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魔王は何度も繰り返す  作者: 稲荷竜
十三章 意地の旅路
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90話 砂にまみれた告白

本日は2話同時更新しております。

先に89話をごらんください。

 ……それでも、背後を振り返ってはしまうもので。


 アンジェリーナとオーギュストは、たしかに進むと決めた。

 踏み出した足がすぐに風に運ばれてきた砂に埋もれて、一歩ごとに足を引き抜くために全力で踏み出さねばならなくって、それでも、少しずつでも、自分たちのやるべきことをやろうと決めて、進んでいたのだ。


 それでも、やっぱり、後ろは気になる。


 残してきた仲間たちが気になる。

 リシャールがいる。ミカエルがいる。バルバロッサだってあそこにいる。この三人に比べれば自分たちが未熟で、心配するなどおこがましいのはわかっているけれど……それでも、心配は、してしまうのだった。


 だから、オーギュストとアンジェリーナが、ほぼ同時に、もうとっくに見えもしない、砂塵の向こうのラカーン王都を振り返った。


 その時、白い光が、発した。


 ラカーン王都より北で、その光は発したようだった。

 なぜわかるかといえば、光が出た瞬間に砂塵が消し飛ばされるようになって、一瞬、王都までの視界が開けたからだ。


 その王都の背後、つまり北側の獣の軍勢がいるあたりで、光は起こっていた。


 なんの光なのか……


「…………!?」


 光がおさまったころ、アンジェリーナが言葉にならないうめきをあげながら、頭をおさえてくずおれた。

 だからオーギュストは光の正体について考察するより前に、アンジェリーナの横で屈み、彼女を気遣う言葉をかけた。


「アンジェリーナ、どうしたのですか?」


「……あの、光」


「先ほどの白い光?」


「そうだ。あの光を……我は知っている。……あれは、あれは……」


 アンジェリーナはしばらく地面を凝視したかと思うと、右目を隠す眼帯をむしりとるようにしながら、素早い動作で立ち上がり、ラカーン王都方面へと体ごと向き直った。


 そうしてジッと、すでに砂塵の向こうに消えたその方向をながめ……


純魔力(・・・)


「…………それは?」


 アンジェリーナが、左肩越しに振り返った。


 砂塵除けの布が風にあおられ、中にある銀髪がのぞく。

 赤い左目がオーギュストを捉える。


 その目は、奇妙な感情を浮かべていた。


 なんとも言い難いその目。

 ……オーギュストはそこにうずまく感情の中に『悲しみ』を見つけたから、アンジェリーナを支えたくなって、その横に並んだ。


 同じ方向を見ても、なにも見えない。すべては砂塵の向こうに隠れてしまっている。


「オーギュスト、我はすべてを思い出した」


「……すべて、ですか」


「うむ。……この先の未来の話だ。今ではない、はるかはるか遠く、オーギュストが寿命を迎えたよりも先の未来……」


「……」


「世界は、あの輝きによって滅ぼされる」


「……」


「ここが時代の分岐点なのだ。平和を願い、眠りにつき……勇者どもの光の魔力により、我は時間を遡行した。滅びを止めるために。平和な世で再び……平和になった未来で再び目覚める、そのために」


「つまり、君は……なんなのですか?」


「魔王である。そして……」


 アンジェリーナがオーギュストの方へと向き直る。


 背の低い彼女が自分へ向ける視線を、オーギュストはまっすぐに受け止める。


 赤い左目と━━


 黒い、右目。


 ずっと、ずっと、赤くしか見えなかったその目は、今、オーギュストから見ても、たしかに黒く染まっていた。


「『始まりの魔王』……『魔皇』を倒し、世界を滅びから救うために、ここに来た。滅びゆく未来を断固拒否し、敵味方の別なく世界を救う意思を持つ者たちで協力し……時代を遡る旅に出た、未来の魔王なのだ」


 それは、か細い可能性にすがって、絶望的な成功率に目をつむって……

 多くの者の願いを背負った、長く苦しい、旅路なのだった。


 けれど、なんとしても目的を達成しなければならない。

 退路はなく、退く気もない━━意地の旅路。


 成功保証のための切り札などなく、作戦なども立てようがなく、それでも絶対に成功せねばならない、意地以外はなにもない、長い長い、旅。


 この旅には大義があって、数多の人命がかかっていた。

 少々の犠牲など(いと)うべきではない、大事な大事な、世界のための旅。


 だが……


「……意識がはっきりしている周回(・・)は初めてゆえに、今、ここで謝罪をさせてほしい」


「……謝罪?」


「……我は、幾度もアンジェリーナを殺したのだ」


 大事の前の小事。

 大義のための尊い犠牲。

 大仕事のための不可避のダメージ。


 けれど、この周回において、アンジェリーナとして過ごしてきたから、思う。


「一人の『恋する少女』を殺し続け、我はこの時代への顕現へ挑戦し続けた。━━我は幾度も繰り返したのだ。世界を救うために、一人の少女を殺すという蛮行を」


 その謝罪を本当に向けるべき人物はもういない。けれど、自分が奪った命のそばにいた人へ謝りたい気持ちはずっとあって……


 それが、彼へ尽くそうという気持ちと……

 彼に好かれるわけがないという気持ちとして、表れていたの、だろう。


 世界を救うために、一人の少女を、殺し続けた。


 そしてきっと、ここで終わらなければ、これからも殺し続けることになる。


 なぜなら━━未来の魔王は、繰り返すから。


 意地の旅路は終わらない。魔皇を倒す、その日まで。

十三章『意地の旅路』終了。

次回更新は遅くとも6月末。

書けたら早めに更新はありえます。

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