第三十話 おっと、これはすごい条件だぞ
「ふふっ、遺憾だと? 何を言うかと思えば。今余が言った事は事実であろう。それに余の愚行だと? 余はこの者を幸せにしようとしているだけであるぞ? この行為が愚行なものか」
「まあ、話を聞け」
ボヨンの、馬鹿にしきったような口ぶりにドリアドは気にした様子を見せずに自分の提案を口に出す。
「俺の提案は簡単だ。学園の決闘制度を利用しようではないか」
「決闘制度だと?」
決闘制度。それは『ラーンベルト学園』に存在する、簡単に言えば揉め事を魔法による実力で解決しようという制度だ。勝者は事前に用意していた条件を相手に飲ませることが出来る。両者の承認が必要で、ルールは自分達で決める事になっている。まあ、大体は結界の中で生徒同士の一対一が行われるわけだが。
場所は決闘場で行われる。決闘場とは学園で一番大きな闘技場で、観客席は全校生徒が入れるほどの大きさを有している。今まで何回か見てきたから分かるが、一般生徒にとっては中々見応えのある物だ。
「ああそうだ。ルールはそちらが決めても構わない。ただ、それぞれが勝利した時に相手に飲ませる条件はこちらで決めさせてもらう。こちらが勝った時の条件は、もう二度とこのように一般市民の女性に対して無理矢理迫らない事だ」
「はっ、何を言うかと思えば。そんな物、余が受けるメリットが無いではないか」
「まあ、最後まで聞け。そちらが勝った時俺が飲む条件、それは俺が一生お前の命令を聞くという事だ」
「「「「!?」」」」
おっと、これはすごい条件だぞ。簡単に言えば自分が奴隷になるって言ってるような物だ。ソウ達はまだしも決闘制度をよく知らないであろうエリーゼさんまで驚いてるし、これは思い切ったな
「ほお、それは面白い」
最初は聞く耳持たずといった雰囲気のボヨンだったが、条件を聞くと目の色を変えてドリアドの方を見た。
「言わばお主を余の奴隷に出来るという事か」
「ああ、そうだ」
「ふはは! 面白い、乗ったぞドリアド・ドドンガ! よかろう! では決闘は明日、ルールはそうだな…………三対三の団体戦と行こうでは無いか! 中等部の栄光がそこまでお主を図に乗らせたか! 明日を楽しみに待っているぞ! 行くぞ、カマス、ケメス! 余は残り二人の仲間を探さなければならないからな!」
「「はっ!」」
そうしてボヨンとその配下二人は人だかりに道を開けさせ、その場から立ち去った。そしてそれに釣られて、あたりの人だかりも徐々に解散していった。今ここに残っているのは俺達とエリーゼさんだけだ。
「ドリアド氏、正気であるか!?」
ドリアドの出した無茶な条件が信じられないと言った感じでメクルはドリアドに問い詰める。
「うむ、正気だとも。SやAならまだしもボヨンはBクラス。俺はまったく負ける気はしないな」
「ドドンガさんはボヨンに勝てるとして、あと二人はどうするんですか? ドドンガさんにBクラス以上の人のあてがあるとはあまり思えないんですが」
「クララの言う通りだよ。あいつは多分Bクラス以上の仲間を連れてくるだろうし、ドドンガ君は今の所頼れるのが私達しかいない。正直分は悪いと思うよ」
クララとライアの言ってる事はごもっともだ。ドリアドが仲がいいのはFクラスの中でも俺達だけで、他クラスと仲良くしている所を見た事が無い。実力者同士『栄光の世代』と仲がいい可能性もあるが、今の所彼等とドリアドが仲良くしてる所を見た事がない。
つまりドリアドはFクラス相当の仲間しか呼べずに負けてしまう可能性がある。それが一般的な考えなんだ。
「いや、そうでも無いぜ」
でもソウと俺の考えは違う。少なくともオーズスタン先生は俺達を異常者と呼んだ。つまり、ソウとメクルにもなんらかしらの実力があるはずなんだ。
その俺の気持ちを代弁するかのように、ソウが口を開いた。
「俺とナツ、あとメクルの実力は保証出来るぜ」
「……ああ、そういえばオーズスタン先生がそんな事言ってたね。でも私まだ信じて無いよ。だって実力があるならFクラスなんかにいるはずないもん」
「安心しなってライア。大丈夫だから」
「う〜ん、そうなのかな……」「あの〜」
ライアが一旦納得しかけたその時に、エリーゼさんが会話に入ろうとしてくる。
「あっ、ごめんなさい置いてけぼりにして。大変でしたね」
それに気付いたライアが会話の流れのまま全員を代表として話す事にした。
「いえ、皆さんのおかげで助かりました。ありがとうございます。皆さんはあの『ラーンベルト学園』の生徒なんですか?」
「そうですよ。まあ、最底辺のFクラスですけど」
「いえ、『ラーンベルト学園』に入れただけでも十分すごいですよ。なんて言ったってこの国最高峰の魔法師養成学校なんですから!」
ライアが自嘲する様に言うと、エリーゼさんはその自嘲を真っ向から否定した。Fクラスの学園での扱いを知らないからこう言っているのか、それともたとえFクラスだとしても『ラーンベルト学園』に入れた事はすごいからこう言ってるのか。
まあ、両方だろうな。
「そういえば婚約者の方はどこにいらっしゃるのであるか?」
と、ここでメクルが話題を転換する。Fクラスの立場からすれば、褒められ慣れておらず恥ずかしいのだろう。
「あっ、マリックなら買い出しに行ってもらってるんです。いつもはマリックとお父さんが店にいるんですけどちょうどいない時にあの人に嫁に来いと言われてしまって…………」
「…………ああ、それは本当に災難でしたね。まさかそんな悪いタイミングであいつに遭遇するなんて。……ところで、俺達はもうそろそろ学園に戻ったほうがいいんじゃないか? ちょっと長居しすぎたみたいだし」
「あっ、待ってください。せめてお礼にパンでもいかがですか? せっかく助けてくださったのになんのお礼も渡さないようじゃ申し訳がありません」
ソウの提案で帰ろうとした俺達をエリーゼさんは呼び止め、まるでお礼をさせて欲しいとお願いしているような口調で言った。
「いえ、お気になさらないでください。私達は当然の事をしたまでですから。それにもうそろそろ門限が近いので帰らなければならないですし」
「そ、そうですか…………ではまたお時間が空いていらっしゃる時にお越し下さい」
クララの言葉にエリーゼさんは渋々納得した。彼女としては助けてもらったお礼を今すぐにでもしたいのだろう。
「はい、ありがとうございます。では」
そしてクララの言葉に続き、俺達は手を振りながら寮の方へと戻って行った。




