第三十八話 俺と違って……
「「「「犯罪者! 犯罪者! 犯罪者! 犯罪者!」」」」
鳴り止まない犯罪者コール、その雰囲気に満足の行っているマイエル、クリス、ボヨン。
この光景はやばいな。この学園は魔素量至上主義どころじゃ無い。下の者を絶対に認めてはならないっていう風潮が出来てる。レグリアがトップなのにこの状況って……やっぱこの学園に来といて正解だったか。
「……ふむ、これはメクルがありもしない事で罵倒されているという事でいいんだな?」
考え事をしている俺の隣で立っているドリアドが聞いてくる。その声からはハッキリとした怒気が感じられた。
自分への罵倒には気付かなかったのに友達への罵倒には気付くってのは何ともこいつらしいな。
「ああ、そうだな。まあ、どう考えても言いがかりだな」
「ふむ、やはりそうか…………すまないナツ。今回の決闘でお前の出番は無さそうだ。友人がありもしない事でここまで言われているのだ。何もしない訳にはいかない」
そう言いドリアドは前に進む。メクルの事を犯罪者と呼び、この状況を作り出したマイエルただ一点を見つめて。
「ふははははははっ! さあ、Fクラスのクズよ! 自分の悪行がバラされた…「黙れ!」
「「「「!!」」」」
そして叫んだ。マイエルの言葉を遮って。そしてその叫び声に気圧されたマイエルや犯罪者コールをしていた観客は一気に黙った。その事を確認したドリアドは続ける。
「何なのだこの状況は! 何故メクルの事を認めない! ただただ下のクラスというだけで相手を蔑むのが正しいのか! その蔑んでいた相手が実は強かった事が認められないからありもしない事を事実として罵倒するのが正しいのか! リークレッド王国最高峰の学園だと聞いてここに来たが所詮は愚鈍な者の集まりのようだったな!」
驚きだ、ドリアドが怒ってる所は初めて見た。普段は厳格な雰囲気を纏ってるけど根はかなり優しいからな、人に怒るなんて滅多にして来なかったんだろう。でも、優しいからこそこの状況で怒った。友達を思うからこそこの状況で怒ったんだ。馬鹿だけどあいつはやっぱいい奴だ。
この状況になっても怒るんじゃなくて自分の目的しか考えてない俺と違って…………
「はっ! Fクラスのテメェに言われてもなんとも思わねえよ! 所詮は雑魚なんだからよ!」
そこで観客の一人がそう叫ぶ。ドリアドが言い返せない事を言ってやったかのように。
「……そうだな。では、これからは俺が一人でお前達の相手をしよう。それで勝ったなら文句はあるまい?」
「なっ! お前一人でだと!? 舐めるなよドリアド・ドドンガ! 違法薬物を使ったそいつならまだしも俺達がお前なんかにやられる筈ねえだろ!」
ドリアドが一人で戦う、その事に憤ったクリスは言い返して。そしてボヨンとマイエルもそれに続く。
「ふふっ、我が友クリスの言う通りだ。貴様如きに遅れをとる余達では無い」
「そうだな、ボヨンとクリスの言う通りだ。落ちぶれたお前なんかに負ける俺達では無い。お前なんか俺一人でも圧倒出来るぞ」
「ふむ……お前の仲間の事は知らんがマイエル、お前は中等部の時に一度も俺に勝った事が無かったはずだが? それでも俺に勝てると言うのか? さてはお前、俺と同じで頭が悪いな」
ここでドリアドは満点の挑発をする。多分マイエルが怒る一番挑発だ。ただまあドリアドが満点の挑発を出来る奴だとは思えないから天然だとは思うけど。
「なっ! 貴様如きが俺を挑発するな! 俺は貴様より格段に強くなったんだ。今その事を証明してやる! "魔剣現出"、"地獄鳳火"!」
マイエルがそう叫んだ途端、彼の手には炎で作られた両手剣が握られ、彼の前に描かれた魔法陣から紅の鳥が現れた。その大きさは両翼が決闘場の端から端まで届くほどで、高さも三メートルはある。まるでフェニックスを彷彿とさせるような鳥だ。
「うおおおおおお! マイエル様の最高威力の魔法だ! すげええええ!」
その鳥の出現に観客の一人が興奮した声を上げる。
「行けぇぇぇぇ!」
その鳥は双翼を羽ばたかせながら真っ直ぐドリアドの方へと向かって行く。威力を軽減せずに当たったら即負けになる。いや、そもそも並の魔法師では威力を軽減させる事さえ出来ない威力だ。
しかし、その攻撃を受けようとしているドリアドはまるで涼しい顔をしている。
「メクル、すまないがここは俺に任せてくれたまえ」
「う、うむ。かたじけないのである」
「"魔剣現出"、"雷下しだれ桜"」
ドリアドの両手には雷で出来た二メートル程の大剣が握られ、彼の前にはドリアドを守るように紅の鳥にも負けないくらい巨大なしだれ桜が出てきた。ただ普通のしぐれ桜と違うのは、その桜の花びら、幹、枝を含むすべてが雷で出来ているという事だ。
《ゴオオオオオオ》
その雷の桜の木に炎の鳥が衝突した瞬間、猛々しい音が響き渡る。だがその音も一瞬の事、その音はすぐに止むことになった。
炎の鳥が雷の木に衝突した瞬間、鳥はどんどんその大きさを縮めていった。そしてそれに相対して雷の木はまるで炎の鳥を吸収するかのように大きくなっていったのだ。
「くそっ!」
その光景にマイエル大きく悪態をつく。正直俺にはその光景の詳細がすぐには飲めこめなかったが、マイエルは何が起こったのか一瞬で理解したらしい。
「やはりまだ俺の"雷下しだれ桜"は破れないようだな。では、この無駄な決闘ももう終わりにしよう…………"降りし雷桜花"」
そして雷の木が炎の鳥を完全に吸収しきったのを確認し、ドリアドは次の魔法を繰り出す。
すると、最初の段階からかなり巨大化していたしだれ桜から雷の花弁が舞い散る。それはゆっくりと、しかし確実にマイエル達の方に落ちていった。
「ま、まずい! クリス、ボヨン! 今すぐ防御体制を整えろ!」
その技の正体に唯一気付いたマイエルが二人に指示を出す。
「だがマイエルよ。余はこんな技知らないぞ。しかもこんなゆっくりと落ちてくる花弁のなにが脅威なのだ?」
「いいから防御体制を整えろボヨン! この魔法は中等部の時にあいつが本気を出した時にだけ放つ魔法だ! Fクラスに入るくらい落ちぶれたと思っていたがまさかまだこの魔法が使えたのか!」
「無駄だマイエル。お前の魔法では防げない事は十分知っているだろう」
「黙れ! Fクラスが知ったような事を言うな! 俺はあの頃から大幅に強くなったのだ! "地獄鳳火"!」
ドリアドの言葉を否定する様にマイエルは彼の最高威力の魔法を花弁に放った。そしてマイエルのその焦り様に釣られボヨンとクリスも魔法を放つ。
「"水龍双頭獄水砲"!」
「"土巨岩弾砲"!」
しかし
「なっ、そんな馬鹿な! 余の水魔法があんな花弁一枚に消されるなんて!」
彼等の魔法は"降りし雷桜花"の花弁一枚に一切歯が立っていなかった。無数にある花弁のうちの一つに、だ。決してマイエル達の魔法が弱いわけでは無い。ただマイエル達の魔法を打ち消すくらいドリアドの魔法が強すぎるのだ。
「これで終わりだな」
自分達の最強の魔法を簡単に打ち消され、なす術をなくしたマイエル達は放心状態になりそのまま……
「「「ぐわああああああ!!!」」」
数枚の花弁に触れて倒れていった。まるで高電圧により感電したかの様に。
マイエル達が場外へ転移された事を確認して審判の先生が決着の言葉を叫ぶ。
「ボヨン・ボヨヨン、クリス・ヘイゼル、マイエル・クラシコの敗退を確認。よって、この決闘の勝者はドリアド・ドドンガとする!」
その宣言に観客から歓声はほとんど聞こえず、ただ静寂だけが会場を埋め尽くしていた。




