05
いつもの私なら、すぐに目を逸らして逃げるように帰ったはずだ。
だけど、なぜか足が動かなかった。怪我のせいだけではないのは何となく直感で分かった。目の前の女性の大きな瞳に捕らえられ、思っていた以上に整っている顔だったため驚いてしまった。何か話さないといけない。そうしないとあまりにも不自然だ。
「大丈夫ですか?」
「・・・えっ?」
だいじょうぶ・・・?目の前の女性が口にした言葉は意外にも私を気遣うものだった。何に対しての「大丈夫」なのだろう。そんなに辛そうな顔をしていただろうか。しかし、どちらかと言うと私の方がそれを口にするべきではないかとも思った。
「隣、どうぞ?」
「・・・!」
女性は私が座るためにベンチに置いていたリュックを下へ降ろした。3人くらいは座れそうなベンチではあったが、申し訳ないが私はこの場所自体に用はなかった。しかし私が最終バスを待つために立っていると思われたのだろう。
「あっ・・・ごめんなさい。このバス、私の家とは反対で・・・」
「・・・。」
そう言うと女性は黙り込んでしまった。まずかっただろうか。しかしこう言わなければ家には帰れない。失礼かもしれないが後々嘘がばれるよりはマシだろうと思った。
「・・・わざわざ、すみません」
念のためもう一度謝る。気を悪くしてしまっただろうか。
女性は何も言わない。私と目が合わなくなってしまった。下を向いて、何かを考えているようにも見える。もしかして、怒られる?何が来てもいいように覚悟しないと。そう思った瞬間、彼女は顔を上げた。
「私、死ぬんです」
「・・・?」
「だけど、死ぬ場所をまだ決めてないんです」
「・・・は??」
「一緒に、探して貰えませんか?」