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魔王は何度も繰り返す  作者: 稲荷竜
十四章 空に路ありて
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91話 終極の始まり

 魔族とは。


 ……魔王を名乗るアンジェリーナの知る『魔族』とは、人とは異なる生命体だ。


 人は出生する。

 魔族は発生する。


 人は肉と骨と血でできている。

 魔族は、魔力でできている。


 それはアンジェリーナの知識においては『そういうもの』でしかなかった。

 そして平和でない世界において、それ以上掘り下げて考えられることがなかった。


 なぜ、そうなったのか。


 なぜ、そんなふうに存在するのか。


 なぜ━━


 ━━そんな存在が、生まれたのか。


「……なるほど、大地は『それ』をお望みなのですね」


 生命の絶えた砂の大地。

 褐色肌の男が両膝を着いている。


 (かげ)り切った日差しは砂漠の国に厳しい寒さをもたらしていた。

 真昼の灼熱が嘘のような、吐く息が白くなるほどの冷たさ……


 黒髪の彼が膝をついている場所には、ただ、砂があるだけだ。


 けれど男は━━カシムは、そこにある砂を両手ですくって、大事そうに握りしめて、語りかける。


「あなたは死するべきではなかったのです、リシャール。……大地もそれを、お望みだ」


 ……純白の光が、砂へと注ぎ込まれていく。


 光が注ぎ込まれた砂はきらめき、『物が落ちる力』に逆らって舞い……


 次第に、人型を形成していった。


 きらめく砂がはっきりと人のシルエットをかたどると、それらは静かに色づいていった。


 均整のとれた肉体を持つ、長身の男性だ。

 肌の色は白にほど近く、しかし病的ではない。

 指先にまで気力がみなぎり、ゆっくり握られた拳は力強い。

 真っ黒い長髪が砂漠の風に揺れる。


 そして、黄金の瞳が、開かれた。


「リシャール」


 カシムは呼びかける。


 リシャールは目の前で膝を着くカシムへと、黄金の瞳を向けた。


「…………ああ、なるほど。これが━━俺の生きてきた理由だったのか」


「あなたは人ではないものになったのです。この大地の意思に許されるものに……魔力と砂でできた、生き物……『大いなる流れ』の眷属……これより大地に満ちるであろう、人ではない一族の、最初の一人……」


 ━━魔族。


 魔族とは。


 人とは異なる生命体だ。


 人が肉と骨と血でできているのに対し、魔族は魔力でできている。

 魔族は出生せず、発生する。


 一見して『無』としか呼べないようなものから、魔力によって、発生する。


 ちょうど今、リシャールが砂と純魔力で肉体をかたどったように。


 リシャールは自分の裸身を見下ろして、パチンと指を鳴らす。

 すると純白の光をまとった砂が体にからみつくようになり、その砂は次第に布の質感を備え、衣服となった。


 真っ黒い服。真っ黒い手袋。真っ黒いマント。

 白い面相の中で、黄金の瞳がぎらりと輝く。


「カシム、今一度、お前の目的を聞かせてもらおうか」


「私に目的などありはしない。しかし……『大いなる流れ』の意思はきっと、世界のすべてをあなたと同じような生命にすることなのでしょう。美しく、大地そのもののような、そういう生命に……」


「承った」


 バサァ、とマントを翻し、リシャールはカシムに背を向けた。


 そして、星の散らばる夜空を見上げて、


「ここがおそらく、我が『繰り返し』の極点なのだろう。……このリシャール、いよいよ(・・・・)あなたの願いを叶えられそうだ」


「ええ」カシムも立ち上がり、「すべては、『大いなる流れ』の意のまま、願いのために」


 リシャールは肩越しに振り返り、笑う。


 楽しげに、満足げに……


 あるいは。


 嘲るように、ほくそ笑むように。

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