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生きる居場所を探して  作者: みむまに
Artist
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02

 明日の朝、電車運休しないかな。


 レッスン後、1人駅のホームで考える。


 学校がある日はまだ良かった。だけど土日になれば1日拘束。歌にダンスに悪口に、重苦しい空気を吸いながら生活する日々。その日が近づく数日前から嫌な記憶が頭の中で充満し、すぐにでも逃げたくなる。考えたくもないのに考えてしまう、この癖はどうにかならないだろうか。


 こんなことを考えながら芸能界を生きているのは恐らく私だけだろう。ただでさえ厳しい世界であるし、デビューしている私を羨む人だって存在している。そもそも『3rd Stage』オーディションに落ちた人だって受かりたくて受けたはずなのだ。だけど私が受かった。右も左も分からない私が。


 私じゃなくて、もっと他に良い人がいたと思う。きっと他のメンバーもそう思っているだろうし、いつ直接言われてもおかしくないと思っている。







 2017年7月13日。


 私たちのグループが出した曲でさえも、日に日に聴くことが嫌になっていた。メンバーの声が嫌いというわけではなく、思い出してしまうのだ。私がどうしようもないほど何もできなくて、それを突きつけられる日々を。音楽は歌詞の思いとメロディーだけでなく、それを初めて聴いた時の記憶や当時の環境も鮮明に思い出させながら届けてくれる。


 だけど、それから逃げていてはいつまで経っても上達しない。自主練などは勿論しなければならない。特に今は、8月末に行われるライブに向けてさらにチームの気合が入っている。そして直近では2週間後に新曲のMV撮影がある。これ以上置いていかれる訳にはいかない。


 上手くなればいい。出来るようになれば誰も何も言わないのだから。








「・・・お前さ、マジで何回目?何回お前のせいで曲止めないといけないの?全部違うって言ってんの!!いい加減にしろよ!!」

 あー、また始まった。


 レッスン終盤の出来事だった。本当はこんなこと思ってはいけないのだろうけど、ここまで来ると最早心が冷静だった。1つひとつ言葉を分解してみて気づいたけど、ただ「違う」と言い張るだけで何が違うのかを言わない。ターンの仕方に手の動かし方。曲を止められてはやり方を変更して「違う」の一言。また変更しては「違う」。さらに変更しては「違う。マジであり得ない」とひたすら否定。「合ってる」とは言わない。何も言われなくなるだけ。諦めたのか飽きたのか、本当に正しく直ったのか見分けがつかないのが本当に嫌だ。


「もうお前、次のライブ出なくていいよ?冗談抜きで。あたしから言っておこうか?なぁ!!」

「・・・。」


 返答の仕方が分からない。早くこの時間を終わらせたいのに、上手くできない。目の前の先生が怒鳴っていることよりも、それを一緒に他のメンバーも聞いていて、連帯責任のようになっていることが最大のストレスだった。

「みんなもさぁ、言わないと駄目だよ!出来てないとこ言ってあげないと分かんないっぽいし・・・普通は自分で気付くもんなんだけどね!!」

 最悪だ。他のメンバーに当たられた。

「・・・すみません」

 リーダーの鈴村太一くんが謝罪する。きっと恨んでいるだろうな、私のこと。

「本当に困るよ!こんなことで時間取られたらあたしも嫌だよ!!みんなも嫌でしょ!?」

「・・・はい」

「はい」

「・・・。」

 メンバーが次々と返事をする。捻くれた解釈をすれば、私がここにいるだけで時間が無駄になるということだ。そして、メンバーも私の存在に困っていることを肯定した。


 それに関してはもう何も思わなかった。その判断が1番正しい。私が逆の立場でもそうすると思う。上の存在の言葉をとにかく肯定しておいて、この場をどうにか収めようとする。後で皆には謝罪しないと。そう思っていた。

「面倒なのは百も承知だけど、同じグループなっちゃったんだから、そこはちゃんとしなよ!?」









「・・・普段から、言ってはいるんですけど・・・」









 は?今なんて?普段から言ってる・・・?何のこと?


 鈴村くんが発した言葉を、私は理解出来なかった。指導も何も、普段から会話だってまともにしないのに。


「えっ!?それでも直さないの!?・・・本当に人としてあり得ない。辞めろよ、マジで」

 今度は低いトーンで私を責め立てる。だけどそんなことはどうでも良かった。鈴村くんはもう私をメンバーとして見ていない、100パーセント先生側についていることがこの場ではっきりしてしまった。そうじゃないと、さっきの発言はどう考えても余計だ。

「ねえ、何が目的なの?男子メンバーとただ一緒にいたいだけなの?媚び諂うためにここにいるんだ?そんな奴要らないんだけど?消えろよ!!迷惑だって何回言ったら分かんだよ!!!」


 そんなことは一言も言ってないし思ったこともないんだけど・・・もう先生の耳には届かないだろう。何を言っても無駄だ。


 罵倒はこの後も、レッスンが終わるまで続いた。



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