第四十六話 リンドウ・ナツは何者なんだ?
「…………ふぅ、よし」
『技』を使いCクラス全員を一撃で倒してFクラスの勝利に貢献した俺は、少し息を吐きながら刀を鞘に納めた。そのまま後ろに振り向き皆に声を掛けようとした瞬間……。
「「「『ふう、よし』、じゃない!!!」」」
ソウ、メクル、ドリアドの三人に詰め寄られながら大声で怒鳴られてしまった。
「おいナツ、何だよ今の!」
「ソウの言う通りだぞナツよ! 今の行動は一体なんなのだ!」
「某達にキチンと説明してくれであるのであるよ!」
顔が触れ合いそうな所まで近づいて来たソウ、ドリアド、メクルの三人は一斉に俺に問いただす。言いたい事が色々あるのか、三人とも今までに無いくらい険しい顔をしている。メクルに関しては口調がごっちゃになってて訳分かんねえ事になってるし。
ちなみに残りのメンバーは、全員がソウ達の後ろで俺に視線を向けながら口を開けて固まっていた。
「お、落ち着け! 質問にはなるべく答えるけど一度に来られても普通に困るから一旦落ち着いてから話してくれ!」
「「「これが落ち着いてられるか!!!」」」
「分かった、じゃあ落ち着かなくていいから一旦ボリュームを落としてくれ! 一人でもうるさいのにそれが三人も来られたらキツい! あとさっきからタイミング合いすぎだろお前ら!」
冷静じゃいられないのは分かるけど本当にうるさいって! 鼓膜破れそうなんだけど! 今耳『キーーーン』ってなったぞ『キーーーン』って!
「……とりあえず今の斬撃はなんだ! マジでどうやった! どう考えても魔素の無い人間に出来る事じゃねえだろ! お前実は魔素あるんじゃねえの!?」
決して冷静では無いが、それでも俺の言葉をまったく聞けない程興奮している訳では無かった。三人は俺の言葉を聞いてとりあえず一人一人問いただす事にし、軽い目配りをしてからまずはソウが問いただすことに決めた。
そんなソウに俺はとりあえず真面目な口調で答える事にする。興奮気味なのよりそっちの方が断然に信憑性ありそうだからな。
「……いや、今のは身体能力によるもんで、俺の魔素量は本当にゼロだ」
「はあ!? それであの威力かよ!? そんなわけっ…………いや、でも……ここで嘘吐く理由なんて無えし……やべぇ、マジで分からなくなって来た!」
理解出来なさすぎて頭がパンクしそうになったのか、ソウは大声を上げながら勢いよく両手で頭をかき始めた。多分だけど、今このタイミングでソウから次の質問が来る事は無さそうだな。
「つ、次は某からである! あんな事が出来るなら何故事前に某達に知らせてくれなかったのであるか!? そうすれば某達も試合前に無駄に落ち込む必要なんて無かったのでござるよ!」
両手で頭を激しく掻き始めてもう質問どころでは無さそうなソウの次にメクルが聞いてくる。ちょっと口調が戻ってるしさっきより少し落ち着いたのか? …………いや、普通に「ござる」なんて使ってるし多分ちっとも落ち着いてねえや。
「ああ…………いや、実は俺もこれをやろうと思ったの試合の直前なんだよね。Fクラスが笑いを取らなきゃいけないのって要は試合じゃ絶対に他のクラスに勝てなくて、どうせ勝てないならせめてお笑い要員として大会に参加しろって事じゃん。ていう事はさ、普通に勝っちゃえば笑いを取る必要なくね? って思ってそのまま行動に移した」
「であるのなら思い至った瞬間に某達に教えてくれればよかったのではないか!?」
「でも…………俺が一撃で敵を全滅させるって言ったら信じてたか?」
「まったく信じなかったのでるよ!」
「いや、そんな勢いよく答えられても……」
何で今のに勢いよく答えてるんだよ。そんな堂々と言う事でも無いだろ……。メクルって所々で頭の悪さが露見するんだよなぁ。
「と、とりあえず納得や理解はまったくしていないけど、聞きたい事は聞けたから次はドリアド君質問いいよ!」
「う、うむ! では最後に俺から質問だナツよ!」
前の二人にに比べてドリアドは少し落ち着いてるようにも見えるけど、こいつだけずっと俺の両肩を掴んで離さないんだよなあ。多分だけど一番焦ってるだろ。
あとメクル、お前焦りすぎて口調が普通に戻ってる。ていうか何気にお前の素の口調初めて聞いたけど、お前素の状態だとそんな柔らかい口調なの?
「俺からの質問はだ…「Fクラス!」
と、ドリアドが質問をしようとした瞬間、野太い声が会場に響き渡った。審判をしていたゴルギ先生の声だ。
「お前らそろそろ退場してくれ! 次の試合の準備とかでかなり時間使うからハッキリ言ってそこで長話されると邪魔だ! さっきの出来事で興奮するのは俺もすごい分かるが、盛り上がるのは退場してからやってくれ!」
「「「「はい!」」」」
ゴルギ先生の言葉に、後ろの方で呆然としていた他のクラスメイト達を含め全員が反応した。
たしかに周りで色々動き回ってる大会スタッフの人達を見る感じ俺達結構邪魔っぽいしな。とりあえずこの話は控え室で続けるか。
「悪いなドリアド。お前の質問は控え室に持ち越しだ」
「くっ……う、うむ。これは仕方ないな…………」
俺はドリアドと走りながら言葉を交わし、試合が終わってからずっと無言の他のクラスメイト達と一緒に全員で控え室へと戻って行った。
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今の試合を観客席から見ていた私、イリーネはリンドウ君の強さを再確認していた。
やっぱり化け物ねリンドウ君。師匠に勝ったからCクラスには楽に勝てると思っていたけど、圧倒的すぎる。今私がリンドウ君と戦っても絶対に勝てないわね。それどころかまともに戦えすらしない…………。
……っ! いや、ダメよイリーネ。弱気になるのが一番ダメ。早く《《あの方》》に追いつかないといけないんだから弱気になってる場合じゃない。むしろ自分より強い人が同年代いる事を喜ぶべきよ。越えるべき目標は近くにある方がいいのだから。
…………それにしてもフィンラル君、さっきからずっと静かね。元々騒がしい方では無いのだけどいくらなんでも静かすぎるわ。表情を見る限り驚きすぎて唖然としてるっていう訳でもなさそうなのよね……。
「…………なあ、イリーネ」
しばらくの沈黙の後、フィンラル君は会場の方から目線を外さないまま私の名前を呼んだ。
「どうしたの?」
「リンドウナツは何者なんだ?」
「…………何者って?」
その質問は予想して無かったわ。でも……たしかにフィンラル君の言う通りリンドウ君ってどんな人なんだろう。聞いたことも無いような名前だし、いくら魔素量が無いとはいえあそこまで強かったら私の耳に彼の事が入ってきてもおかしくないのに……。
「俺はリンドウナツが普段から言っている『魔素量がすべてではない』というのは正しいと思っている。実際俺の領地にも魔素量の少ない者の方が強いなんて事はあった。だがあの斬撃は、魔素量が少なくても強いなんて次元の話じゃ無い。
……今から言う事を再確認した上でこの事についてもう一回深く考えろイリーネ。…………リンドウナツは魔素量が少ないどころか一切無いんだぞ」
「ええ、そうね。確認しなくてもそれ……く…………っ! あれ、でもそれって!」
待って、私重大な事を見落としていたわ!
「そうだ。つまりさっきのリンドウナツは魔法や『固有魔術』を一切使わずに生身の身体だけであの斬撃を放ったという事になる。そんなの、人間を辞めてるとしか言えないだろう」
今まではリンドウ君の圧倒的な力ばかりに目が行ってて考える余裕が無かったけど、リンドウ君は魔素量がゼロことがすっかり頭から抜けてた。
そしてそう、そのゼロっていうのが問題なのよ。
魔法に精通していない人は今の斬撃について『固有魔術』を使っただけなのではないか? と思うかもしれないけど、それは違う。『固有魔術』の強さは魔素量と関連性が無いから魔素は関係無いと思われがちだけど、『固有魔術』の根底にあるのは魔素なのよ。
というのも、『固有魔術』とは簡単に言えば魔法を極め、自分の中の魔素の流れを完璧に把握した魔法師達が体内の魔素をそれぞれ独自の方法で使う事によって出来る物。つまり、『固有魔術』はそもそも魔素が無ければ成り立たない魔術なのよ。
だから、習得するのに魔素量がある事が前提である以上魔素量がゼロであるリンドウ君が『固有魔術』を使ったという可能性は無く、今の強烈な斬撃も身体一つの生身で繰り出した物なのだと分かる。
「…………でも、今までそんな人間噂ですら聞いた事が無かった。…………貴方のその異常な力は一体なんなの、リンドウ君」
リンドウ君に対する謎が生まれ、この事について彼自身に聞くべきか悩んでいた私はフィンラル君と一緒に、仲間達と共に騒がしく退場して行く彼をただただ眺めていた。
大変身勝手で申し訳ないのですが、ストックが少なくなってしまったので次話からの更新速度を遅らせて頂こうと思います。
次回からの更新は月曜日と金曜日の24時辺りにさせて頂こうと思っていますので、もしよろしければ引き続きよろしくお願い致します。




