第二十五話 なんか急用か?
食堂から出た俺達はそのまま学園の寮に行き、それぞれの部屋に入った。荷物の運搬は全員が学園の業者に任せていたため、部屋に入ったら段ボールが山積みになっていた。
『ラーンベルト学園』の寮はクラスごとに違っており、一番質の悪い寮をFクラス、逆に一番質のよい寮をSクラスが使う事になっている。ただ、一番質の悪いFクラスの寮でも、一般的な宿屋の部屋よりは幾分か質がいいため、俺はまったく苦に感じなかった。
事前に用意されていた机や本棚、結構フカフカのベッド、明るい照明、苦に感じるはずが無い。
Fクラスでこんだけ部屋の質がいいのであれば、一体Sクラスはどんな物なのか。それがとても気になる。
ちなみに部屋は個室だ。
(まあ、とりあえず荷物を整理しないとな)
そう思い俺は段ボールに入っていた自分の荷物を取り出し、それを綺麗に部屋に置いていった。
そして荷物をすべて段ボールから出し終え、ちょうどゆっくりしようとした時に、部屋の扉からノック音が聞こえた。
「はい」
「ナツ、俺だ。ソウだ。ドリアドとメクルもいる。ちょっと中入っていいか?」
「ああ、分かった。今開ける。ちょっと待ってくれ」
変な奴がノックして来たのならすぐに追い返そうと思ったが、友人なは仕方ない。俺はすぐに立ち上がり、ドアノブに手を伸ばす。
《ガチャ》
「よう」
「おう、どうしたんだお前ら。なんか急用か?」
「いや、ちょっとさっきの事で話があってな。まあ、メクルが俺達を誘ったんだが、中に入っていいか?」
ふとソウの後ろに立っているメクルを見てみると、少し気まずそうな顔をしていた。
「ん? 話? まあ、わかった。知っての通り一人用の部屋だし狭いと思うけど勘弁な」
そうして俺はソウ達を自分の部屋に招き入れる。
「おお、これはすげえな。圧巻だ」
「某もいっぺんにこれほどまでの量の剣は見た事無いのである」
「うむ、さすがは普段から剣を腰に携えている事なだけはあるな」
俺の部屋にソウ、メクル、ドリアドは感嘆の声をあげる。俺の部屋には今刀が十数本飾られており、壁を埋め尽くしていた。このどれもが、俺が昔使っていた刀だ。
刀や剣が一般的では無い今では、これほどの数を一度に見るのは珍しいのだろう。ソウ達は口を開けて部屋を見渡している。
「ああ、ちなみにこれ全部剣じゃなくて刀な」
「へえ、カタナか。なんだそれ?」
「まあ、剣と同類のようなもんだよ。…………ああ〜、悪い。やっぱ忘れてくれ」
突然刀なんて聞いたこと無い言葉を言われてもパッとしないだろうからな。なんか用があるみたいだしとりあえず今訂正するのはやめとこう。
「そうか、まあいいや。とりあえず、メクルから話があるとよ。まあ、俺とドリアドも気になってた事だから割と真面目に答えてくれよ」
「ああ、分かった」
ソウして俺らはお互いに向かい合いながら床に座った。
「ナツ氏、早速本題に入るのであるぞ」
「あ、ああ」
メクルのその真剣な表情に俺は思わず戸惑う。ソウとドリアドは想像出来たけどメクルのこんな真面目な表情は想像出来なかった。
「ナツ氏は過去に何があったのであるか?」
「…………過去に?」
「そうである。先程のクルセウス氏に向けて放った言葉、あれは我々のような普通の生活を送っている者であれば絶対に出ない言葉なのである。あんな言葉、父上からも聞いた事が無い。そんな父上の半分も生きていないナツ氏があんな言葉を放つなんて、ナツ氏が今まであの言葉が言えるような出来事に会ったとしか考えられないのである。それに先程ソウ氏に言っていた「実際に見た」という話、あれは普通に生きていたら絶対に言えない言葉なのである。ナツ氏は何者なのだ? なんであのような言葉が言えたのだ? そもそも何故魔素を持っている前提で学ぶこの魔法師養成学校にナツ氏みたいな魔素量の無い人が入ろうと思ったのであるか?」
「メクル、一気に言い過ぎだ。流石にナツもそんな量の情報処理しきれねえだろ……」「いや、大丈夫だソウ。メクルが言いたい事は大体分かった」
それにしても…………そうか。たしかにこいつらからしたら俺は意味が分かんねえわな。ただの実技が得意なFクラスの生徒かと思えばあんな言葉をクルセウスに向けて言える。それに魔素量の無い俺はそもそもこの学園に通う意味が無い。
俺がメクル達の立場だったらはっきり言って不気味だわこんな奴。
「そうだな…………悪いけど今の質問で俺が答えられるのは一つだけだ。それでもいいか?」
「大丈夫なのである」
「ソウ達は?」
そう言い俺はソウとドリアドの方を見る。
「俺は大丈夫だぜ」
「うむ、俺も大丈夫だ」
「そうか、分かった。俺が答えられるのは過去にあった出来事だ。それも一部だけどな」
「「「…………………………」」」
メクル達は無言のまま俺を見ている。それを、一部分だけでもいいという肯定として受け取った俺は続ける。
「俺は昔戦争に出てた。もちろん、魔王達との戦争にな」
「「「!!!!」」」
「そこで色んな悲劇を見たんだよ。魔物による蹂躙、仲間同士のいがみ合いによる戦線の崩壊、そして村人を囮に自分だけは逃げる兵士。多分メクルが言ってる、俺がクルセウスに放ったあの言葉はそういう出来事を体験してるから言えたんじゃねえかな。まあ、それでもそこまで褒められるなんて恥ずかしいけどな。あれはそんな大したもんじゃねえよ。ただただ俺が思った事を言ったまでだ」
「戦争に……行ってたのか? あれは一年前に終わった。だが戦争自体はそれ以前から始まっている。つまり、まだ十三、四くらいのお前が……」「ドリアド」
ドリアドの言葉をソウが途中で遮る。俺の事を思ってくれたのだろう。
戦争に楽しい事は何一つとして無い、あるのはおびただしい数の絶望だけだ。戦争を終えた者のほとんどはあの出来事がトラウマになってしまうほどに。
だからこそソウはドリアドの言葉を止めた。また俺が戦争の事を思い返さないようにするため。
「なるほど…………感謝なのであるよナツ氏」
「感謝?」
俺今感謝されるほどの事したか?
「うむ、感謝なのである。戦争はまさに惨劇のようだと両親にざんざん教えられたのである。そんな出来事をわざわざ某の疑問のために思い出してくれた。そんなもの感謝の言葉しか無いのであるよ。正直一番聞きたい事は聞けたし某は満足なのであるよ。ソウ氏とドリアド氏はどうであるか?」
「俺は大丈夫だ。まあ、人ってのは隠したい事は一つや二つあるわけだからな。なんも問題はねえよ」
「うむ、俺も満足だぞ。そもそも、それを疑問に思ってなかった。はははははっ! やはり俺は頭が悪いようだ!」
「そうか…………ありがとな」
こいつらが隠し事くらいで離れるとは思ってなかったけど、やっぱこういう事を言われると嬉しいな。
「さっ、じゃあこれからどうする? 暇になっちまったぞ」
この俺ららしくない雰囲気に耐えられなくなったのか、ソウが明るく切り出す。
「ふふっ、安心するのであるよソウ氏。某がトランプを持ってきたのである」
「いや、この歳になってトランプは幼稚すぎやせんか?」
「何を言うかドリアド氏! トランプは全年齢共通で遊べる大遊戯であるよ!」
「ほら、どうしたんだナツ。遊ぶぞ」
「ああ、そうだなソウ。…………よし、ババ抜きやろうぜ。俺のババ抜きでの天性の実力を見せてやるぜ!」
「いや、ババ抜きってほぼ運ゲーじゃん。実力も何もねえよ」
そうして俺達は寮の消灯時間までトランプを楽しんだ。




