第三十六話 やってくれたなメクル
「"粒火波"!」
「"水流障"!」
メクルの放った炎の小さな波をボヨンは水の壁を作って防ぐ。やはりメクルの魔素量の方が少ないせいか、メクルは先程からボヨンを崩せずにいる。
決闘が始まってから、今の所メクルとボヨンしか魔法を使っていない。作戦で一人で戦うことになっているメクルとFクラスに負けるわけにはいかないボヨン、その二人の攻防によって自然とこの形が出来上がったのだ。
「"水道波"!」
「くっ、"火炎粒獄砲"!」
ボヨンの水の波による質量で押す魔法に、メクルは炎魔法をぶつけて相殺しようとした。
「くっ、やはりダメであるか!」
だが、いくら魔法の特性では炎魔法の方が威力は高いとは言え、魔素量ではボヨンが勝っている。そのためメクルの魔法はボヨンの魔法を相殺しきれず、メクルは右に飛びながら回避した。
「ふはは、やはり所詮はFクラス。Bクラスの余に勝てる筈などない! だが今の余とほぼ対等に渡り合っているのも事実。正直あまり気は進まんが、お前に余の本気を見せてやろう! "魔剣現出"、"水球乱舞"!」
「なっ、これは!」
すると、ボヨンの手には水の槍が握られ、メクルの周り辺り一面に水の球がいくつも浮かんだ。
元来魔法は自分の位置からしか、放つ事が出来ない。自分の遠くから魔法を放てるのは多様性に長けた水魔法を操る事が出来る人でもそこまで多くない。なのでメクルはボヨンの遠くにも水の球が浮かんでいる事に心底驚いている様子だった。
「行け!」
そしてボヨンはその水の球を一斉にメクル目掛けて放つ。水球はメクルに近づくに連れ速度を上げ、反応が遅れたためかメクルがその球を避ける時間は残されていなかった。炎魔法を放って防ぐ程の時間も無い。
そのため会場中にいる全員がメクルの脱落を確信した。しかし……
「くっ、"雷上光"!」
突如としてメクルの周りに現れた無数の雷の柱によって無数の水球は阻まれたのだ。
「なっ! 余の"水球乱舞"が防がれただと!?」
雷魔法は全属性の中でも速度はピカイチだ。そのためあのタイミングでもボヨンの攻撃を防げた事は理解できる。
ただ、問題はあの威力だ。属性の威力だけで言えば雷魔法が水魔法を防いだ事は理解出来る。ただ人にはそれぞれ得意魔法、言い換えれば適正魔法という物があるのだ。
人は生まれた時からそれぞれどの属性が得意かが決まっていて、それ以外の属性の魔法は格段に威力が落ちる。実技試験でのステファニー先生がいい例だ。
ただ問題はここからだ。大抵の場合、適正魔法は一つに限られる。その為、ボヨンの得意魔法である水魔法とほぼ対等に渡り合っていた炎魔法があいつの得意魔法だと思っていた。だが、メクルは雷魔法でボヨンの水魔法を防いで見せたのだ。
こんな事普通はありえない。今までの戦闘を見て来たから分かるけど、メクルの魔素量はボヨンより多くはない。つまり得意魔法でも無い限りボヨンの攻撃は防げないんだ。じゃあ何でメクルがボヨンの魔法を防げたのか、その答えは一つしか無い。
「そ、双属適正者……」
観客の誰かがそう言った。そしてその誰かが言った通り、その『双属適正者』以外考えられない。『双属適正者』、これは文字通り適正魔法が二つある魔法師の事を指す。
特別な名前が付けられているため分かると思うが、これは非常に珍しい。『双属適正者』は千人に一人と言われてるぐらい、つまりこの学園に一人いるかいないかくらいだ。
そんな人物が一年のさらにFクラスにいる。その事が信じられないのか、戦闘中のボヨン含め、会場は静寂で埋め尽くされた。
「くっ、デタラメだ! たまたまに過ぎない! こうなれば余の最高威力の魔法をぶつけてやる!」
そんな静寂の中、最初に言葉を放ったのはボヨンだ。戦闘相手のFクラスがまさかの『双属適正者』という事は未だに信じられないだろうが、それでも彼は気を取り戻した。
「そ、その体型で出来る事があるなら、か、掛かって来いなのであるよ!」
そんなボヨンの放とうとしている攻撃をメクルは魔法で受ける準備をする。
そしてまだ作戦通りに挑発しようとしてるが、声が震えててもはや挑発になって無かった。
「喰え! "水龍双頭獄水砲"!」
ボヨンが書いた魔法陣から出てきたのは二体の巨大な龍だ。それぞれが東洋の神話に出て来る龍の形をしており、見た所威力はボヨンの中でも最大級の物だ。メクルの今までのどの魔法もあれを防ぐ事は出来ない。
その二体の龍は出現するのと同時に勢いよくメクルに向かって進み、その巨大な顎でメクルを呑み込もうとした。
ボヨンのこの判断は正しい。『双属適正者』の強みは二つの属性を使える事による多便制。二つの属性を上手い具合に使い分けて相手を翻弄するのがセオリー。
つまり、威力は元の魔素量による所が大きいという事だ。今までの戦闘でメクルの魔素量がボヨンに劣っている事は明白、つまりボヨンの最大威力の魔法をメクルは止める術が無いんだ。
今回ばかりはメクルに防ぐ手段は無い。そう思ったから俺はメクルを助ける為に間に入ろうとした。でも、その時メクルの顔が一瞬目に入った俺はつい動きを止めてしまった。
《ドゴオオオオオオオオオオ》
そしてボヨンの魔法がメクルに直撃した。かなりの威力だったんだろう、土煙が上がってメクルがどうなったのかまったく視認出来ないほどだ。
「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」
そしてその莫大な威力の魔法がメクルに当たった事に歓喜したのか、会場中の生徒が歓声をあげた。みんなFクラスが負けるのを楽しみに待ってたんだ。
観客の生徒はハッキリ言って腹立たしいけど今はメクルの事で俺は頭がいっぱいだ。最終的には負けたとは言えあいつは『双属適正者』だった。たしかに珍しいけど、魔素量至上主義のこの社会ではそれでも魔素量が優先される。だからこの世の中では魔素量が少なかったらたとえ『双属適正者』だとしてもあまり評価されない。
だけど、『双属適正者』は魔素量が低くても魔法の使い方によってはかなり化ける。メクルもその一人になるかもな。まあ、今回は土煙が上がるほどの水魔法だった……か……ら……。
おかしい。水魔法で土煙? そんなの起こる筈がない、水で土が舞う筈がないんだ。威力が相当高くてその余波で土煙が上がるなら分かるけど、ボヨンの魔法にそこまでの威力は無かった。……まさか!
「あ、あの〜。某まだ負けてないのであるが……」
「「「「!?」」」」
土煙が段々晴れていく。そこには何事無かったかのように立っている人影が見えた。会場中が歓声を上げるのをやめその人影に注目し始める。だってあり得る筈が無いのだ。今の威力の魔法、メクルではどうやっても防げない。だからあいつは負けたと思ってた。
じゃあ、なんで立っていられるんだ?
「ふ、ふぅ。両親にはクラスメイトに嫌われるからこの事は秘密にした方がいいと教えられたのであるのだがな。だがこれは某の友人ドリアド氏の為。秘密にしておく方がおかしかったのである」
そして土煙は完全に晴れ、そこにはメクルが立っていた。しかしただ立っていた訳では無い。メクルの前には"水龍双頭獄水砲"を防いだ魔法が五つあった。
「おいおい嘘だろ……」
その五つの魔法の正体に俺はたまらず声をもらす。
威力の高い炎魔法、速さがピカイチの雷魔法、奇襲性に長けた風魔法、変幻自在で敵を翻弄する水魔法、そして範囲攻撃に長けている土魔法。その全ての魔法を使ってメクルはボヨンの攻撃を防いだのだ。
そう、あいつは五つの属性の魔法を同時に使った。しかも見た所それぞれに威力の差はあまり無い。つまりあいつは……
「全属性に適正がある『全属適正者』。その上違う属性の魔法を同時に使える『複法覚者』。その二つを同時に持ってるなんてこの世界に一人いるかいないかだぞ…………ははっ、やってくれたなメクル。そりゃオーズスタン先生が異常って言う訳だ」




