第五十一話 みんな、負けんなよ
『さあさあ、続きましては一年生の部準決勝第一試合! 只今より試合に出場する選手が入場します!』
デリヤ先輩の放送と共に、俺達Fクラスは入場門を通る。
『さあ、対戦する両クラスが徐々に入場して来ました! まず東門から入場するのは初戦において全員のレベルの高さと圧倒的な連携によってDクラスに華麗に勝利してみせた一年Bクラス。特に注目なのは学級委員長のバロル・エイデン君による計算し尽くされた水魔法です!』
「「「「うおおおぉぉぉぉぉ!!!!」」」」
その放送と共に大きな歓声が観客席のそこら中から上がる。Sクラスの時程じゃ無いがそれでもデリヤ先輩の放送を完全に遮れそうな程の大きさだった。その事態をあらかじめ予想していたデリヤ先輩は歓声がある程度収まってから放送を続ける。
『そして西門から入場しているのは驚くべきこのクラス…………一年Fクラスだああああ!
下馬評では圧倒的に劣っており今年も勝利を手にするのは無理だと思われていた彼等でした。ですがなんと初戦でCクラス相手に勝利を勝ち取り、実に16年振りのFクラス準決勝進出を果たしました! この勢いに乗ってBクラスに勝つ事は出来るんでしょうか!』
「「ぅぉぉぉぉ」」
俺達の紹介が終わるとBクラスの時に比べて遙かに小さい歓声が上がった。小さすぎて歓声って行っていいのか微妙なレベルだ。多分これ一般客しか上げてないないだろ。
「なあ、俺達への歓声少なすぎないか?」
それ程までに少ない歓声に入場門を潜った辺りでソウが嘆いた。
「こんな物じゃない? 一回戦の時に比べれば十分多いと思うよ」
そしてそんなソウに真横を歩いているライアが返す。
「それはそうだけどよライア、流石にBクラスとの落差が激しすぎねえか?」
「まあ、それは同感だけどね〜。でも私としてはリンドウ君が一切戦わないのが不安で気が気じゃないよ。ただでさえメンバーの大半が個人個人でBクラスに負けてるのにその上人数不利でしょ? 全然勝てる気がしないって」
「ライア氏の言う通りなのであるよ。某も不安過ぎて先程から冷や汗が酷いのである」
ソウとライアの会話にかなり深刻そうな面持ちで汗を拭いてるメクルが入る。
たしかになんか変な汗かいてんな。いや、メクルって言うかほとんどのメンバーが冷や汗かいてるじゃん。ライアも口調は普段通りの軽い感じだけど表情が固いし。
「あれ、スズク君はボヨン・ボヨヨン君達との決闘の時平気だったよね?」
「いや、あの時とは状況が全然違うのである。今回は人数が少ない上に某の手の内も知られてしまっているのであるよ…………」
メクルは言葉にする事で改めて自分の不安を自覚したのか余計不安気な面持ちになった。
実力的に大丈夫だと俺は思うけどなあ。
「…………まあ、不安になるよなあ」
でも、不安になる気持ちは分かる。いくら実力的に大丈夫とはいえやっぱり人数が少ないのはちょっと不安に感じるよな。
「「「「……………………」」」」
…………何かみんなの会話が完全に止まったな。何で誰も一言も喋らないんだ? なんならさっきまで後ろで鳴ってた足音も全然聞こえて来ないんだけど。
そう思い後ろを振り返ると、その先ではみんなが驚いた表情で俺の方を見ていた。
「みんなどうした?」
「「「「お前が原因だろうが(でしょ)!!!!」」」」
ソウとドリアド、そしてクララ以外のメンバー全員が勢いよく俺に詰め寄りながらそう叫ぶ。
「え、なに言ってんのリンドウ君。リンドウ君が戦いに参加しないって言ったから私達はこの試合を9人で戦わなくちゃいけない事になったんだよ!?」
「お前が戦闘に参加しない理由は分かったけどもしそれで俺達が負けたらどうするつもりなんだお前は!」
「怒るのであるよ! 今のセリフには流石に某も怒るのであるよ!」
そしてそれに続けてライア、ネイル、メクルの三人が俺に向かって叫んだ。
「いや、俺もなるべく確実な方法を取りたいとは思ってたけど魔素量至上主義の思想を変えるにはこの方法が一番確実なんだって。お前らだってこの学園でのFクラスの立ち位置変えたいだろ?」
「それはそうだけど……でもそれとこれとじゃ話が違うよ。ねえ、メクル君!」
「ライア氏の言う通りなのである! この方法が一番確実だったとしてもナツ氏という戦力を失った上に少ない人数でBクラスと戦う羽目になる某達の気持ちを考えて欲しいのであるよ! いくらドリアド氏がいると言っても限度があるのであるよ!」
自分達にとっては格上のBクラスと人数が少ない状態で戦う訳だから不安になる気持ちは分かる。ただ……
「いや、でもメクルはSクラスとAクラスの奴を含めた三人相手に互角に戦ってなかったか? ネイルとライアもこのクラスで一二を争うぐらい魔法の練習してたじゃん、自信持てよ」
そう、メクルに関しては前の決闘でSクラスともやり合える事が判明してる。だから何でそんなに不安になってるのかが本当に分からないし、ネイルとライアだって夜遅くまで残ったりしてこのクラスの誰よりも練習してた。だからその練習量の多さから少しは自信が付いてる筈なんだけどな。
「先程ライア氏にも言ったしナツ氏には今まで何度も言ったであるが前回とは状況が違うのであるよ! あの時は某の"全属適正"と"複法覚者"にボヨン達が驚いた事によって生まれた隙を突いて何とか戦えてはいたが今回はそうも行かないのであるよ!」
「「私(俺)達に至っては練習してただけじゃん!」」
「ああもう! だから俺も何回も言ってるけどお前らは強いんだって! 何でそんなに俺の言葉が信じらんねえんだよ!」
「「「今までのお前(ナツ氏)(リンドウ君)の行動を振り返ってみろ(てよ)!」」」
今までの行動を振り返ってみろって言われてもそんな行動はしてないと思うけどなあ……………………あっ。
「……そ、そ、それとこれとは話が別だろ!」
「お前今絶対に心当たりあったよな!」
「で、でも戦闘に関してなら信用してもらってもいいと思うけど!?」
「それとこれとでは話が違うのであるよ!」
「いや同じだろ!」
くそっ、何でこいつらはこんなに自分を卑下してるんだ。ちょっと面倒くせえ。
「それでは両クラスの入場を確認したので試合の方へと移る。両クラスの選手は結界内に入れ。あと、事前に通告した通り二回戦からは結界内の地形変動が終わり次第試合開始だから気をつけるように」
俺達が騒がしく会話を続けてると、会場内に審判のゴルギ先生の声が響き渡る。
「はあ、もう始まんのか……」
「もっとナツ氏を責めたい所であったのであるが……」
「はは、まあ何かあったら俺の"雷桜"で何とかするからそこまで不安がらなくていいぞ」
「頼りにしてるよドリアド君」
「うむ、任せろライア」
それと同時に俺達は一瞬で静かになった。みんなゴルギ先生の声で切り替えのスイッチが入り冷静になったのだ。
にしても切り替えが早い。多分元からそこまで興奮してた訳じゃないな。不安を取り除くためにあえて騒いで気を紛らわしてたのか。
そして各々が結界内に入って行ったのを確認して最後に俺が結界内に入る。
「もうそろそろ始まるみたいだな。……試合が始まってからは俺は何も言わねえから今のうちに言っとくよ。……みんな、負けんなよ」
俺の言葉に、一人を除いた全員が気合いの入った顔で振り向き頷いた。
みんな不安ではあるけどだからって負けてやる気はさらさら無いらしい。むしろ勝ちたいからこそ不安になってるって所か。
……ああ、そういえばもう一つ言わないといけない事があったな。
俺は辺りを見渡して目的の人物を探す。
そしてさっきの俺の言葉に振り返る余裕が無いほど緊張していて入場してから一言も喋ってなかったクララの方に向かった。
「クララ、俺が見る限りお前の成長速度が一番早かった。それこそお前の魔法についてあんま知識の無い俺が教えてて楽しくなる程にな。だから不安がる必要は無い。頑張れ、みんな頼りにしてるからな」
「っ、はい!」
俺の言葉にクララは先程までの緊張した様子とは一転して嬉しそうな顔で返事をした。
俺なんかの一言で緊張や不安が無くなる訳ないのは分かってるけど少しは解れてくれたかな?
「それでは行くぞ…………一年生の部準決勝第一試合、開始! 『地形変動』!」
そしてゴルギ先生の合図によって結界内の地形が変わり始め、みんなの戦いが始まった。




