっこしい事はしないで、雑魚共を蹴散らしまくりながら真正面から攫っちゃえばよかったんじゃねえっすか?」


 頭を掻きながら話すベンゼルをグレイプレは鋭い視線で睨む。


「何度も言わせるなベンゼル。あの学園には『黙示録のラッパ吹き』の弟子がいるんだぞ、我々では返り討ちに会うのが関の山だ。お前達も無駄口を叩く前に早く血抜きの準備をしろ!」


「「「っ、はっ!」」」


 グレイプレの怒号に部下である三人は勢いよく返事をして、彼等がイリーネを攫った目的である血抜きの準備に取り掛かる。


(まったく、こいつらの人間への過度な侮りは何とかならないのか……! 俺達が必要な血の量や質の事を考えると、この娘の血をすべて抜かなければならない上にその血に不純物が入らないよう慎重に作業を行わなければならない。そのためここからはさらに時間が掛かると言っておいた筈だろう……!)


 グレイプレは自分の部下達が人間を侮っている事がこの場面でも影響している事に嘆く。自分の声によって三人とも一見真面目に準備に取り掛かかり始めた様に見えるが、たとえ人間が攻め込んで来たとしても返り討ちに出来ると思い込んでいるからかどこか余裕そうにも見えた。


「準備を急げ! いつ敵の追手が来るか分からない! ここからは時間との勝負になるぞ!」


 そんな彼等に、グレイプレは肩に担いでいたイリーネを拘束具で縛ってからもう一度怒号を飛ばす。


(たしか学園には『黙示録のラッパ吹き』もいた筈だ。そいつ等が追手として来る可能性も大いにあり得る。……やはり急いで準備をせねば!)


 そう思ったグレイプレの顔には少し焦りの様な物が浮かんでいた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 場面は変わってFクラスの控え室。同じく夏とオーズスタンがレグリアの説明を受けていた頃、ソウ達は今まさに始まろうとしているSクラス対Eクラスの試合の様子を映像越しに見ていた。


「やはりナツ氏が学園長先生に呼び出されたのはイリーネ様が関係しているのであるかな?」


 試合に出る選手達が入場している様子を見ながらメクルが思い出した様に聞く。


「う〜ん、どうなんだろうね。タイミングとしては関係あってもおかしく無いとは思うけど、そもそも私達が違和感を感じたってだけで本当に縁談が来てる可能性もあるし……」


「ライアの言う通りだな。それにもし本当にイリーネ様に問題が起きてたとしても、そんな大事にナツの奴が呼ばれる理由が分からないしな」


 メクルの質問にライアとソウが答える。そして、そんな彼等の言う通り彼等がデリヤの説明に勝手に違和感を感じでしまっただけで、その説明が嘘だと決まった訳では無い。


 それに、もしあの説明が嘘だったとしてもそれで夏が学園長に呼び出される理由が見当たらない。そのため夏が呼び出されたのはイリーネが関係していると考えるのは少し無理があると二人は考えたのだ。


「うむ、たしかにそうなのであるな」


 メクルはかなりスッキリした表情を見せながらすぐに二人の意見に納得した。


「でも、だとしたら何でリンドウ君は呼び出されたんだろう?」


「う〜ん、たしかに何でだろうね」


『これでSクラスとEクラスすべての選手の入場が終わりました!』


 メクルが納得した所でクララが新しい疑問を口に出した。しかしデリヤによって選手入場が終わったと知らせる放送がされて、クララと彼女の問いに返事をしたライアを含めた全員が画面の方に集中しはじめた為、その話は自然に中断された。


「おっ、もうそろそろ始まるみたいだな。イリーネがいないって事はEクラスにとって大分嬉しい事だろうけど……ドリアドはどっちが勝つと思う?」


「おや、俺に聞くとは珍しいなソウよ」


 ドリアドは頭が悪い。その事を少し自覚しているドリアドはソウが自分に質問して来た事に少し驚いた。


「他の事ならまだしも戦いについてならお前に聞いた方がいいだろ」


「そうか、それなら俺の考えを言わせてもらおう。俺の考えではこの試合はな…………」












『試合終了! なんとSクラス、またもや一瞬で敵チームを全滅させたー!』


「うむ、こうなる」


 驚きで声が出せずにいるソウ達の側でドリアドは腕を組んだまま平然と喋る。


 今のSクラス対Eクラスの試合は、試合前にドリアドが言っていた通り一瞬で決着が着いた。一回戦の時と同じ様にSクラスが魔法を一発撃っただけで試合が終わったのだ。


 ただ、一ヶ所だけ一回戦の時と違う点がある。それは一回戦では選手全員が魔法を撃っていたのに対して今回魔法を撃ったのは、『栄光の世代』のフィンラル・アークンハイドとシリス・レティシア、そしてドリアド達と決闘を繰り広げていたマイエル・クラシコの三人だけだという点だ。

  

「ははっ、三人で全滅させちまうのかよ……」


「ねえ、私達次の試合であれと戦うの?」


「勝てる想像が一切出てこないのであるよ」


 そのあまりの内容にネイル、ライア、メクルが言葉を漏らす。準決勝でBクラスとの試合に勝った事でかなり自信が付いていた彼等だが、今の試合はその自信を遥かに凌駕するほどの衝撃だったのだ。


「だ、大丈夫だよみんな! 次の試合はリンドウ君も出てくれるだろうし、きっと勝てるよ!」


 そんな彼等を励まそうとクララは必死に声をかける。


 だが、たしかにクララの言う通りではある。夏は一回戦の時Cクラスを相手に刀を一振りしただけで勝ってみせた。つまりSクラスが三人でやった事を夏はたった一人でやってみせたのだ。その事から夏が試合に出れば勝てる可能性は十分にあるという事が分かる。


 それに先程の試合で、Fクラスは夏以外も十分強いという事が証明出来た。つまり、試合に出ない理由が無くなった夏は次の試合には出るという事になるのだ。その事に気付いたメクル達の顔は段々と明るくなっていった。


「一年Fクラスの皆さん、失礼します」


 そんなメクル達のいる控え室に男性教員が入って来る。オーズスタンと同じ様に今は大会運営委員を担っている教員だ。


「どうされました先生?」


 控え室に入って来た男性教員の一番近くにいたクララが彼の対応をした。そしてクララに対応されたその男性教員は彼女の方を見ながら驚くべき事を口にする。


「はい、一年Fクラスの皆さんに一つ連絡があります。リンドウ・ナツ選手は学園長先生に大切な用事を頼まれてしまった為、次の試合に出る事が出来なくなりました。そのため次の試合にはリンドウ・ナツ選手の代役を立ててから臨んで下さい」


「「「「………………ええ?」」」」


 こうして、明るくなりかけてたメクル達の顔はまたもや暗くなってしまった。


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