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黙示録のラッパ吹き 〜魔法師世界で魔法が使えない少年〜  作者: 岩月敬一
学年別クラス対抗戦編
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第四十四話 ですよね、メイゲル


「グレイプレ様、準備は出来ています」


 『学別戦』の開催に伴って『ラーンベルト学園』の学園内で行われている祭り。そのおかげで学園はかなりの賑わいを見せているが、だからと言って学園のすべてに人が賑わっている訳ではない。


 校舎と学園を取り囲んでいる高い塀の間。日光は間接的にしか届いてないため薄暗く、普段から生徒が近寄らないような場所に三人の男、グレイプレ、デリコル、ラタルの三人が向かい合うように立っていた。


「分かった。…………今日の作戦が上手く行けばようやくあの方がお目覚めになる。どれだけこの日を待っていた事か……」


 デリコルの言葉に、グレイプレは珍しく笑みを浮かべながら答える。彼の主が殺されてからまだ一年弱しか経っておらず、時間はあまり経っていない。だが、それでもグレイプレにとって今日は待ちに待っていた日なのだ。


 彼は主と直接話した事は無く、遠くからしかその姿を見た事がなかった。だが、遠くから見ていただけでも分かる程の崇高さ、精強さ、そして轟く名声。彼はそんな偉大な主を異常なまでに崇拝し、その主の下で戦えて幸せだった。


 だからこそ、そんな主が殺されたと聞いた時は絶望した。一時期は食べ物が喉を通らず、この世のすべてがどうでもいいとさえ思えた程だ。

 だが、今はその時とは真逆の気分でいる。むしろ気分が昂揚して堪らない。もうすぐ主のお役に立てる、主の事を助けられる。そう思うだけで彼は叫びたい気分になっていた。


 だが、彼等はもうすでに敵陣の中にいる。いつまでも興奮状態でいるわけにはいかない。少し落ち着きを取り戻してからグレイプレは作戦内容の最終確認を始めた。


「ふぅ、ではもう一度作戦の内容を確認する。目標はSクラスのイリーネ・ユグドラシル。ラタルとデリコル、お前ら二人の『固有魔術』を使い機を伺って対象が一人になった所を拉致する。拉致した後はアジトに戻りベンゼルと合流し対象の血を抜く。

 そして血を抜き終えたら即座にアジトを爆破し再びお前達の『固有魔術』を使いながら速やかにこの国から出る。

 一番警戒すべきなのは今日この学園に来ている『黙示録のラッパ吹き』の団員二人だが、幸いにもその二人はあの集団の中でもっとも索敵や追跡の類を不得手としている連中だ。お前達の『固有魔術』を使っている限り必要以上に警戒はしなくていい」


 最終確認の最後にグレイプレは今日ゲストとして来ているメイゲルとメリアの事をあまり警戒する必要は無いと伝えたのだが、同時にこの最終確認によって『黙示録のラッパ吹き』の二人がこの学園に来ている事を再認識した彼は心の底では焦り、その二人の情報を掴めないでいた事に心底後悔していた。


 グレイプレは作戦を立案したり実行したりする際、情報収集はこれでもかというくらい行う。その甲斐あっていつも集めて来ていた情報に漏れは一切無く、完璧だった。なのでまったく慢心せずに情報収集を行った今回もいつも通り完璧に情報を集めきれた思っていた。


 しかし蓋を開けてみればよりにもよって今回の作戦で、しかも『黙示録のラッパ吹き』に関する情報が集められていなかった。その事実に気付いた時グレイプレは最初作戦を断念しようと考えたが、魔族内での情勢や人間達との睨み合いなどの様々な事情を鑑みて、予定通り今日作戦を実行する事にした。


 何故こんな大事な情報を自分は把握出来ていなかったのかと後悔し、同時に不思議にも思ったが作戦をこのまま実行すると決めたからには、覚悟を決めるしか無かった。


 過去に戦場で見た『黙示録のラッパ吹き』に対しての恐怖は消えていない。しかし、それでもさっき部下の二人に言った通り今日来ている二人は索敵や追跡の類を不得手としている。ミス無く行えばまず見つかる事は無いのだ。


 そう自分に言い聞かせたグレイプレは部下二人にバレないように覚悟を決め、腹をくくり二人に合図を出す。


「それでは行くぞ」


「「はっ」」


 そうして三人はその場から忽然と姿を消した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

 メイゲルの言葉によって先程までの盛り上がりが嘘のように静かになっている会場。メイゲルの言った事は一般客も含めたほとんどの観客が知っていて、一般客も疑問を持っているとはいえ誰も大きく声を上げた事は無かった。


 そもそも一般客にとって、たとえ勝敗が分かり切っていたとしても魔法に関わる事が少ない彼等からすれば魔法による戦闘を間近で見られるのはそれだけでそれ以上無いほど興奮出来る物だ。そのため夏達が街で出会ったエリーゼ同様彼等はFクラスを軽蔑、または笑い者にしようとする意思は無い。


 ただもし大会の構造について意見をして学園の貴族達に目でも付けられたりしたら弱い立場である自分達は貴族から何らかしら処罰を食らうかもしれない。その事を恐れていたため疑問に思っても言い出せなかったのだ。


 そのような理由から今まで一般客からも指摘が入らず大会の構造について触れる事はタブーであると暗黙の了解になっている。それなのにその事を大々と、しかも今や伝説となっているメイゲルが言ってしまえば最悪な空気になることは簡単に想像出来る。


 メイゲルがそれでも構わずこのタイミングで言って会場の空気を壊したのは彼がゲストとして学園に来た目的の一つをいち早く果たそうという彼の真面目さも理由の一つだが、何よりも彼の空気の読めなさが原因だった。


 そんな空気の悪くなってしまった会場で、スピーカーから優しげな女性の声が聞こえて来た。


『ふふっ、すみません。今のは彼なりの冗談、いわゆるブラックジョークというやつですね。彼ブラックジョークを言ったことが今までに無かったのでどこまでが許容範囲か分からなかったんです。

 この様な事態になるから初めてをこの様な場で言うべきでは無いと彼に言いつけていたのですが、どうやら初めてのブラックジョークを言いたいという欲が勝ってしまったようです。ほら皆様も知ってらっしゃる通り彼、天然ですので。今回の発言も彼の天然から意図せず出てしまった物です。ですよね、メイゲル』


 そう、メリアのフォローだ。


急に爆弾発言をしたメイゲルに驚き、何も出来なくなるのが普通だが、メリアは長年彼と一緒にいたためすでに何回もこのような場面に遭遇している。そのためメリアは今回も迅速にメイゲルのフォローを行えたのだ。


 だが、いくら慣れているとはいえ今回のメリアのフォローはかなり苦しいものだ。そもそも状況がかなり厳しいためフォローの質が落ちるのも仕方がないのだが、ともかくこんな物で会場の空気が元に戻る事など本来ならありえない。


 だが、フォローする相手がメイゲルである今回に限って言えば十分にありえるのだ。


『……は、はい。皆様、急によく分からない発言をしてしまい申し訳ございませんでした。自分といたしましては初めてのブラックジョークに挑戦しただけなのですが、まさかかなり不味い事だとは思っていませんでした』


 メリアから向けられた圧に、メイゲルは少し圧倒されながらメリアに話を合わせた。二人の事を何も知らなければ違和感しか覚えない言い訳だが、この会話を聞いていた観客達、特に学生は……


「……そ、そういえばメイゲル様って天然な事で有名だよな?」


「あ、ああ。色んな国での催しでも天然なご行為をされて笑いを取られていたはずだ」


「じゃあ今回もメイゲル様の天然が発動しただけって事なの?」


「私はそう思うわ。すぐにご自分の発言を撤回されてるし、今までのメイゲル様の印象から考えるとメリア様のお話に違和感はまったく無いもの」


「そ、そうだよな。そもそもこの大会って『学園』の上のクラスがいかに優秀かを外にアピールするための場っていうのは暗黙の了解だしな。それをメイゲル様が承知してない訳がねえか」

 

 基本的に『黙示録のラッパ吹き』は団長である【第七のラッパ】と副団長である【第六のラッパ】以外は表舞台に立つ事が多く、世間が認知しやすい所で活動してる事が多いためそれぞれが世間からある程度決まった印象を持たれている。


 例えば【第三のラッパ】ブレイズ・コルナは規則や礼儀に厳しい男性。【第一のラッパ】メリア・グレイシアは聖母のような優しさを持つ女性。そして【第二のラッパ】メイゲルが持たれている印象は『天然』だ。


 普通なら、いくらメリアとは言えこんなフォローで上手く行くはずは無い。だがメイゲルのその天然さは市民の間で有名で、彼は今までその天然さを色んな所で発揮して来た。今回もそんな天然が出てしまっただけだと観客達は解釈したのだ。


『あっ、すみません! どうやら時間が押してしまっているようなのでお二方のお話はここまでにさせて頂いて早速一年生の部一回戦第一試合を始めようと思います。それでは両クラス、選手の入場です!』


「「「「うおおおおおおおお!!!!」」」」


 メリアがフォローを入れてから一、二分時間が経ち会場の雰囲気が少し和らぎ、落ち着いたのを確認してからデリヤはすかさず選手の入場を大声でアナウンスした。ある程度空気が和らぎ会場が一番盛り上がれそうな絶妙なタイミング、さらに先程のメイゲルの言葉を掻き消すようなテンションのアナウンス。その二つによって観客は序盤の盛り上がりを一瞬で取り戻した。


 流石は学園の重大な大会の司会を任せられた人物。司会という仕事に関しての技術が相当高いのが分かる。

 まあ、魔法師がそこまで司会の能力を高めてどうなるつもりなのかというのは疑問ではあるが。


 そして、そのデリヤのアナウンスと共に第一試合の選手が両側の入場口から入場する。


 この会場の作り自体は至ってシンプルだ。この学園の敷地の半分はこの会場が占めており、会場の端からもう片方の端までギリギリ見えないぐらい大きい。そして大きさ以外で目に見えて違うのは観客席が取り囲んでいる戦闘場所は円形では無く正方形で、そこに張られている結界は事前に設定していれば結界内を好みの地形に変える事が出来るという従来決闘で使う結界の強化バージョンという事だ。


そんな会場に両側の入場口から入る両クラス合わせて20名の選手。片や一年生のちょうど真ん中に位置するクラス。片や一年生の最底辺に位置するクラス。ほとんどの者から見て勝敗は明白だ。そのため観客達は勝敗では無く毎年恒例のFクラスによるお笑いを楽しみにしていて、その事に気付いているFクラス代表のほとんどの面々は入場している最中も気は沈んでいた。





 ちなみに、一般客にとってFクラスはこの学園に入学出来ている時点で雲の上の存在なので、彼等が笑いを取る事に対して馬鹿にしようとする意思は無く、「Fクラスは毎年自分達の身を削りながら観客を笑いの部分で楽しませてくれる」という風にしか思ってない事を最後に付け加えておく。


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