第五十四話 今度はこっちの番なのであるよ!
「……それにしても上手く行ったな」
「ええ、そうですね」
Bクラスの二人を思いっきり殴って気絶させて戦闘不能にした俺はその二人が結界の外に転送されたのを確認してからサイエスとザンザスのいる所に戻った。
俺があそこに残ってても別の敵が来てヤられるだろうから一段階目の作戦が終わったら戻るっていうのはあらかじめ決めておいた事だ。
俺達が次に動くのは基本的にソウの合図の後になる。それまでは敵が襲いかかって来ても俺達は一切戦わないで逃げに徹する予定だ。
「ナツ君のおかげっすね。サイエスさんの広範囲に伸ばす水魔法も、自分の雷魔法も、そしてネイル君のあの炎魔法の使い方も全部ナツ君に教えてもらった事っすからね」
ザンザスの言う通りだ。今まで学園で魔素量が少ないからとバカにされて来た俺たちはナツに魔法の事を教わってか魔素量が少なくても通用する戦い方を知る事が出来た。
俺達三人は次の合図が来るまで周りを警戒しながら少しだけ練習の時の事を思い出す。
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大会に出るメンバーがオーズスタン先生から発表されてから一週間経った日の放課後、大会のメンバーはFクラス専用の訓練場で夏に教えてもらいながらそれぞれの適正魔法の練習をしていた。
「なあナツ、これ本当に上手くいくのか? 大体こんな使い方見た事も聞いた事も無いぞ」
自分が一切上達出来てないと感じて不安になったネイルは近くにいた夏に聞く。
「行ける行ける。練習時間がそんなにあるって訳じゃ無いから長時間は無理だろうけど、お前運動神経いいし短時間ブースター代わりに使うだけだったら大会までには間に合うって」
「いや、でも手の平から炎魔法を出して飛ぶってかなり難しくねえか? だって威力が強過ぎたり左右の威力が違ったりするとヤバいだろ」
ネイルの言う通り、彼の練習している両手から炎魔法を出してそれをジェット代わりに使うというのは口にすれば簡単だが実際はかなり難しい。
魔法の威力が強過ぎたら危険だし、かと言って弱過ぎたら話にならない。さらに左右で威力が違えばあらぬ方向に行ってしまう。
これを完全に習得するにはかなり繊細なコントロールが必要となって来るのだ。
「だからそれを練習してるんだろ? そもそも短時間しか使わない予定だから威力に関しては強過ぎなければいいだけだ。それ以外で大切になって来るのは体捌きだけだから、最初の三日間練習してた程複雑な操作は必要無えよ。それにやった事無いけど一回コツを掴んだら割と簡単に出来るらしいぞ」
「えっ、そうなのかよ。まったく早くそれを言えっての! 割と簡単に出来るってんなら気が楽になるってもんよ。うっしゃ、やるぞー!」
「いや、そこじゃ無くて《《らしい》》の所に反応して下さい。今『《《やった事無い》》けど簡単に出来る《《らしい》》』って言ったんですよ? 不安すぎる言葉が二つも入ってたじゃないですか。はあ、これだから単細胞バカは……」
あっさりと受け入れてしまったネイルにサイエスは呆れながらツッコむ。
「はあ!? 何言ってんだよお前! 俺が馬鹿だったらドリアドとメクルはどうなんだよ!」
そんなサイエスの最後の台詞に引っかかったネイルは喧嘩腰で聞き返す。
「あなたこそ何言ってるんですか。あの二人は論外に決まってるでしょ」
「そもそもなあ、お前だってあまり水出せてねえじゃねえかよ! 俺が馬鹿だったら俺より練習が進んでねえお前は大馬鹿野郎だな!」
「はいぃ!? 私がいつ魔法の話をしましたか? 私はリンドウ君の言葉のおかしさにまったく気付かなかった事にバカって言ったんですよ! それにあなたはやってないから分からないでしょうけど大量の水を出すのって大変なんですよ! さっきリンドウ君に教えてもらった通り魔法の勢いに魔素を注ぎ込まないようにしてるとはいえかなり疲れるんです!」
普段なら言い合いにならない様な所で二人は言い合う。二人共練習で疲れているせいでよく分からない所が沸点になっているのだ。
「喧嘩すんなって落ち着け! メクルとドリアドが変な所で被害に遭ってるから! 二人に聞こえてたらどうすんだよ。ドリアドはいいけどメクルは自分が馬鹿って事にまだ気付けてないんだって!」
「「そこは気付けよ(気付きなさいよ)!」」
「それはそうだけど!」
夏は変な所で話題に上がってしまったメクル達を庇おうとするが思わず二人の意見に完全に同意してしまった。
「ナツ君〜!」
「どうしたザンザス!」
「今度はなんだ」と言わんばかりの声で夏は後ろを振り向く。
「どうしても魔法が早くならないっす〜」
「いや明らかに早くなってるから安心しろって!」
「ナツ君! こんな時まで変な嘘はつかないで欲しいっす!」
「変な嘘って何の事だよ! ていうかお前は逆に速さに意識割きすぎ。ある程度威力にも魔素を注ぎ込んで置かないと相手を痺れさせることも出来ねえぞ」
「それは本当に本当なんですね! 変な嘘じゃないんっすよね!?」
「だから、なんで俺はそんなに疑われてんだよ! そもそも変な嘘ってなに!」
自分としては真面目に教えたつもりなのに嘘、しかも変な嘘扱いされて夏は思わずツッコんだ。
結局サイエスとネイルはこの口論が、ザンザスは夏との言い合いによってただでさえ溜まっていた疲労がピークに達してその後の練習にあまり身が入らなかった。
だが、それでもその日の夏の言葉からヒントをもらって翌日の練習から魔法が大幅に上達したのは確かだった。
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「……あの日の練習、自分の事ながら中々の状況だったな」
「……そうですね。あの時は自分の魔法の事で頭がいっぱいでまったく冷静じゃありませんでした」
「あのナツ君がツッコミに回ってたぐらいっすからね〜」
あのカオスの様な状況の事を思い出すのはやめて、俺達三人は引き続き周りを警戒しながらソウの次の合図を待ち続けた。
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作戦の一段階目が成功したという合図がソウによって打ち上げられた時、結界の端に立っていた俺は特別驚いては無かった。
「あいつ等の魔法の上達スピードは半端じゃ無かったからな。それこそ当初の目標を普通に超えちゃうぐらい。だからこの結果は普通に予想出来た事だ。
それなのにあいつ等はこの学園に入ってからずっと蔑まれて来たせいで完全に自信を無くしてる。だからいくら強くなっててもどうしても卑屈になって弱気になるんだ。……たまに鬱陶しくなるくらい。
でも卑屈になってるからって決して弱い訳じゃない。むしろ今のあいつ等はかなり強い。人数が少ないのはたしかに不安要素ではあるけどそれ以外であいつ等が負ける要素なんて無いんだ。
…………むしろ心配なのはこの試合に勝った後だ」
そう呟きながら俺は解説席の方に視線を向けた。
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「くそっ、何なんだあいつの風魔法は! Fクラスのくせに鬱陶しいぞ!」
「ああ、まさか俺達三人があいつ一人に足止め食らうなんてな」
場面は打って変わって左から二番目にある道路。その道路にいたBクラスの三人はFクラスのライオットとメクルと対峙していた。
いや、より詳しく言うとたった一人に足止めを食らっていたの方が正しい。
「ふう……どうした。僕はまだまだ行けるけど来ないの?」
足止めしていたその人物、ライオットはここぞとばかりに三人を煽る。
おまけに手招きも付けながらだ。
《ヒュ〜〜〜…………シュ〜〜》
と、そこで最初の物とは違い緑色の閃光が空中に打ち上がる。Bクラスには知る由もないが、ソウによるネイル達の作戦が成功したという合図だ。
そしてその閃光を確認したメクルは今まで必死に水の操作に向けていた自分の意識を道路の奥に立つBクラスの三人に向ける。
「お待たせなのであるよライオット氏」
「ううん、全然大丈夫。それよりも成功したみたいで何よりだよ」
少し安心した様にライオットが言う。
「ああ、今度はこっちの番なのであるよ!」




