第五十七話 ……聖魔法か
「っ、ライオット氏!」
「え?」
意識外からの攻撃に気付いたメクルは咄嗟にライオットの名前を呼ぶが、ライオットが避けるには少し遅過ぎた。
「うわあああああ!」
メクルに名前を呼ばれた直後、ライオットは自分に迫っている攻撃に気付けないまま無数の風の刃に切り刻まれた。
その刃に切り刻まれながら大きな悲鳴を上げたライオットは痛みのあまりその場に倒れ込む。意識はまだあり、幸い結界の外に転移させられる程の重傷では無いようだが同時に戦闘を続けられる様子では無かった。
「今のは……まさか!」
その攻撃に一瞬戸惑いの表情を見せた後、その正体に気付いたギダスは明るい表情を浮かべながら風の刃が飛んで来た方向を見る。
ギダスの視線の先、メクル達から見て右側の家の屋根の上には一人の男子生徒と女子生徒が立っていた。
「お前ら!…「集中しろギダス! 嬉しいのは分かるが今は畳み掛ける事を最優先にしろ! この機に一気に行くぞ!」
駆け付けて来た仲間にギダスは話しかけようとしたが、側にいたルークがそれを止めた。
「あ、ああ! "雷道砲"!」
「っ、" 水流の盾"!」
ルークの言葉によって気を引き締めたギダスは、ルークに言われた通り畳み掛けるためにすぐに雷魔法をメクル目掛けて撃つ。
メクルは、決闘でSクラスを含めた三人と互角に戦えたりルークの土壁を簡単に壊せる自分達よりも強い存在。そんなメクルを、彼が動揺しているであろうこの場面で倒しておかないと自分達が負けるとすぐに理解したのだ。
メクルはそんなギダスの攻撃を水魔法で防いだ後すぐにまた敵の方に目線を向ける。
「「"土岩石"!」」
「くっ、"炎雷の盾" !」
目線を向けた瞬間ルークと駆け付けて来た女子生徒の方から少し大きめの岩が飛んで来たが、メクルはこの二つを炎魔法に雷魔法を纏わせた魔法で壁を作って防いだ。
(くそっ、気付くのが遅れた。転移される程の傷じゃないみたいだけど多分あのままじゃライオット氏はまともに戦えない。どうしよう、まさかこっちに二人も増援が来るなんて。僕一人で4人も相手するのは流石に無理だし……。一旦引いてソウ氏達に合流するべきかな? いや、でもライオット氏を置いて行く訳には行かないし……くぅ、一体どうすれば)
敵の攻撃を必死に防いでいるメクルは、同時に次にどんな行動を取ればいいのか頭の中で必死に考えていた。
本来の実力差を考えれば、メクル一人でもこの四人相手に勝つ事は出来る。
しかし、中等部を田舎の学校で育ったり大会に出た事が無かったりしたせいで自分の異常性に気付く機会がほとんど無いままFクラスに入ったメクルは自分に自信が無かった。その為、戦って勝てるという発想が出て来なかったのだ。
さらに友達思いであるメクルは、例えこのような安全が保障されている戦闘であっても友達を見捨てるという選択が出来なかった為、引く事も出来ずにいる。
つまり、メクルからすればこの状況は成す術がない程追い込まれているのだ。
「メクル君!」
しかし、そんなメクルに救いの手が現れる。
「っ、クララ氏!」
メクルが声のした方を振り向くとそこにはソウと一緒に行動していた筈のクララの姿があった。
クララ・サールド、彼女はドリアドやメクルの様に本来であれば上のクラスになる筈だった人材でも、夏の様に特殊な人間でも無く、戦闘面に置いてライオットやネイル達と同様に入るべくしてFクラスに入った魔法師だ。
だが、そんなクララの姿を確認したメクルは心の底から安心した様な表情を見せた。
クララは必死に走りながらライオットの方に駆け寄る。
「メクル君、時間を稼いで!」
「うむ、もちろんなのであるよ! 流石はソウ氏であるな、この状況も《《聞こえていた》》訳であるか!」
クララと軽く言葉を交わした後、彼女の合流によって息を吹き返したメクルは頭の中のすべての選択肢を消して時間稼ぎをする事だけに集中し始めた。
「"炎雷獄火砲"!」
メクルはまず、戦う上で一番厄介だと判断した土壁を作り出すルークに狙いを定めて魔法を撃つ。
「"断崖土壁"!」
それに反応してルークは何度目かの土壁を作り出す。しかし、今まで壊されて来た物とは違って大きさと分厚さがかなり強化されていた。
「よし!」
そしてその強化のおかげか、すぐに壊されたとはいえその壁はメクルの魔法の軌道をルークから僅かにズラした。
「なっ!」
しかしその事に安心した直後、ルークの真上から壊された土壁の瓦礫が大量に落ちて来る。メクルの魔法を防ぐ為に土壁をいつもより大きくした代償として、壊された時の瓦礫の数も多くなってしまったのだ。
「ぐわぁーーーーーーー!」
安心した直後に来てしまった危機に対応出来ず、そのまま瓦礫の下敷きになってルークは結界の能力によって外に転移させられた。
「ルーク! くそっ、"雷道砲"!」
「"土岩石"!」
ギダスは重傷を負い転移してしまったルークの方を見て一瞬顔をしかめたが、すぐに切り替えてメクルに魔法を撃つ。
そして、質量で攻めた方がいいと判断した女子生徒もそれに続いて得意の土魔法を撃った。
「"水風霹流の盾"!」
そんな迫り来る二つの魔法をメクルは、水の壁に雷魔法を纏わせてさらにその外を風魔法で覆った、見た事も無いような魔法で防いで見せた。
「"炎雷獄火砲"!」
「えっ、きゃぁぁーーーーー!」
そして間髪入れずに魔法を女子生徒に向かって撃つ。それを喰らった女子生徒は威力のあまり一発で結界の外に転移させられた。
「どういう事だ!? 悪くなってたあいつの動きが急によくなったぞ!?」
ギダスがメクルの突然の変化に大きな声で言葉を漏らす。
メクルの動きが急に良くなったのには二つの理由がある。一つ目は自分のするべき事が一つに定まったから、そしてもう一つはその目的さえ果たしていればライオットの無事は補償されるからである。
メクルはあまり頭が良く無い。さっきは、その頭で慣れない考え事をしていたせいでそっちの方に意識を取られ過ぎていた上に、大切な友達であるライオットの事も気になってしまっていた事も相まって、戦闘の方にあまり集中出来ていなかったのだ。
しかし、クララが駆けつけてくれた事によってメクルは時間を稼げば上手く行くという単純な思考に入る事が出来た。
その為、余計な事に割いていたメクルの意識はすべて戦闘に向けられてメクル本来の実力で戦えているのだ。
ただ、実力差があったので時間稼ぎのはずが普通に倒してしまってはいるが。
「くそっ、Fクラスごときが調子に乗るなよ!」
圧倒的に下に見ていたFクラスに同じぐらいの実力だったはずのクラスメイトが二人も目の前で倒されて自尊心の様な物が傷付けられたのか、駆け付けていた男子生徒は焦り気味で魔法を撃とうとする。
「いや、待て! この流れで攻撃すんのはマズイ!」
今の一連の流れで味方が二人も倒されている。その流れの中で攻撃に入ったらやられる可能性があると思ったギダスは止めに入るが、その男子生徒はギダスの言葉に耳を傾けなかった。
「"風斬乱げ……「"風流昇"!」
「ぐぅぅ!」
「っ!」
だが、ギダスの言葉を無視しながら撃とうとしたその魔法は、撃たれる前に彼の腕に突然吹いてきた突風によって阻まれてしまった。
「なんだ今の!?」
ギダスと違って突然吹いたその風が何なのか理解出来なかった男子生徒は思わず声を上げる。
「"風霹螺旋"!」
「っ、しまった!」
そして、それによって出来た大きな隙を狙ってメクルは風魔法に雷魔法を纏わせた魔法を彼に撃つ。
隙を狙われてその魔法に上手く反応出来なかった男子生徒はその魔法を喰らって重傷を負い、そのまま結界の効果によって転移させられた。
「……………………」
そして途中から参戦した二人の増援も含めた仲間四人を倒されたギダスは攻撃に移る訳でも逃げる訳でも無く、ただただある一箇所見つめていた。
ギダスの視線の先、そこには二人の人物が立っていた。まず一人目は先程駆けつけて来たクララ。
そしてもう一人は、Fクラスでありながら格上のBクラスである自分達を三人も足止めし続けていた本来立っているはずが無い人物、ライオット・ヤムルだ。
(どういう事だ。たしかに結界の能力で転移させられる程の怪我じゃなかったのかもしれない。だが立つ、ましてや魔法を撃てる程の軽傷でも無かった筈だぞ。それこそあと少しでも傷を受ければ転移させられる程にだ。なのに何であいつはまともに立ってられるんだ。
あとあの女子は一体なにをした。あいつが来てからメクルの動きが急に良くなったが何でだ? ……そういえば今思い返してみるとあの時のメクル、まるで心配事が無くなったみたいな顔だったな。あの風魔法使いが助かった訳でも無いのに、なんであいつが来ただけでそんな顔になるんだ………………っ、まさか)
「…………聖魔法か」
そう呟いたギダスはメクルの炎と雷を合わせた魔法を喰らい、そのまま結界の能力によって外へ転移させられた。




