第四十九話 魔素量至上主義に心酔はしていません
一回戦第三試合が終わって二回戦が始まるまでの待ち時間、俺達Fクラス代表は控え室で雑談などをしながら時間を潰していた。
「そこでさ、俺が言ってやったわけよ。『金の生らない木はただの木』ってな!」
「うおお、カッコいいのであるよネイル氏! 尊敬するのである! ドリアド氏もそう思うであるよな!」
「うむ、メクルの言う通りだ。今まで俺が聞き及んだ数々の話の中でもトップレベルのカッコよさだ。まさかネイルがこれほど行動力、そして勇気を持ち合わせている奴だったとはな」
「へへっ、褒めすぎだってお前ら。こんなの人間として当たり前の事をやったまでよ」
いや、あいつらは一体何の話をしてんだ? その台詞をどんなタイミングで使ったのか気になるし、何がどうなればそれがカッコいいに繋がるんだよ。
…………くそっ、あいつ等の会話初めの方からちゃんと聞いとくんだった。
「あいつ等の会話あんま気にしない方がいいぞ」
三人の意味不明な会話について考えていると、ザンザスとライオットの所にいたソウが隣の椅子に座ってくる。
「俺かなり初めの段階から聞いてたけど訳分かんねえもん。よく会話が成り立ってるなってレベルで意味不明だったわ」
「ああ、そんなにか…………」
だとしたら逆に気になってくるけどな。
「それで、ナツ。次の試合はどうするか決めたのか?」
「次の試合って?」
「お前が全力で戦うのかって事だよ。…………あんな実力を持ってるお前が全力でやったら確実に一瞬で終わるだろうし、勝ちを優先すんならお前が全力を出してくれるのがベストだと思う。
だけど、お前そんなつもり無いだろ。最初から一人で片付けるつもりだったら俺達に強くなるコツとかを教えてなかっただろうからな」
おお、目敏い。ソウって外見に反して結構頭が切れるんだよなあ。
「……よし、んじゃあ次の試合について話したいから皆聞いてくれ」
次の試合での行動について皆に話すため、俺は座ってた椅子から立ち上がる。
《コンコンコン》
しかし、話し始める前に控え室のドアをノックされてしまった。仕方ないので一旦話を中断して俺は開ける為にドアの方に向かう。俺達の試合まではまだ時間があった筈だけど……
「はい、どちら様ですか?」
開ける前に、俺は一旦ドア越しで向こうにいる相手に話しかける。
「Bクラス学級委員長のバロル・エイデンです。貴方達Fクラスに用があり来ました」
……………………え?
Bクラスって言うと次の俺達の相手じゃん。対戦相手のクラスの委員長がなんでわざわざ俺達の控え室にまで来たんだ?
俺はドアをその状態にしたまま後ろに振り向き、皆の反応を伺う。
そして、当然ながら皆驚いてた。そりゃそうだ。BクラスはSクラスやAクラスまでとは行かないものの学年では上の方に位置するクラス。そんな彼等が次の対戦相手とはいえわざわざ底辺である俺達Fクラスの控え室にまで来る理由が見当たらない。
俺達を馬鹿にしに来た、とは考えられるけどな。
「…………開けるぞ(コソッ)」
目配せで皆に確認を取った俺は小さく宣言してゆっくりとドアを開ける。
「ありがとうございますリンドウ・ナツ君。先程も申し上げましたが、Bクラス学級委員長のバロル・エイデンです」
ドアの向こうには、眼鏡を掛けていて整った髪が特徴の少年と、その左右に男女が一人ずついた。彼等もBクラスなんだろうか?
「ええと、ご丁寧にどうも。それで……俺等に何の用ですか?」
バロル君は俺に手を差し出しながら答える。
「試合前にどうしても貴方達に伝えたい事があったのでそれを伝えに来ました。…………ではまず手短く。次の試合ではよろしくお願い致します。少なくとも我々三人は初めから全力で行きますので、すぐにやられてしまわない様にお願いします」
「「「………………」」」
バロル君の台詞に、クラスメイトの数人の空気が変わったのを俺は背中で感じ取る。今のバロル君の台詞からして彼が俺達を圧倒的に下に見ていて、ここに来たのも馬鹿にするためだと思ったんだろう。
そう捉えられるような台詞だし、俺も一瞬そう思ったんだけど…………どうも様子が違うんだよな。
とりあえず俺はバロル君の手を握り、あえて挑発的な口調で応える。
「……ああ、気を付けるよ」
「ええ、ありがとうございます」
……やっぱり、俺を見る目が真っ直ぐ過ぎるな彼。
「………………おいバロル。多分誤解されてるぞ」
「そうだね、今のバロル君の台詞だと馬鹿にしてる様に聞こえると思う」
すると、俺と握手をしてるバロル君に向けて彼の隣にいた二人が口を開く。……この二人も俺に向ける目は普通だな。
「おっと、これは失礼しました。申し訳ございませんリンドウ・ナツ君。我々は別に貴方達を馬鹿にしに来た訳ではありません。純粋に楽しい試合にしようと言いに来ただけです」
「えっ…………」
バロル君の言葉に意表を突かれ、言葉に詰まってる俺を見て彼は続ける。
「どうやら驚かれてるみたいですね。まあ、無理もありませんか。日頃からあのような罵声を浴びせられ続けていますからね」
「………………」
俺が無言で聞き入ってるのを確認して、バロル君はさらに続ける。
「……話を始める前に先に断っておきます。学年のほぼ全員が魔素量こそが絶対だと思っているでしょうし、我々三人もまだそう思っている節があるのは事実です。
……ただ、日頃から貴方達に浴びせられている罵声。あれは全生徒が行っている物ではありませんし、むしろその行為に嫌悪感さえ覚えてる人も少なからずいます。
たしかに魔素量が少ない事は魔法師として致命的ですが、それだけであのような仕打ちをされていい訳無いという意見もありますから」
なるほど……多分他クラスの全員が俺達に酷い仕打ちをしてる訳じゃ無いって伝えに来てくれたんだろうな。ただ何でこのタイミングなんだ? 別に試合後とかでもよかったんじゃないか?
表情から俺の考えてる事を悟ったのか、バロル君は急いで本題に入り始める。
「ええっと……私が何を言いに来たのかと言いますと、少なくとも我々三人は前に行われた決闘でのメクル・スズク君と先程の試合のリンドウナツ君によって魔素量至上主義の思想にかなり懐疑的になっています。
Sクラスを含めた上位クラス三名を相手に互角にやり合ったり、団体戦を一瞬で終わらせていた訳ですから。
しかしそれでも、我々三人はまだ魔素量至上主義を捨てきれていません。なので、次の試合で貴方達の実力を我々に示して欲しいんです。今まで初等部や中等部で我々が教わって来た事が本当に間違っているのかどうかを判断するために」
「へぇ、結構簡単に魔素量至上主義の思想を捨てられるんだな。自分の思想捨てんのって結構難しいと思うんだけど」
「…………貴族の大半は魔素量至上主義ですが、中にはそうで無い家もあります。そして我々三人はそうで無い方の家の出身です。なので、元々家の教えと学校での教えが矛盾していたおかげで魔素量至上主義に心酔はしていません。
我々が魔素量至上主義だったのは今まで見てきた強者の方々は魔素量の多い人ばかりだったからです。なので、もし魔素量の少ない人でも強くなれるとこの目で確認出来たら魔素量至上主義は捨てられるという訳です」
なるほど、話が分かって来た。貴族の中にも魔素量至上主義じゃない家もあって、この三人の家はその一つ。だから魔素量至上主義には元からある程度疑問を持っていて、さっきの試合の俺が思想を変える決定打になった。
で、確信を得るために次の試合で俺達の実力を見せてみろって事か。
「分かった。そういう事なら全力で戦ってお前達に認めさせてやるよ。そうだな……ちょうどいいし俺の次の試合での行動もついでに話しておくか」
後ろにいるクラスメイトが俺達の会話を聞いてる事を改めて確認して俺は宣言する。
「俺は次の試合、たとえ皆が窮地に陥ったとしても一切戦闘に関与しない」
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弁当であるサンドイッチを食べるため自分の部屋に戻って来た私、イリーネ・ユグドラシルは目の前に広がっている色とりどりの美味しそうなサンドイッチ達に抑え切れない程の笑みを浮かべていた。
「ふふっ、まずはどれから食べようかしら。ツナかサラダか…………ううん、まずは定番の卵にしましょうかっ」
私は一番右に置いてあった卵サンドを手に取り、それを大きく頬張る。
「いただきます。…………う〜ん、美味しい! 流石は料理長ね。卵の味の濃さはもちろんの事、マヨネーズとのバランスも完璧だわ! こんな美味しい物をまだまだ食べれるなんて幸せ〜」
そしてその勢いのまま、私は卵サンドをどんどんと口に入れていく。
卵サンドを平げ、その勢いのまま残り三つのサンドイッチも胃袋に入れた私は持っていたハンカチで満足気に口を拭いた。
「ふふっ、ごちそうさまでした。はあ……どのサンドイッチも文句の付け所なんか一切無い程美味しかったわ。今度料理長に作り方を教えてもらおうかしら。…………ふぁ〜〜〜。う〜ん、少し眠たくなってしまったわね。ご飯の後に昼寝なんてだらし無さ過ぎるけど、誰も見ていないのだし少しくらいいいかしらね」
とは言え、この後に試合が控えている以上熟睡する訳にも行かないので私は目覚まし時計が十五分後に鳴るように設定してから机にうつ伏せになり寝る体勢を取る。
そして自分が思っていたよりも眠たかったらしく、そのまますぐに深い眠りに落ちてしまった。
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「スゥースゥースゥー」
イリーネが深い睡眠に入った事で静まり返った部屋。その部屋に突如三人の男が姿を現した。
「ははっ、これはラッキーだ。勝手に寝てくれたおかげで無駄な手間が省けた。なあ、ラタル」
「ええ、ですがいつ目を覚ますか分かりません。念の為事前に用意してあった睡眠薬がいつでも使える様に準備してから運び出しましょう………………グレイプレ様?」
「………………あ、ああ。すまない。お前の言う通りだラタル。デリコルは睡眠薬の準備をしておけ。俺がこいつを運ぶからラタルは周囲の警戒を怠るな」
「「はっ」」
ラタルは何故返答が遅れたのか気になったが、その後の指示はいつも通りの物だった為些細な事だと判断して気にしない事にした。
(…………いくら満腹になったとはいえ普段昼寝をする習慣が無い立場の人間がこれほどの熟睡をする筈が無い。つまり先程の食事に何か細工が仕組まれてたという事になるが……一体誰がそんな事をしたんだ?
彼女を狙う別勢力の可能性も考えられるが、だとしたら作戦日が被っている俺達が一度は接触している筈だ…………いや、今は考えても仕方がないか。急いで彼女から血を抜かなければ)
自分の中で生じた疑問より目的の方が大事だと判断したグレイプレはすぐさま思考を切り替える。
「よし、ではアジトに戻るぞ」
「「はい」」
そして熟睡しているイリーネを抱えた三人はデリコルとラタルの『固有魔術』によって姿を消した。




