第四十五話 これが一番いい方法だ
『学別戦』第一試合Fクラス対Cクラス。余裕のある顔を見せているCクラスの代表に比べFクラスの代表はほとんどが暗い顔をしていた。ただ暗い顔をしていると言っても全員が同じ理由では無い。暗い顔をしている八人中二人は笑いを取りに行くという自ら恥を晒さなければならないという事に。一人は自分達の実力では到底Cクラス敵わないだろうという事に。残り五人はその両方に。
そして普段通りの顔をしている二人は、自分の実力ではCクラスには絶対に負けないという圧倒的な自信を持っている。その自信があるからこそ彼等は一切緊張せず平常心保っていた。
「はあ、俺達は今から笑いを取って恥を晒さなきゃなんねえのか…………嫌だな〜」
「諦めるっすよネイル君。リンドウ君の言ってた通り、そんな中途半端な気持ちでいると笑いを取れないっすよ。むしろ笑いよりも一般客の前でボコボコにされる方が心に来るっすよ……」
そんな中、ネイルとザンザスが言葉を漏らす。『ラーンベルト学園』の生徒から弱いと見られるのは慣れているため、特段苦には感じていない。それなのに彼等の気分が落ち込んでいるのは、たくさんの一般客の前で戦わなきゃいけないからだ。
もちろん自分達がどれだけ無様に負けても一般客が自分達を卑下したりする事は無いと分かっている。だが、それでもこの場で醜態を晒すのは心に来る物があるのだ。
あれ、でも………………今思ったけどこれ、もしかしたら笑いとか取らなくていい方法あるんじゃないか? ついでに元々の目的も果たせるし一石二鳥だろ。
「そういえばナツ、そのけ……カタナは試合で使っていいのか?」
ザンザスとネイルが自分の気持ちを言葉にしたせいで余計気分が落ち込んだのを他所に、ソウが俺の腰に携えられた刀について聞く。
「ん? ああ。まあ、ルールに抵触してないからな」
「え、そうなのか?」
「まあまあ、あんま気にすんなって。そんなに色々気にしてると本当にハゲるぞ」
「いや、俺ハゲとか全然気にした事ねえんだけど! 何で俺が普段から毛が薄い事に悩んでる前提で話をしてんだよ!」
さっきまで気分が落ち込んでいたのが嘘のように、ソウが思いっきりツッコむ。前から思ってたけど、ソウってチャラそうな外見してるくせに全然チャラくねえんだよな。いつも四人でいる時大抵ツッコミに回ってるし。
まあ、それはさておき。俺が刀を持ち込んでる理由はちゃんと説明しといた方が良さそうだな。
「一応まじめに説明しとくと、オーズスタン先生が頑張ってくれたんだよ」
「え、オーズスタン先生が? …………ああ、入学式の時に言ってたやつか。あれ通ったんだな」
「なんか会議で学年主任からの反発が凄かったらしいけど相当頑張ってくれたみたいだぜ。最ご…「ね、ねえ…………Cクラスの選手の様子、なんかおかしくない?」
俺とソウの会話に割り込むように、ライオットが向かいにいるCクラスの連中を指差しながらそう言った。会話に割り込まれた事にはもちろん驚いたが、何よりも驚いたのが割り込んで来たのがライオットって事だ。普段から奥手なライオットが会話に割り込んだって事は結構重大な事なのか?
そう考えながらCクラスの選手達の顔を伺ってみると、彼等は全員が緊張しているかのような顔をしているのが分かった。これから大会が始まるから緊張するのは分かるが、あいつらの相手は俺達Fクラスだ。俺達の事を底辺だと思い込んでるあいつらからすれば緊張する理由なんて無いと思うけど…………。
たしかに気になるな。
「……まあ、こんな大勢の前で戦うわけだし、いくら中等部の頃に大会経験があるとは言え緊張くらいするだろ」
少し考えた後俺は、彼等は大勢の前で戦うから緊張しているだけと結論づけた。俺達相手に緊張してるとは思えないし、他に理由が見当たらないしな。
皆も俺の意見に大方納得したのか、俺の言葉に軽く返事や反応を見せたあと特段Cクラスを気にした様子を見せずに戦闘用の結界内に次々と入って行った。
「それでは両クラスが結界内に入った事を確認したため、これより一年の部一回戦第一試合を始める!」
そしてCクラス代表も合わせて全選手が結界内に入った所で、今まで進行を務めていた『実況』のデリヤ先輩に代わって結界の外にある高くて目立つ台の上に立っているゴルギ先生の言葉が会場に響く。
ゴルギ先生は隆々とした筋肉を持っていて、性格も『曲がった事は嫌い』というまさしく漢の中の漢とも言える教師だ。普段は一学年の実技の授業で、困っている生徒がいたらコツを教えるなど担任のサポートを主に仕事にしている。
彼は曲がった事が嫌いなその性格から、たとえFクラスであろうと差別せずに一生徒として扱ってくれていたので魔素量至上主義思想が過剰な生徒の評判は悪いが、逆にFクラスからの評価は高い。
「まずは両クラスがこの試合で戦う事になる地形を結界内の変動と共に発表する。ちなみに選手諸君が立っている、結界の入り口付近は地面が少し変わるだけで盛り上がったりするわけではないので安心して欲しい。では、『地形変動』!」
すると、他の物が何も見えない程視界のすべてが白で包まれた。ただ白で包まれたと言っても目を閉じたくなるような明るい光を見たからという訳ではなく、ただただ本当に視界が白くなっているのだ。
そして視界から白が消えると、辺りの景色がまるっきり変わっている事に気付いた。地形が変形する前ほどではないが結界内のすべてが綺麗に見渡せ、下は薄茶色の土の上に生えている雑草などの綺麗な緑で覆い尽くされていた。
一回戦第一試合の地形は『平原』だ。
正直俺としてはありがたいけど、実力で劣等感を感じてるザンザスやライオット達からすれば『平原』は一番嫌な地形だろうな。
『平原』は基本的に障害物のような物が存在しない。だから搦手などが使えず、勝敗は大抵の場合純粋な力によって決まる事が多い。力で劣っているクラスの皆は搦手でなんとか勝とうと思ってただろうから、それが使えなくなって結構落胆してるな。
実際に顔が一段と暗くなった奴とかいるし。
そんな俺達の傍ら、地形が変動した事を確認したデリヤはすかさず実況を入れる。
『今回の試合の地形は『平原』に決定しました! メリア様、この地形ではどのような作戦を取るのがよろしいのでしょうか?』
『そうですね……『平原』は障害物が無い分パワー勝負が戦闘の主体になります。なのでクラスで一番強い人をメインに、その周りでクラスメイトがその人物に合わせるなど良いのではないでしょうか?』
『なるほど! 分かりやすい説明をありがとうございます! メイゲル様はどうお考えですか?』
ここでデリヤはメイゲルに話を振る。
『メリア様に全面的に同意です』
『あっ……いえ、メイゲル様個人の意見をお聞きしたいのですが…………』
まったく予想だにしなかったメイゲルの返答にデリヤは珍しく動揺してしまった。そりゃそうだ。解説者として来てるのに自分の意見をほとんど言わないなんてまず無い。どれだけ腕のたしかな実況者でも今のには動揺するだろう。
『メリア様のご意見は絶対です。これ以上付け足す事など一つもありません』
『…………な、なるほど! つまりメイゲル様もパワー勝負が主体になるだろうというご意見なのですね! ありがとうございましたメイゲル様! メリア様とメイゲル様のお話ですと、私としては魔素量の多いCクラスの方が有利に思えます。ですが! 戦いというのは何があるか分かりません! わたくしデリヤ、『平原』という障害物の無い会場で両クラスがどのような戦いを見せてくれるのかすごく楽しみになって来ました!』
だが、流石は『ラーンベルト学園』内実況NO.1の男。持ち前のトーク力でなんとか持ち直した。
『両クラス準備はいいな?』
実況がひと段落した所で、ゴルギ先生が俺達に確認する。そろそろ試合を初めていいと判断したんだろう。
両クラスから明確な反応は無かったが、形式上の確認で別に返事は求めていなかったので返事の有無は気にかけず先生は試合を始める合図を出そうとする。
そして、先生が合図を出そうとしているのを確認した俺は、ゆっくりと目立たないように刀に手を添えてすぐに刀が抜けるような体勢になる。
この試合での俺の行動はさっき決まった。これがFクラスが恥をかかない一番いい方法だ。
『一年生の部、一回戦第一試合…………開始!』
「反号の六、出力三……"虎鬼"!」
試合開始の合図が出た瞬間、俺は腰に携えてた刀を高速で抜きその動作のまま勢いよくCクラスのいる方目掛けて振った。
いわゆる居合と呼ばれる剣技だ。
「「「「グワアアアァァァッッッッーーーーー!!!!」」」」
俺の居合による風圧でCクラスの代表は全員致死量のダメージを負い、結界の能力によって外へ転移させられる。
これはつまり、一回戦の第一試合、今大会が盛り上がるためにもっとも重要な試合の勝敗が一瞬で決したという事になる。しかも、事前の予想では負けるだろうと思われていたFクラスの勝利によって。
「「「「………………………………え?」」」」
そのありえない出来事に、ほぼ全員が言葉を失う。いや、言葉を失ったと言うよりは完全に思考が停止したの方が正しいか。先程までの盛り上がりとは打って変わって、会場一瞬でありえない程静かになっていた。その静かさはと言うと、メイゲルの問題発言があった時の数段上を行く物だった。
そして、戸惑いによる静寂が会場を占める中、しばらくしてゴルギ先生が戸惑いながら試合終了の合図を出す。
『…………C、Cクラス全員が結界外へ転移! よ、よって勝者、Fクラス!』
「「「「………………………………」」」」
ゴルギ先生がそう宣言した後も会場は静寂に包まれていた。




