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生きる居場所を探して  作者: みむまに
Artist
3/13

03



「・・・?」


 異変に気付いたのはレッスンが終わり、自分の荷物が置いてある場所へ歩き出した時だった。


 右足が痛い。筋肉痛などではなく、足を踏み出す度激痛に襲われる。正確には足首のあたり。もしこの空間に誰もいないならきっと声を上げていた。だけど先生もメンバーも、みんな残っている。とりあえずこんなところに突っ立っていたら邪魔になるしまた何か言われかねない。なるべく負荷をかけないように端の方へ向かう。


 シューズを脱ぐと、右足首が分かりやすく腫れていた。どこかで捻挫でもしただろうか。周りが男子メンバーということもあり、手の動かし方や足の幅などは私以上に大きい。そのため気持ち大きめに体を動かさないと揃っていないように思われてしまう。きっとどこかで変な一歩の踏み出し方をしたのだろう。湿布を貼って休めばマシになるだろうと思っていた。



「い”っ・・・!!」



 立ち上がった瞬間、先ほどとは比にならないくらいの痛みが襲いかかった。思わず声が出てしまったから、誰かに見られたかもしれない。だけど、そんなことがどうでも良くなるほどに耐えられなかった。


 左足だけで身体を支えることもできず、その場に倒れ込む。頭上から「大丈夫?」という声が聞こえた気がした。あまりの痛みで誰かの声を聞く集中力まで削がれている。反応したいが声も出ない。とにかく喋る力が戻るまで待って欲しかった。


 気付いたら目を閉じていた。少し治まって目を開けて見ると、メンバー3人が私のところへ集まっていた。どうやら足が腫れていることも知っているらしい。

「めっちゃ痛そう・・・痛いよね。いつから?」

 話しかけてきたのは、副リーダーの折原優くんだった。少しでも腫れを引かせようと、折原くんはペットボトルを私の足首において冷やしてくれた。ただ、だいぶ前に買ったのだろう。かなりぬるくなっていた。

「・・・さっき、気付いて・・・足見たら、こうなってた・・・」

 『3rd Stage』メンバーは全員、奇跡的に同年齢ではあるけれど、折原くんとは恐らく、唯一まだ気楽に会話できるメンバーだった。相手はそう思っているか分からないけれど、私に話しかけてくれるのは大体折原くんだった。振り付けを少しだけ教えてもらったり、ステップを踏むコツも、折原くんから学ぶことが多かった。


「そっか・・・。太一たち、今マネージャー呼んでるから、暫くは動かない方がいいよ」

「・・・ごめん」

 本来なら彼らはそれぞれの帰路に着く時間だ。だけど、私が動けないことによってその時間を潰してしまった。明日も朝から新曲やライブに向けて集まらなければいけないのに。私は一体何度迷惑をかけるのだろう。申し訳なさしか募らなかった。今すぐ逃げ出したい。その手段が強制的に取られてしまっているのだけれど。



 私はその後マネージャーの車に乗せられ、病院へ行くことになった。








「折れてますね」

「・・・は?」


 医師の発言に対し、マネージャーが聞き返す。たった6文字の言葉ですら飲み込めないほど、こちらにとって非常事態だった。


「足首の骨折です。骨の位置はそこまでずれていないので手術の必要はありませんが、暫くはギプスで固定する必要があります」

「・・・。」


 私自身は、思いのほか冷静だった。2週間後に迫る新曲のMV撮影や、2ヶ月後に迫るライブなど、イベントは目白押しだが、なぜか医師の言葉をすんなり受け入れた。私にとって『3rd Stage』は、そこまで大きくない存在なのだということがなんとなく証明されたような気がした。本当にこのグループに命を懸けていれば、もっと焦っていたと思う。


 そんな呑気なことを考えている私とは裏腹に、マネージャーは必死に冷静を装い、医師に質問を投げかける。

「それって・・・どれくらいで治ります?」

 暫くは動けないとなると、ライブまでに間に合うとは思えなかった。ギリギリ治ったとしても、そこから全てを覚えるのは不可能に近い。ましてや誰よりもステージ経験の浅い私なのだから。


「完全に治るまでは・・・通常は2、3ヶ月。空野さんの場合は手術の必要もありませんので、そこまで長引きはしませんが・・・」

「えっ?え!?そんな・・・2ヶ月!?」

 信じられないといった表情をするマネージャー。恐らく次のイベントの出演は無理だろう。

「かなり足に負担がかかっていたのか、無理な方向に曲がってしまっていたので、その癖さえ治ればまた日常生活を送ることができます。ギプス期間は安静にして、そこからはリハビリなどを行なっていきましょう」


 無理に足を動かせば悪化する恐れもある。流石に「無理してでもライブに出ろ」とは言われなかった。だけど、「なんでもっと注意しなかったんだ」「やり方が間違ってたことくらい気づけ」と、院内で控えめに怒られた。間違いだらけの人生という歌詞をよく聞くけど、こういうことなんだなと心の中で思った。


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