第三話 魔素量試験
「ええと、試験官のオーズスタンだ。よろしく頼む」
そう言ったのは、俺も含めた入学希望者全員の前に立っている、無精髭でボサボサ頭のやる気の無さそうな男だ。
「試験の内容は主に三つだ。筆記試験、魔素量試験、そして実技試験だ。まあ、筆記試験と実技試験はお飾りみたいな物だな。何せ魔法師はようは実力があればいいからな。頭なんてそこまで良くなくていいんだよ。で、実技試験はだな、お前ら実技なんてやった事無いだろ? やった事が無い事で入学を決めるってのもどうかって話でな。大体魔法師っていうのは魔素量で大体の実力が決まるしな。だから魔素量の得点を物凄く高くするって話だ。まあ、お飾りとはいえ二つ共しっかりとした試験だから真面目にやれよ。じゃあまずは筆記試験からだ。今からそれぞれが受験する教室を張り出すから受験番号見て移動してくれ」
オーズスタンのその言葉を聞いた後、受験生は各々の教室を確認していく。まあ、俺はさっき確認したしすぐ向かえばいいか。
そうして俺は教室に向かい、筆記試験を受けた。
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筆記試験が終わった俺は試験を受けていた教室で軽い昼飯を取っていた。ちなみに今食べているのはおにぎりだ。
そしてはっきり言う、いくらお飾りとはいえあまりにも簡単すぎだ! どれも魔法や生活に関する常識問題ばかりで、これで点数を落とす奴がいるのかってぐらいじゃないか。なんだよ『この国の通貨は?』って問題、そんなの常識問題にも程があるだろ。五歳児でも知ってるぞ! お飾りはお飾りでももっと普通の問題出せよ! 正直魔素量に関しては高得点って言うか得点する事自体が無理だからこの試験で差をつけようと思ったのに、これじゃ差つかねえだろ!
誰だよ試験作った奴、ぶっ飛ばしてやりたい!
………………ふぅ、落ち着け落ち着け。焦るな、焦っちゃダメだ。こういう時こそ冷静にならないと。
…………や、やべぇ。冷静になると改めて自分の置かれてる状況のヤバさに気付いちまう。くっ、せめて実技試験で他の奴等と大差を付けないと……入学出来ねぇ。
「続いては魔素量試験です。各自会場へ移動してください」
そうこう考えていると、この教室の試験官だった教員が次の案内を始めた。
はあ、まあ嘆いてもしょうがないか。どうせ魔素量試験は0点だし、実技試験でがんばろう。
そう思いながら俺は次の会場へと向かった。
次の魔素量試験の会場は外にある大きなグラウンドだ。そこでいくつかのグループに分けられ、魔法を放てば魔素量が分かる装置に魔法を撃ってその術者の魔素量を測るっていうのがこの試験の内容だ。
魔素量とは簡単に言えば魔法を放つ為に必要なエネルギーの事だ。魔素量が多ければ多いほど強い魔法が打てる。これは人によって量が違い、努力次第で上がる事もあるが、ほとんどは生まれ持った才能によって決まる。
ちなみに今まで何回も試して来たから分かるが、俺の魔素量は驚異の0だ。今まで一回も魔法を打てた試しがない。だから、俺が魔素量試験で0点を取るのは決定事項なのだ。
「はあ、せめて実技は筆記試験みたいな感じじゃなきゃいいな〜」
受験番号と張り出された紙を見合わせて、俺は十個あるグループのうちの一つ、Gグループの集合場所へ向かった。
「ではこれよりGグループの魔素量試験を始めます! この試験は簡単よ、あの測定装置に向かって自分の最大出力の魔法を放てばいい。ではまず最初はフィンラル・アークンハイド!」
「はい!」
Gグループの女性試験官に最初に呼ばれたのは、赤髪でツンツン頭のナイスガイな少年だった。そしてその少年が呼ばれた直後、辺りが騒めき始めた。
「あれが『栄光の世代』の一人、"灼熱のフィンラル"か」
「ああ、得意な魔法は炎魔法、俺らの世代では炎魔法に置いて他の追随を許さないほどの実力者」
「女子にすげぇモテるらしいぜ」
へぇ、あいつってモテるのか…………いや〜、自分で考えといてなんなんだけど多分気にするとこそこじゃねえな。『栄光の世代』か、たしかさっきイリーネもそんな事言われてたな。言葉からして相当強いって事か?
まあいいや、今の俺は試験に受かるかどうか分からない瀬戸際の状態だからそんな事気にしてる余裕もねえしな。
「"獄炎火炎砲"」
《ゴオオオオオオ》
「「「「おおーーーーー!!!」」」」
フィンラルが手の魔法陣から炎の魔法を放つと、周りから盛大な歓声が沸き起こった。装置の上に出た数値を見てみると、そこには2169と書かれていた。
「に、二千超え!? 毎年千を超える人が一人現れるか現れないかってぐらいなのに! すげぇ! 流石は『栄光の世代』だ!」
同じ受験生の一人がそう言ってるのが聞こえて来た。今まで0しか出した事無いから分からないけど二千超えって相当すごいんだな。
「ふむ、流石は十年に一人の逸材と言われているだけあるわねフィンラル・アークンハイド。アークンハイド家の次期当主に相応しい魔素量だったわ」
「ありがとうございます」
どうやら試験官の反応も見てみると本当に凄いらしい。十年に一人の逸材とか言われてるし。
それにしても整った顔してんな。なんとなく性格もよさそうだし。あの魔素量でこの顔だから相当モテるんだろうな。なんかモテるオーラがビンビン出てる気がするもん。モテすぎると逆に苦労するって聞いた事あるけどほんとにしてんのかな。
俺がそんな無駄な思考にふけっている間も、魔素量試験は着々と進んでいた。数値はバラバラだが、平均して400って言った所か。どうやら今年は例年よりも平均が高いらしく、試験管が少し驚いているように見える。
そしてそうこうしているうちに俺の番が来た。
「次! リンドウナツ!」
「は、はい!」
やべぇ、もう俺の番だよ。どうする、何とかして誤魔化すか?
「ではあなたもあの装置に向かって魔法を撃ってください」
「いや、あの〜、それがですね」
「ん? どうしたの?」
いや、誤魔化せないな。方法が思いつかない。しょうがない、ここは正直に言っとくか。
「俺、魔法が全然使えないんですよ」
「「「「は?」」」」
俺の言葉を聞いた試験官や受験生は全員意味が分からないといった顔をしている。そりゃそうだろ、魔法師養成学校なのに魔法が使えないなんておかしすぎる。俺でも信じられないぞ。
「いや、ですからね。俺魔法が使えないんですよ」
「それは本気で言ってるんですか?」
「まあ、はい」
「「「「…………ハハハハハハハッ!!!」」」」
しばらくの静寂の後、とてつもない笑い声がそこら中から聞こえて来た。
「なんだあいつ! 魔法が使えないらしいぞ!」
「剣なんか持ってるしほんと何しにここに来たんだよ!」
「ははっ、こりゃ傑作だ! 魔法が使えない奴なんて初めて見たぞ!」
いや、まあ気持ちは分かる。時代遅れな刀なんか持ってるしその上このご時世なのに魔法が使えないと来た。そりゃ笑い者だ。
ただ、笑いすぎじゃね? 一瞬俺、自分が無意識のうちにギャグを言ってそれが大ウケしたんじゃないかと本気で喜んだぞ。くそっ、騙しやがったな。一瞬でも喜んだこの俺の純情を返しやがれ!
「静かにしろ!」
「「「「っ!」」」」
俺の純粋な心を弄び、騙した奴等を心の中で責めていると、笑い声をかき消すような声が聞こえて来た。その声の発声主は試験官では無い。先程2169という信じられない魔素量を叩き出したフィンラル・アークンハイドだ。
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