第三十二話 名字までデブじゃん
「何しに来たんだ?」
座っている俺の前で立っているイリーネに俺は質問をする。周りが急に静かになったけどそこはとりあえず無視だ。イリーネが俺に会いに来た理由が検討も付かないからな。
イリーネは王女だし庶民の俺とは関わらない方がいい。その方が彼女、いや俺のためになるからだ。イリーネに庶民の俺がタメ口で話しているだけでも反感を買いそうなのにその上俺はFクラスだ。もしかしたら他のクラスの奴等にいじめに遭わされるかもしれない。その事を分かってるからイリーネも俺に関わってこなかったと思ったんだけど違うのか?
「あなたがBクラスのボヨンと三対三で決闘をするって聞いたから心配して来たのよ」
「えっ、俺の心配に? あれか、負けるかどうかの心配って事か。そりゃ嬉しいな」
「…………リンドウ君それ本気で言ってる? あなたの勝ち負けなんて心配するわけ無いでしょ」
これはあれか? 俺なんか心配する価値が無いって事か? それとも俺は強いから心配しなくていいって言ってるのか? いや、まあ普通に考えてた後者だろうな。イリーネからは嫌悪感とかそういうの感じないし。
え、だとしたら何を心配してるんだ? こう言っちゃあれだけどイリーネはあんま関係なくないか?
まあ、とりあえず間違いは訂正しとくか。
「ああ、とりあえず訂正しとくと決闘するの俺じゃ無くてお前が来ても普通に弁当食べるのをやめないドリアドな」
「えっ、そうなの? リンドウ君じゃ無いのね…………」
俺がそう言うと、イリーネは少し驚いた表情を覗かせて、口に手を当ててしばらく考えた素振りを見せてからドリアドの方を向いた。
「いや、やっぱり心配だわ」
「…………うむ、イリーネよ。俺が心配とはどういう事だ?」
イリーネに顔を向けられて、一旦食事を止めたドリアドは疑問に思った事を聞いた。
「まずドリアド君、あなたの実力は確実にSクラスでも上位に入れるほどだわ。それは私が保証する。なんでFクラスになったのかほんと学園側による不手際を疑うくらい」
「ああ、それはドリアド氏が筆記試験で0点を取ったからでありますよ」
「…………………………え?」
メクルが弁当を摘みながら答えた。ていうかこいつ王族のイリーネがいても全然ビビってる様子無いのすごいな。
そしてそんなメクルの説明が信じられなかったんだろう、イリーネはしばらく固まってから聞き返した。そんなイリーネのためにメクルがもう一度説明をする。
「いやだから、ドリアド氏が筆記試験で0点を取ったからでありますよ王女殿下」
「ええ!?」
いや、まあそりゃ驚くよな。だってあの常識問題で脅威の0点だもん。普通あり得ないって。
「………………いや、そうね。あなたなら普通にあり得たわ。あなた昔からそういう所があったから。大会の開催時間が分からなくて遅刻してきたりお金を数えられなったり、相当酷かったわね」
と、思ってたら意外とすぐ受け入れたな。そうか、中等部の時からドリアドに関わって来たからドリアドの常識の無さをある程度知ってるのか。
「まあそれなら納得ね、じゃあ話を戻すわよ。ドリアド君は本来ならSクラスでも上位に値する実力を持ってる。そんな相手にいくらBクラス程度のボヨンが人脈を使った時点で勝てるはずがない。私が心配してるのはこの先よ。ドリアド君、あなたの家の爵位は?」
「ん? 子爵だが?」
「そうよ、そして………………」
話を続けようとしたイリーネだが一回言葉を止めて、後ろの方を向き腕組みをする。なのでイリーネに釣られて彼女の後ろを見てみると、そこには聞き耳をものすごく立てている生徒達がいた。
王女であるイリーネがFクラスの俺らにどんな用事があるのか気になるのだろう。そんな生徒達にイリーネは言い放つ。
「先輩方が大多数のようなので敬語で言わせて頂きます。人の会話を盗み聞きしようとはどういう了見でしょうか? この学園の生徒はそんな常識の無い人しかいないのですか? 十秒だけ待ちます。私に目をつけられたくなかったら今すぐこの屋上から立ち去ってください」
「「「「は、はい!」」」」
イリーネがキツく言い放つと、屋上にいた二十数名の生徒は一気に屋上の出入り口へと駆けて行った。
あ〜あ、皆が一気に出入り口に向かったから物凄い渋滞が出来てるよ。大丈夫か? あれ。
そんなにイリーネに目をつけられたく無いのかよ。ていうかこいつさりげなく王族の特権使いやがったぞ。そういうのは嫌いなタイプかと思ったけどそうでも無いのか? ……いや、違うか。上手く活用してるって言った方が良さそうだな。
「さて、人もいなくなったし話を続けるわね」
「「「「ははっ」」」」
人が完全に掃けたのを確認して何事もなかったかのように話を続けるイリーネに俺達は乾いた笑いを漏らすが、イリーネはその事を気にする様子は見せなかった。
「ドリアド君の爵位は子爵、そしてボヨン・ボヨヨンは伯爵家よ」
「ええ、マジか! ……あいつボヨヨン家だったんですね……」
「まあ、知らないのも無理は無いわね。ボヨンはほとんど社交場に出てこなかったから」
イリーネがボヨンのフルネームと爵位を言うと、ソウが大声をあげて驚いた。ソウだけに限らずメクル、クララ、ライアも驚いていた。唯一驚いてないのはドリアドと爵位がよく分かってない俺だけだ。いや、それにしても……
「ぷぷっ、あいつ名前だけじゃ無くて名字までデブじゃん。ぷぷっ」
「……アホかナツ、そんな事言ってる場合じゃねえよ。ドリアドが子爵、ボヨンが伯爵っていう事はボヨンの家の方が位が一つ高いんだ」
そんな俺に呆れたようにソウが説明する。
「…………それが?」
あまり意味が分からなかった俺は続きを促した。
「つまりドリアドが勝った場合何かしらドリアドの実家に圧力をかけるって事なんだよ」
「はあ? なんだそれ。完全に横暴じゃねえか」
えっ、なに貴族ってそんな横暴で許される人達なの?
「まあ、普通の貴族はそんな簡単に権力を振りかざさないし出来ないけどね。ボヨヨン家の横暴さは有名なのよ。そのせいで領民からもかなり嫌われてる。その上かなりの親バカ。何かされるのは覚悟した方がいいわね」
「なるほど」
イリーネの説明で合点が行ったぞ。いや、まあよく分かってないんだけど、要するにボヨヨン家はとんでもない貴族って事だ。えっ、ていうかそれなら……
「じゃあさ、そんな横暴なら爵位剥奪とかは出来ねえの?」
「そんな簡単に出来るわけないわよ。ボヨヨン家は横暴だけど法には違反して無いの。そんな貴族から爵位を剥奪してみなさい、一気に国中の貴族から反感を買うわよ」
うわ〜、貴族面倒くせえ。
「ちなみにドリアドはこの事を承知で喧嘩を売ったのか?」
「ははっ、なにを言うかと思えばナツよ。面白い事を言うな!」
ああ、よかった。そこら辺はちゃんと考えてたみたいだな。皆もドリアドのこの反応を見て安心してるみたいだ。
「そんな物、頭の悪い俺が考えていたわけが無いだろう! 本当に面白いなナツは!」
「「「「……………………」」」」
いや、そんな自信満々に言われても困るんだけど。
ほら皆を見ろよ、完全に固まってるぞ。はあ、馬鹿だった。こいつに頭の良さを求めた俺達が馬鹿だった。
「…………そ、そうね。まあドリアド君の事だからそうだろうとは思ったわ。で、問題はボヨヨン家から確実に来るであろうドドンガ家への圧力をどうするかって事よ」
「……………ああ、いや。それなら俺に伝があるんだけど」
「「「「えっ?」」」」
俺が手をあげながらそう言うと、皆はまたまた驚いた表情を見せた。そんなに驚いた顔をして疲れないんだろうか。




