第二十四話 根拠は二つだ
「ふっ、はははははははははっ! お前はいちいち笑わせてくれるな! 俺が間違ってるだと? どこだ! どこが間違っていると言うんだ!」
「まあ、たしかに俺達みたいな魔素量の無い奴等は魔王との戦争に強制招集されない。それについてはあってる」
「ははっ、だろ! 結局俺が……」「ただ!」
クルセウスの言葉を俺は途中で遮る。
「だからって否定していいとは限らない」
「はあ、お前今の話聞いてたか? お前らは俺らと違って戦争に行く義務が無いんだ。それだけでも否定していい理由になるだろ」
「いや、ならないな。魔素量ってもんは生まれた時点で量が決まるんだ。それだけで人の否定をするなんておかしいにも程がある。お前のその考え方がどれほどの惨劇を産んだと思ってるんだ」
「惨劇? どんなのだよ、言ってみろ」
「そうだな…………じゃあ説明の前にまず質問だ。例えばお前が戦場に出ているとしよう。そこでお前は自分でも到底敵わないような魔物に出会う。全力を持ってすればなんとか逃げられはする。だが、今お前が引いてしまったら村人が数人その魔物の生贄になる。さあ、その時お前はどうする?」
「そんな愚問を。勿論村人を庇うに決まってるだ……」「嘘だな」
自分の意見を食い気味に否定されたクルセウスは、あからさまに顔をしかめる。
「はっきり言う、お前ら魔素量の多い人間は決して村人を庇って死んだりなんかしない」
「はっ、そんなわけないだろ! 戦争に出る以上俺は国民のために命をかけて戦うつもりだぞ! 何を根拠に言ってやがる!」
「根拠は二つだ、まず一つ。魔素量の多いお前らは、魔素量の少ない村人ではなく自分が生き残った方が国の為になると心の底から思ってやがる」
元来、平民よりも貴族の方が魔素量は多い。その理由は魔素量は遺伝によって左右される事が大きいからだ。昔から魔素量が多く、民を守ってきた者が上に立ち、それ以外が平民となる。そのため、貴族の方が魔素量が多いのは当たり前の事だ。だから、この学園もほんの一部を除いて殆どの生徒は貴族の出身となっている。
「な、何を言うかと思えばっ。そんなわけないだろ!」「じゃあ聞くが、お前はなんで魔素量の少ない奴を否定するんだ?」
「そ、それは…………」
ここでクルセウスが先程フィンラルに言い放った事を言ってしまえば、それは魔素量の無い人間が役に立たない事を認める事になる。そうすればさっきの自分の言葉と矛盾して、確実に不利になるため何も言えないのだ。
「国の役に立たないからだろ。違うか? お前ら魔素量の多い奴等のほとんどはそうやって自分の事を正当化して絶対に村人を見捨てる。いや、囮りに使うやつもいるだろうな。しかも何が酷いって、後々その事を後悔しないって事だ。お前ら心の底から魔素量の多さが人間の価値を決めると思っている。だから自分が生き残るためなら魔素量の少ない村人がいくら死んでもなんとも思わないんだ」
「ち、違う! 俺は、け、決してそんな事しない!」
クルセウスは必死に否定するが、先程までの余裕はまったく無い。俺の少ない言葉だけで今までの自分の考えに不安になってくる。それほどこいつの正義は脆かった。
だからダメなんだよこの国の貴族は。小さい頃から魔素量こそすべてと教えられてるせいでまともな道徳心が育てられてない。
「お前のその狼狽えがもう答えだろ。お前は俺の言葉に動揺した。つまり自分が村人を庇うかどうか自信が無くなって来たって事だ。自分が今まで信じて来た事に自信を持てない。そんな奴が他人を否定してんじゃねえぞ。他人を否定していいのは自分の行動にしっかり誇りを持てて、それが正義だと心の底から信じられる奴だ。間違ってもお前みたいな奴じゃねえ」
いや、今のはちょっと違ったか。こいつは自信が持てないんじゃない。ただただ間違ってるだけだ。だから正論に言い負かされる、自分の正義を貫き通せない。
「くっ………………」
もういいか、ここら辺でやめてやろう。流石に容赦が無さすぎたな。
「メクル、ソウ、ドリアドを起こしてくれ。帰るぞ」
「お、おう」
「わ、分かったのである。ドリアド氏、起きるのでありますよ」
「…………ん? ああ、なんだ。もう帰るのか。ふぁ〜〜〜。うむ分かった、では行くとしよう」
「なっ、お前はっ、ドリアド・ドドンガ!」
ドリアドが起き上がった瞬間、周りにいた生徒達は驚いた表情を見せた。そしてその中でもクルセウスはかなり驚いたようで、声を出して驚いていた。
「リンドウナツ…………」
フィンラルは一人申し訳なさそうに俺の方を見る。フィンラル自身が言い返せなかったことを自分で責めているのだろう。
「ありがとなフィンラル。やっぱお前はいい奴だ。また会った時はよろしく頼む」
「ああ」
そうして俺達は様々な生徒に注目される中、食堂から出た。
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「……そういえばナツ。さっき言ってた根拠、一つしか言ってなかったけど、二つ目はなんなんだ?」
食堂から出てしばらく歩いていると、ソウが気になったように聞いて来た。ああ、そうか。たしかにもう一つの根拠は言ってなかったな。
「ああ、もう一つの根拠はだな………………俺が直接見てるって事だ」




