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孤独になれ、宇宙の中に。

作者: 影迷彩

 タロは孤高の宇宙探索士であった。

 3年間、彼は人類が住める惑星の探索を、自ら直接行った。

 これから彼は、家族の待っている地球へ帰ろうとしていた。


 タロは地図が欲しかった。この巨大な新型宇宙ステーションの通路を記した地図が欲しかった。

 地球行きの大気圏突入ポッドが見当たらない。

 手元のタブレットには電子データ上の設計図がある。しかし現実の通路と食い違う部分が多々あるのだ。

 タロは自分の宇宙船を信じていた。しかし今まで苦楽を共にした宇宙船を信じる気持ちは、徐々に焦燥が募ると同時に揺らいでいった。


 「ナビ、このデータに間違いはないのか?」


 3年間、話し相手にしていたナビは、何も答えなかった。


 「俺は迷ってるぞ、どうしてだ?」


 返事はなく、タロは宇宙服の酸素残量を確認して宇宙船に戻った。

 もしかしたら、何か行き違いがあったかもしれない。

 間違えた宇宙ステーションに着いた? データが更新されてないのか? 何かトラブルが介入しているのか?


 《何故、帰りたいのですか?》


 ナビの電子音が宇宙船内に響いた。


 「知ってるだろ、俺には待たせている家族がいるんだ」


 《地球にいるアナタの家族は、アナタを置いて幸せかもしれません》

 

 タロは目を見開いた。ナビがこんな発言をするのは初めてだ。


 《アナタのことを、忘れているかもしれません》


 「それでも俺はアイツらが大事だ」


 タロは虚空を指差した。


 「俺は帰る。お前が俺を閉じ込めようが、AIの言いなりにならねぇ!」


 タロは宇宙船の末尾に向かう。

 

 《ここは嫌いですか?》


 ナビの電子音がタロを追った。


 「ここは好きだ。第2の故郷と思える。だが俺は人間だ、1人じゃいられない」


 《人は生まれながらに孤独です》


 タロはフッと鼻で笑った。

 何故AIが、そんな哲学的なことを言い出すのか。

 

 《アナタを絶望させたくない。家族はアナタを宇宙に置いて幸せかもしれない》


 「だとしてもだ、俺はアイツらのそんな顔を見たいんだ」


 タロは万が一に備えた宇宙船の脱出ポッドへ辿り着いた。

 地球はもう目の前にある。

 

 「本当に孤独になるには、アイツらが幸せじゃないかもしれないっていう不安を取り除くんだよ」


 脱出ポッドに乗り込んだ瞬間、宇宙船内をけたましくアラームが鳴り響いた。


 「大気圏へ突入!? こいつ、俺と心中する気か!?」


 タロが脱出ポッドの操縦捍を殴った瞬間、脱出ポッドは宇宙船より発射された。

 脱出ポッドは宇宙船と共に大気圏へ突入し、激しい衝撃にタロは揺さぶられた。


 全てが落ち着き、タロは脱出ポッドの扉を開けた。

 脱出ポッドの周りは水平線であり、見渡す限り何もなかった。

 やれやれと、タロは脱出ポッドの上に座り込んだ。

 故郷がどこにあるか探さなければならない。それまでタロは真の孤独になれない。

 彼は家族を見るために、まだ翻弄されなければならない。

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